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林間学校

シリアス展開。

不穏な空気のまま、林間学校へ旅立つ朝になった。重い足取りで学校の校庭へ向かう。学校が用意したバスは合計6台。俺の乗るバスは2号車。2という数字は好きなので、本来ならテンションも吊られて上がりそうだが、今回はそんな風には思えなかった。


「おー、秋人おはよ。荷物多いな?」


「おはよう。念のためだよ。そういう雪矢は少なすぎじゃない?」


「そうかー? 着替えと細々したもの入れただけで、あとはいらないだろ」


「だとしても……少なすぎると思うよ」


呆れ口調で雪矢の私物に苦言を言う。だって、通学鞄でも通用するリュックサックのサイズが半分程しか埋まってないことが、見てわかるのだから。上がペタンコで妙にバランスが可笑しい。


「まあ、どーにかなるっしょ! それより楽しみだよな! こういう行事」


「雪矢のポジティブさには時々すごく関心するよ」


「おう! ありがとな!」


「褒めてないんだけどね」


雪矢と話していると、同じ班になった松田も合流してきた。3人で盛り上がっていると、集合の号令がかかる。急いで、班事に並ぶ。こういう時の先生達ってすごくピリピリしてるから、刺激しないようにしないと。大目玉喰らいたくないし。


出発前の注意事項を先生が呼び掛け、各バスに乗り込んでいく。ここから憂鬱な時間が始まる。少し前まで嬉しくて舞い上がっていた事案が今は苦痛な時間へ変わってしまった。それは、二葉さんも同じなようで、朝から一向に目が合わない。……いや。俺が頑なに見ようともしなかったからかもしれない。


さすがに隣同士なので、一声掛けておく。


「よ、宜しく」


「う、うん。宜しくね」


困ったような愛想笑い。無理してるのが痛い程伝わってくる。二葉さんは車酔いしないからと事前に窓側の席を俺に譲ってくれた。俺も酔いはしないけど、通路側の方が他のクラスメイトと近いし、俺と壁に挟まれるより過ごしやすいだろう。


有りがたく、窓側の席に腰を下ろし、恒例の窓から空を眺める。空を眺めると嫌な事など忘れられてホッとする。バスが出発しても俺達2人に会話はない。周りは林間学校の話で盛り上がっているというのに。時折、二葉さんの前座席の相沢さんが気を利かして二葉さんと喋る。そんな感じだ。


それを尻目に俺はより1人の世界にのめり込んだ。まあ、窓がお友達なんですけどね。すると、隣から声をかけられた。遠慮しがちな声が耳を撫でる。


「み、三隅。ポッキー食べる? たくさんあるから何本でもいいよ!」


ポッキーを俺に差し出しながら、俺の出方を伺う二葉さん。迷ったが、二葉さんの好意なので、他意はないはずだと受け取る。


「ありがとう。一本で大丈夫」


「そ、そっか……どういたしまして」


無言が辺りを包む。貰ったポッキーを口に含む。……甘い。モグモグと食べていると、こちらを見ている視線に気付く。思わず、そちらを見ると二葉さんが慌てた様子で顔を正面に戻し、ポッキーを勢いよく食べ始めた。


そういえば、二葉さんは俺が二葉さんと雪矢の会話を盗み聞きしたこと知らないんだった。そこに今気付いたからといって、じゃあ、「二葉さんて俺の事好きじゃないし、付き合いたかったわけじゃないんだよね?」とはどうしても切り出せない。


だから、俺の可笑しな態度が二葉さんにはわからなくて、本当は絶対戸惑っているはずだ。―――だけど、ビジネスな付き合いだと割り切る事は俺にはどうしても出来ない。そんな風に割り切ってしまえば、二葉さんも俺も楽なんだろうけど。


楽しいはずのこの時間を俺のせいで潰してしまって、ものすごく申し訳ないけど、大人になれない俺には結局どうすることも出来なかった。


明日までの林間学校、憂鬱だなとまた空を眺めながら内心溜め息を吐くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 雪矢がキーマンになってきてますね。 例の会話の内容的に、雪矢との間にも わだかまりがあって当然だと思うのですが 秋人がそれを出してしまうと 晴香に異常を察知されて、具体的な行動を促してしまう…
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