飯盒炊飯
続きまーす!
飯盒炊飯―――それは、世の男性陣なら誰もが願うだろう。好きな子の作ったご飯が食べたいと。俺もその一人。ぶっちゃけめっちゃ食べたいさ。だけど、あのやり取りを聞いた後では、どうしても食指が進まない。
俺がこんなに悩んでいるというのに、件の雪矢は俺の心情など気にも止めず女子が作ってくれたカレーを掻き込んでいた。無性に横っ腹に肘鉄を喰らわせたい気分だ。誰のせいで、こうなっていると思ってんだ! と。
松田も松田だ。そんな鼻を啜りながらカレーを掻き込むんじゃないよ……アンニュイな溜め息も雰囲気も出ないじゃないか。食事が喉を通りにくくなったおかげで、5㎏体重が落ちた。食べてないわけではないけど、以前より食が進まなくなっただけだ。だから、見た目で気付く人も現れてしまうのは仕方ない。
「ほら、三隅も食べて? 美味しく出来たと思うから」
「あ、うん」
スプーンでカレーをすくい口に運ぶ。確かに美味しい。家のカレーより美味しいかもしれない……母にぶん殴られそうだな。
「ほんと!? 良かった! 結構自信あったんだよね……三隅、ちゃんと食べてる? なんか痩せたくない?」
「え……食べてるよ」
嘘だ。あまり喉を通ってない。言えば心配されるから、笑って誤魔化す。が、二葉さんの次の言葉でドキッとした。
「嘘……絶対痩せた。駄目だよ、育ち盛りなんだから。栄養バランスの取れた食事しないと! 今度お弁当作ってあげようか?」
「え!! い、いいよ! そんな……悪いし」
「大丈夫。一つ作るのも二つ作るのも一緒だから。作ってきてあげる」
一歩も引かない二葉さんにドキマギする。ちょっと前までこんなに頑なだったっけ? どちらかと言うと、俺を少しからかって面白がってるくちだったのに。どうやって断ろうか悩んでいると、俺にとっての救いの対象―――相沢さんが話に割り込んできた。
「何々? 晴香、三隅にお弁当作ってあげるの?」
「マジかよ! いいなあ、三隅。羨ましいよ。もしかして、二人って付き合ってんのか?」
「付き!」
その後の言葉を発する事なく、松田の一言に二葉さんは動揺して固まってしまった。何故かショートしているようなので、俺が代わりに答えることにした。
「そんなんじゃないよ。俺が痩せてるから二葉さんが気を利かしてくれただけなんだ。安心して、作ってもらうつもりないから」
「だよな!! 三隅は同士だと思ってたよ。誰かさんと違って。良かったわ。色恋沙汰じゃなくて!」
肩を組んでくる松田に渇いた笑いで返す。話題がカレーの話に逸れたので、目だけを二葉さんと雪矢に戻す。相変わらず雪矢は何杯目になるかわからないカレーを勢いよく平らげている。二葉さんの方は何故か不貞腐れた顔だ。
スプーンをカレー皿に何度も打ち付けている。若干怖いがそのことには触れずに目を逸らす。
なんか、何度も見る光景な気がして、既視感を覚える。以前は雪矢と俺が話ていると、不機嫌で―――今は、俺が遠慮したり否定したら機嫌が悪くなる。
大好きな空を仰ぎ見ても、結局答えは返って来なかった。恐らく、俺の不甲斐なさに腹を立てているだけだろうと、気にも止めず、林間学校1日目を終えた。
どうでしたか? 展開に納得出来ない方もいるかもしれませんが、コンセプトはじれじれ―――つまり、すれ違いです。このまますれ違っていくのか、見守ってあげてくださいね。




