プチ遭難
すれ違いも大変だー。
俺は今まで何かに熱中した事とか、一途に一つの事に本気になった事がなかった。小さい頃から幼馴染の雪矢と比べられ、実の両親も俺より雪矢に信頼を置いている。まあ、俺が頼りないから雪矢に頼むってのもわかるんだけど。
だから、雪矢みたいに勉強があまり出来ない代わりにスポーツに打ち込んだりとかもしたことがなかった。平々凡々。それが俺、三隅秋人だ。
比べられて悔しいとか、好きになった子が俺じゃなくて雪矢が好きなんて当たり前過ぎて、年齢を重ねるうちに割り切ってしまうようになった。
今回も二葉さんが雪矢を物にする為に俺に近付いたと思い、盗み聞きして勝手に傷付いた。一瞬好かれてるんじゃないかとかよぎった自分が恥ずかしい。
恥ずかしいけど、彼女を失いたくない―――関係を崩したくないからと目を背けた問題と面と向かって対立しなくちゃいけない時が来たのだと思う。
それが今だ。今動かないと二葉さんに聞けれない。雪矢とも肩を並べられない。―――もう片思いは終わりだ。
「二葉さーん! 聞こえたら返事して!」
大きな声で呼び掛ける。相沢さんから聞いた別れた場所まで来たが、返答がなく少し焦る。そんなに遠くには行ってないはずだ。
ずっとヒーローに憧れていた。雪矢がそのヒーローなんじゃないかと思って、彼の近くに居たら俺も輝けるんじゃないかと思って……ずっとずっともがいてた。だけど、雪矢が学校内で有名になればなるほど、俺は金魚の糞扱い。終いには、好きな女の子を振り向かす事も出来なくて、利用されて―――いや、違う。俺が行動に移さないからこんな結果になってしまったんだ。
焦れば焦る程、脳内でごちゃごちゃと考え事をしてしまう。木を掻き分けながら、声を出す。
「二葉さん! どこにいますか! 居たら―――」
微かに木々のざわめきの中に声が聞こえた気がした。そんなに遠くない。ずっと……ずっと1年以上聞いてきたんだ。意識しなかった日はなくて、彼女の声が聞けたら嬉しくて……俺を見てくれない事に悔しさを覚えて……。それでも好きだからと目で追ってしまって。
聞き間違えるわけがない。絶対に二葉さんだ! 声を頼りに辺りを探す。岩と岩の間から下を覗くと、二葉さんが傷だらけで疼くまっていた。
「二葉さん!」
「み、三隅……」
「待ってて! 足場確保するから!」
疼くまっているということはやはり足を挫いたのだろう。人を担いで参道まで戻らないといけないので、一生懸命地盤を固め落ちないように工夫する。二葉さんが泣き出しそうな顔をしながら、待っている。ようやくたどり着き、落ち着いた声で話し掛ける。
「良かった、二葉さん。無事で。どこか怪我してない?」
「す、少し足挫いちゃって……普通にしてたら痛くないけど踏ん張ったら痛くて……足滑らせて落ちちゃって」
「頭打ってなくて良かったよ。急いで下山するから俺の背中乗って。おぶって降りるから」
よく見ると、長ジャージに血が滲んでいる。膝を擦りむいたらしく、とても痛そうだ。上に着ていたジャージを脱いで二葉さんの肩にかける。遠慮するが聞く耳を敢えて持たない。
「え! い、いいよ! 重いし、三隅に悪いし……」
「大丈夫。男だからこのくらい平気だから」
まだ、ぶつぶつ何か言ってるいるけど、埒があかないので早急におぶらせて頂く。「きゃあ」と可愛らしい声ととある物体が背中に押し付けられて、役得です。……じゃなくて、さっさと降りよう。慎重に参道へと戻る。坂を登る形でおぶって上がるので正直キツかったが絶対に口に出さなかった。
言ったら、蛇が出る。参道に程なくして戻り、下山を開始すると雨が降ってきた。
「二葉さん、俺の貸したジャージ頭から被るといいよ。多少濡れなくてすむでしょ?」
「え、でも……」
「どうせ洗えば良いことだし。風邪引いたらいけないからさ」
「―――うん。ありがとう」
「どういたしまして」
静寂が俺らを包む。お互いに気まずい相手だ。会話なんて途切れて当然。俺からしたら喋らないのはとても楽だ。息切れと体力の減りがかなり変わるし、何よりも二葉さんと普通に話せる気がしない。
ただ、林間学校が終わったら二葉さんとちゃんと話し合わなければ。俺から別れは切り出せないから―――惚れた弱味のせいで―――二葉さんから俺を振ってくれたら一番円滑だ。
滴る雨が頬を伝う。雨なのに何故か温かいと感じた。この時、誰かが俺の顔を見ていたら指摘してくれたかもしれない。―――なんで泣いてるの? って。
とうとう決断しましたね。さて、上手く切り出せるのでしょうか?




