決意する
林間学校も終わってしまう。
届かないものに手を伸ばす。誰しも一度は経験があるだろう。俺もそうだ。どうしても手に入れたくて―――懸命に手を伸ばすけどいつもあとちょっとで手が届かない。
初めて諦めたのはいつだっただろう。雪矢が当たり前のように側に居て、雪矢の一挙手一投足に周りが一喜一憂して……すぐ隣で見ていた俺は、最初は必死だった。雪矢に追い付きたくて、雪矢みたいになりたくて、でも結局なれなかった。
雪矢が輝く星なら俺は道端にある石ころ。石ころがどんなに磨かれても決して輝く事はない。俺は原石でもなかったということだ。届かない星に手を伸ばして結局届かないのであるなら、早々に諦めてモブになってしまえばいい。
そうして、10年という月日が経った。だけど、そんな俺にも転機が訪れて生まれて初めて彼女が出来た。しかも、好意を寄せていた人と付き合えるなんて、人生捨てたもんじゃないと歓喜した。
けど、結局届かない星に手を伸ばした所で掴む事なんて最初から出来っこなかったんだ。
「晴香!! 良かった無事で!」
「祐子……」
俺に詰め寄る相沢さん。おぶってた二葉さんを降ろしてあげる。感動の再会に水を差さないようにそっと離れた。
その後、駆けつけた教師陣に説教を喰らったのは言うまでもない。だけど、思いの外満足してしまっている自分もいた。二葉さんが無事で本当に良かった。
慌てた様子で雪矢と松田も俺に駆け寄ってくる。登るのが早いやつは降りるのも早いんだな、と関心する。
「聞いたぜ、秋人。大活躍だったんだな」
「急いで降りてきて良かった。二葉も無事だし、三隅も何事もなかったようだし」
「ありがとう、二人とも。先生達にはめっちゃ怒られたけど、どうにか見つけ出すことが出来て今更だけど安心したよ……」
今になって、手が震え出す。見つけられなかったらどうしよう、迷ったらどうしようと内心不安だった。その恐怖心を払拭出来ていたのは他でもない二葉さんのおかげだ。彼女が居たからカッコ悪い姿を見せられないと奮起出来た。
二葉さんも先生達からお叱りを受けたけど、無事だったことを喜ばれていた。その二葉さんが相沢さんと共にこちらにやって来る。
「三隅、今日はありがとう。本当に助かりました」
ペコリと頭を下げられる。そんな事されたことがないから若干焦る。
「どういたしまして。そんな畏まらなくていいよ」
「ううん、ほんとに怖かったから」
「……そっか」
「うん……」
もともと不穏な空気が林間学校の間流れていたけど、今はまた違う空気が流れてる。むず痒い。照れ隠しの為に頬を掻き、松田と相沢さんを交えて喋り出す。暫くすると、二葉さんと雪矢の姿がない事に気付く。
嫌な予感がして、松田達に断りを入れて周囲を探す。程なくして、建物の陰に二人の姿を発見した。手を上げて近付こうとした所で、ある光景を見てしまう。
二葉さんが涙を流し、雪矢の胸に飛び込んだ姿を。雪矢は困った様子で頭部に手を置く。離れるようにとも言わない。壁に張り付く形で身を潜め、その場から離脱する。
何度こうやって二人の世界を見てきたのだろう。その度に撃沈して……。学習能力がないからこういう思いをするんじゃないのか。そう考え出すと、次第に歩みがピタリと止まる。
こんなに辛いなら終わりにしてしまえばいい。そうだ。終わらせてしまえばこんな思いしなくてもいいし、今度は俺が真っ向に二葉さんをサポート出来るようになる。確かに二葉さんの事は好きだ。だけど、叶わない恋を続けるのは俺もしんどい。
仲睦まじい姿を見たら、胸が締め付けられるだろう。けど、所詮二葉さんは俺のことなんて好きじゃない。―――なら、この恋を止めるのも二葉さんが雪矢とくっ付けば済む話じゃないか。そしたら諦めがつく。
そうやってずっと自分を偽ってきたのだから、今回だって出来ないわけがない。
所詮、石ころは満天に輝く星に届くわけがないのだから―――。
林間学校が終わり、振替休日を挟んだあとの登校日、俺は二葉さんを告白された校舎裏に呼び出してこう告げた。
「二葉さん、別れよう」―――と。
秋人が行動に移す決断をしました。晴香は果たして何と答えるのか……。




