別れ話
続きまーす!
別れというのはどうも切り出しにくい。果たして俺と二葉さんは本当に付き合っていたのか甚だ疑問なので、より切り出しにくい。ただ、思い返してみると、二葉さんと何処かに出掛けた事とか夜に電話したりとか、そういう『恋人らしさ』はやったことがないなと思った。
どちらかというと、やはり俺と二葉さんというより、雪矢と二葉さんの方が俺自身しっくりくる。しっくりしてしまえば、何故だろう。あんなに恋い焦がれていたのに、ストンと府に落ちる。
釣り合いが取れてないとか、雪矢と二葉さんの内緒話も俺で笑いを取るためだったんじゃないかとか、そんな事どうでも良くなってくる。一年以上片思いしてる奴の末路ってこんなものかと冷静な自分がいる。結ばれても本当の意味で好きになってもらえなかったらこんなに寂しくて悲しいものなんだな、と。そうすると、感情が抜け落ちたみたいに相手への好意が泡となって消えていく感覚に陥った。
いざ、別れ話を切り出すと言っても人生で一度もお付き合いをしたことがないせいで、切り出し方がわからない。そうして、林間学校から一週間弱経ってしまった。今、ちょうどテスト期間中でこのテストが終わると数日を経て、晴れて待ちわびた夏休みがやってくる。
彼女が出来て初めての夏だと浮かれていたあの時の自分の頬を叩きたい。今叩いたらただの狂喜だ。当時の自分を叱咤したい。テスト中にも関わらず、答案そっちのけで窓の外を見る。梅雨明けも近く、晴れ間が続いている。雲から顔を覗かせる太陽はジリジリと部屋の中にいる俺の肌を射してくる。こんがり焼けたらどうしよう。半分やけて真っ黒とかキモいので焼けたくない。学校には速やかにカーテンを買ってもらいたい。そう要望に出してみようか、と真剣に考える。
「三隅ー。テスト中だぞー。顔は真正面に戻せよ」
注意を受け慌てて顔を戻す。みんなテスト中だから声をかけてこないが、肩で笑ってるのが見てわかる。恥ずかしい気持ちを隠すように残りの白紙の部分を埋めるのだった。
「三隅! さっきボーっとしてたんでしょ。前の座席だから見えなかったけど、いつもだもんね」
「あ……うん。ちょっと外眺めてたら大分時間経ってて注意されなかったらヤバかったかも」
何事もなく、話かけてくる二葉さんに一瞬動揺してしまったが、絶対に顔に出すまいと自分の胸に誓う。……どう切り出そうかと考えあぐねていると、二葉さんが大袈裟に声のトーンを上げる。
「そ、そうだ! 後でさ、話があるから放課後時間空けてくれない?」
「話? ……いいよ」
好都合だ。なんの話かはだいたいわかる。恐らく、二葉さんも別れ話だろう。それか、もっと良くない話か。例えば、もう雪矢と付き合ってるとか。……それはないか。二葉さんが俺を利用していたとしても二股はしない人だと信じてる。もしそういう話じゃないとしたらなんなんだろう?
ただ、都合が良いのは間違いではない。今日、別れ話をしよう。どうせ、俺と違って二葉さんは本気じゃないし、そんなに傷付かないだろう。逆に言えば、こんなモブに振られたなんて知れ渡ったら経歴に傷が付きそうだ。
放課後、なんとなく告白された校舎裏を指定してしまった。まあ、始まりが校舎裏なら終わりも同じであるべきだろうという安直な考えだけど。相変わらず、二葉さんがソワソワしてる。首を傾げるが答えなんてわからない。
「「あ、あの」」
狙ったかのように見事にハモる。
「あ、二葉さんからどうぞ」
「え。あーごめん。ささっと言うね」
次の言葉になんでもっと早く言ってくれなかったんだと内心毒づいた。
「今週の日曜日映画行かない? 見たい映画あってさ。テストも金曜までだから……どうかな?」
林間学校での二人の姿を見る前、もっと言えばあの時の内緒話も聞いていない時に誘ってほしかった。そしたら、純粋に喜べたかもしれないのに。
今になっては皮肉に聞こえてしまう。興味はないけど、付き合ってるから一応ね、って。そう言ってるようで……。
苦笑混じりに口を開く。
「遠慮させてもらうよ」
「え? あ! 映画もしかして嫌いな人? だったらショッピングでも―――」
「ううん。映画は本当に好きな人と行った方がいいよ」
「え? 何言って―――」
「大丈夫、わかってるから。邪魔しないよ。だから―――」
目を閉じて大きく息を吸い込む。最後まで心は叫んでた。
「俺と別れて下さい」
別れたくない―――。
山場を作るの結構大変ですね…。さあ、二人の恋路はどうなるのでしょうか?




