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風邪

秋人はアキヒトと読みます。今更なのですが……。

人は何故過ちを犯すのか。それは多分、受け入れられない事があった時に犯罪に手を染めてしまったり、わかっていても何度も同じ繰り返しをしてしまうのが問題なんだと思う。


俺だってそうだ。こうしたらこうなるっていうストーリーが頭に浮かんでいたにも関わらず、結局過ちを犯してしまった。今言えるのは、あの時に戻りたい―――。


「ゴホッ! あー盛大に風邪引いたー」


ベッドの上から見慣れた天井を仰ぎ見ながら、鼻声で苦言を吐露する。


二葉さんと相合傘をしたまでは良かった。めちゃくちゃ緊張したけど。問題はその後恥ずかしさのあまり、全力で雨の中走って帰って冷水を頭からぶっかけた事が要因だ。―――バカなんじゃないだろうか?


百歩譲って走って帰るまでは許そう。誰に許しをこいてるのかわからないが。冷水を頭から被るなんて普通の人間の沙汰じゃない―――自分で言ってて、悲しくなる。病は気からとも言うが、本当にそうかもしれない。すごく気が滅入る。


風邪を引いたと雪矢にメッセージアプリで伝えると、返ってきたのは『大丈夫か? こうなるんじゃないかってなんとなく予想してたけど、ほんとになるなんてな。まあ、秋人が元気になるものを届けてやるから大人しく寝とけよ?』と、良き友達を持った事に感激し、涙腺が崩壊寸前だ。


それにしても、俺の喜ぶものってなんなんだろう? 桃の缶詰とかかな? あれ、旨いよね。特に病気の時に食べると尚美味しい。


あれ? だんだん眠くなってきた。やっと薬が効いてきたのかも……あ、そういえばもう付き合って5日経つのに二葉さんのアドレス知らないな。教えてもらわないと連絡が……とれ……。


意識を手放すのに時間はかからなかった。


「あれ? 寝て?」


頭が回らない。まだふわふわとしている。それもそうか。熱が39.5度あったし。久々に盛大に風邪引いたから熱も相当高い。喉の渇きと首筋から背中までの汗で嫌でも起きる。ただ、起き上がる気にはなかなかなれない。


「あー、喉乾いた……汗も気持ち悪いな」


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとう」


差し出されたペットボトルを受けとる。中は清涼飲料水で、僅かな甘みがとても美味しい―――って!


「なんで二葉さんがここに!?」


当たり前のようにペットボトルを受け取ったけど、今家には誰もいないはず。どうして二葉さんが俺の家の俺の部屋にいるんだ?! 回らない頭で考えても一向に答えが出ない。


「一条が住所と鍵の場所と部屋教えてくれたよ?」


雪矢!! 貴様の差し金か! ありがとうございます! 鍵の在りかを知られたのはセキュリティ上、雪矢を怒らなければいけないけど、働きは大いに感謝する。我が家に天使が舞い降りた。


「あのバカ……二葉さんもごめんね、来てもらって。無理やりだったんじゃない? 雪矢、強引だから」


「ううん? 私が三隅のお見舞いに行きたいって一条に言ったんだ。だから、無理なお願いしたのは私」


「そ、そうなんだ」


「うん。でも良かった。熱高めって一条に聞いてたから幻覚見えたらどうしようかなって身構えちゃった」


「そこまでじゃないから大丈夫だよ。怠いのと声が鼻声なだけだから。まあ、熱は確かに高いけど」


「そっかー。少し残念だなー」


「何が?」


「だって幻覚見えてたら三隅も積極的になってくれるかもしれないじゃん。押し倒してくれるとか? あーあ。身構えて損しちゃった」


上目遣いで俺を見つめる二葉さん。何かを求めているような……。目元も潤んでる気が……。いやいや、熱のせいで都合良く見えてるだけだろうな。だって、二葉さんは俺じゃなくて雪矢の事が好きなんだし。恋人関係になったから気を遣ってくれてるだけだよね?


おもむろに上体を起こそうと腕に力を入れる。思いの外、力が入らないことに驚く。熱が高いのは伊達じゃないらしい。俺がもう一度力を入れる前に、肩を支えられた。そして、そのまま枕に後頭部からダイブ。痛みはなかったが、驚きはあった。


「だーめ。大人しく寝てて? 三隅は病人なんだから」


「いや……でも」


「お腹空いてない? お粥作ってこようか?」


「そんな事までしなくてもいいよ、自分でやるし」


「駄目だよ。体に障るから。まかせて! こう見えても料理は得意なんだー」


「―――じゃあ、頼もうかな」


「うん。お利口に待っててね」


鼻先を人差し指でチョンとつつかれる。咄嗟に鼻を手で覆ったけど二葉さんはしたり顔で手を振って部屋を出ていった。


ふー。これがリアル彼女の為せる技か。破壊力抜群で塵になってしまうところだった。誰もいない状態だったら叫んでたと断言しよう。


「悶え死んでしまうやろー!!」


ってね。ほんとに笑い事じゃないから厄介だ。二葉さんが我が家にいるっていう時点で発狂しそうだったのに、俺の為にお粥も作ってくれるなんて! 今日が俺の命日なのかもしれない。どうせ死ぬなら二葉さんの手料理を食べてから死ぬと心に決めたのであった。

予約投稿を始めてからは20:00に設定しているのですが、皆さんリアルタイムで見てくれているのでしょうか?

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