看病
のんびり書いてます!
この状況はまたもや恋愛イベントなのではないだろうか? たったの1週間弱でこんなにイベントが発生するなんて―――俺は幸運の持ち主なのかもしれない。それか、明日急に死んでしまうフラグが立ってて、その前に僅かな幸せを神様が謳歌させてくれているのか……それならなんとなく納得もいく。
現に今、二葉さんが我が家の台所でお粥を作ってくれている。俺の為に! 感激で血反吐が出てしまいそうだ。出たら病院送りなんだけど。それぐらい嬉しさに拍車がかかってる。
「出来たよー。勝手に鍋とか食材とか使っちゃったけど大丈夫かな?」
「大丈夫だと思う。そういうの全く気にしないから」
俺が一人身悶えしてると、二葉さんがお盆に小鍋と小皿とレンゲを乗せてやってきた。すごくいい匂いがする! ワクワクが止まらず目の瞬きの回数だけが増える。二葉さんは俺の待ちきれないオーラを察して、苦笑している。しょうがないじゃないか。女の子の―――ましてや、彼女の手料理なんて高校生活の中で食べれるなんて思わなかったんだから。
「慌てなくてもご飯は逃げないよ」
またクスリと笑われた。鍋の蓋を開け、レンゲですくって皿に移してくれる。優しい、気が利く。そして、美味しそう……。また、だらしない顔を晒してると思い、慌てて謝る。
「ごめん……」
「ううん、謝らないで? 可愛いと思っただけだから」
「かわっ!?」
「うん。可愛い」
また語尾が上がる。俺なんかよりも二葉さんの方が可愛い。口が裂けても言えそうにないけど、もしいつか面と向かって言えるのなら恥ずかしがらずに言ってみたいものだ。
その間一回も手を止める事なく、レンゲを動かす二葉さん。何をしてるのかずっと眺めていたが、理由がはっきりした。
「はい! これである程度冷めたと思うから……はい、あーん」
「ええ?!」
「もう、初めてじゃないでしょ? ほら、あーん」
「あーん」と返す事も出来ず、口だけ開ける。餌付けされてる鳥のようだったが、「あーん」ってどれだけの人が言える!? かなり気恥ずかしいものだよ。俺は到底無理かも。逆の立場でも無言でレンゲ差し出しそう。絶対。軽く恐怖だよね。無言のやり取り。
それよりも、「あーん」はしてくれたのにフーフーはしてくれなかったんですね。決してやって欲しいとか残念とか思ってないけど、ええ、思ってませんよ? ただ、こんなに至れり尽くせりなのにそこはやらないんだとガックリしてると、またもや俺の意図を汲んでくれる。
まさか二葉さんってエスパーなのかな?
「フーフーしてもいいんだけどさー、ちょっと恥ずかしいいよね。だから食べさせてあげるだけね? また今度しよ?」
「え……うん。じゃあ、よろしくお願いします?」
「ふふ、なんで疑問系? 彼女だからこれくらいいつでもやるよー。ただ―――」
ほんと彼女はずるい。俺の心を簡単にくすぐって離さないんだから。この後に続く、一言でこの日俺は、完全に沈んだ。何処にとは聞かないで。それは野暮ってものよ。
「今日は三隅がいなくて寂しかったから、今甘えちゃうね?」
甘えるって……甘えてるのは俺の方なんだけど。なんて、野暮な事は言わない。この幸せな時間を噛み締めていたいので、あえて黙っておく。美味しくお粥を頂き、二葉さんは土日しっかり休みなね? って言って帰っていった。念願のトークアプリのID交換も出来たし、とても充実した1日だった。
平常心を心掛けた結果、二葉さんが帰った後の部屋で枕に顔を埋め力いっぱい叫ぶ。
「俺を萌え殺す気かー!!!」
はあはあ、と荒い息をたてる。熱なんて当の昔に下がったはずなのに少し熱を帯びてきてる気がする。普通に血糖値が上がっただけかもしれないけど。
「ほんとにやめて欲しい……」
元から惚れてるけど、これ以上好きにさせないでほしい。二葉さんは雪矢の事が好きなはずなんだ。俺じゃない。なのに彼女は俺をものすごく構う。いい気がしないわけがない。からかっているのかと何度も悩んだ。でも、二葉さんの二人きりの時の態度や表情からはそれが一切見られない。
うつ伏せになり顔の上で腕をクロスさせ、目を瞑る。何処にもぶつけられない感情を抑える為に大きく息を吸う。吐いて吸ってと、何度か繰り返す事で少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。クロスを外し、目を開ける。決心が固まる。
「月曜日、二葉さんに雪矢の事どう思ってるのか聞こう。それに俺と付き合った理由も」
決意したおかけで肩の荷が少し下りる。ふと、また二葉さんの声が脳内でリピートされる。「三隅がいなくて寂しかった」……「今甘えちゃうね?」……もうね、録音したいレベル。若干、自分が気持ち悪い思考になってると自覚しつつもニヤニヤが止まらないのであった。
糖度が高すぎて作者も吐血しそう……。いや、砂糖吐きそう。




