両思いになれるその時まで
のんびりと書いていきます!
生まれて初めて恋をした。その人と付き合いたいと奔走するのは決して可笑しな事ではないはずだ。
友達にモテるやつがいる。幼馴染だから、そいつが小さい頃からモテていたのは知ってる。実際男の目で見ても格好いいと思う。羨ましいって昔は思ってたけど、今では『あいつも苦労してんなー』くらいに思えるようになった。だからそんなイケメンな幼馴染を持ってるせいか、自分に春が訪れるなんて考えもしなかった。
「季節巡るの早いなー」
「おいおい。この年でそんな事言ってるとこの先思いやられるぞ?」
呆れた声音で話す男―――一条雪矢。誰が見てもイケメンだと頷く容姿をしている。片耳だけピアスをしていながらも決してチャラついた雰囲気を出さない、真性のイケメンだ。金髪の頭髪や勝ち気な表情も、涼しげな目元で更にイケメンクールに拍車をかけている。
一方、しみじみと季節感を語っているのはこの作品の主人公でもある、三隅秋人という男。黒髪黒目。目立った特徴はほとんどないが、敢えて挙げるとすれば、人懐っこい柔和な目元だろうか。日本人、ましてや高校生なら黒髪黒目なんて当たり前だが、男友達であり幼馴染でもある雪矢と比べてしまうと、印象負けしてしまう。
そんな二人の熟年の夫婦なような会話を突如壊す人物が現れた。
「あー! 一条こんな所にいたんだー。探したよー」
「二葉」
二葉晴香が眉をハの字にして、腰に手を当て雪矢を咎める。
「言ったじゃん! 放課後は時間空けといてって!」
「ん? 何かあるのか?」
「ショッピングモールに新しいクレープ屋が出来たから、行こうねって言ったじゃん」
「あー」
雪矢は頭を掻きながら、良い言い訳がないか思案した。が、結局考えつかなかったので、矛先を転換することにした。
「秋人とゲーセン行こうと思って、忘れてたわ」
「はあ?! 私の約束よりも大事な訳!?」
キッと鋭い眼光を秋人に向ける晴香。睨まれた秋人は溜まったものではない。縮こまるように体を動かす。秋人に興味を失くしたのか、端から眼中にもないのかまた雪矢の尋問を再開する晴香。
「そもそも一条もね―――」
宥める雪矢と責める晴香を横目に、秋人は内心溜め息を吐く。チラッと晴香に目線をやると仲睦まじそうに雪矢とじゃれている。羨ましい気持ちとやるせない気持ちで秋人の心は締め付けられていた。そう、何を隠そう秋人は晴香の事をラブ的な意味で好いているのだ。
好きな人が自分以外の男と仲良さそうに話している。秋人は辛い気持ちをグッと心の奥底に押し込んだ。納得してしまう自分に嫌気が差す。方やイケメンクールな唯一無二の友達でもある雪矢。方や見た目はギャルっぽいけど世話焼きで好成績、スポーツ万能友達想いと三種の神器以上のスペック持ちのクラスメイト。お似合いじゃないわけがない。
似合いすぎてて入り込める余地がないからだ。モブとギャルとイケメン――どう足掻いても釣り合わない。そうわかっているからこそ、秋人は二人の掛け合いをいつものように少し距離を空けて、見守っているのだ。
「ほんと季節が巡るのって早いなー」
中庭から空を眺めながらしみじみと声を出す。二人の言い合いが日常化して、かれこれ約1年数ヶ月経った。いつの間にか二年に進級し、クラス替えを経て梅雨前になってしまった。去年は晴香とは違うクラスだったが、今年から3人とも同じクラスだ。
だが、晴香は秋人ではなく雪矢に興味津々。それがわかってショックを受けたが早くも1年経ってしまった。その間、二人の進展はない。雪矢が晴香を仲の良い女友達としか捉えていないからだ。今もじゃれついていて、少し鼻につく。
そんな風に静かに二人を眺めながら黄昏時でもないのに、黄昏ている秋人の身に予想打にもしなかった出来事が降り注ぐなど知る由もなかった。
「ヘクシュッ」
「「移すなよ(移さないでよ)」」
「移さないよ!」
……。上手く決まらなかったが、秋人に思いがけない出来事は降り注ぐ―――うん、はずだ。
次話から視点が主人公、秋人になります。
楽しんでいただけたら、嬉しいです。