元アイドルが異世界転生して
処女作です。思い付いたので暇潰しに書いてみました。小説の書き方もよくわかっていないド素人です。
カチャカチャと食器の接触する音が寂しく響く店内。窓の外は街灯が目立つほどに暗く静かになっていた。この店内に入った時はまだ夕暮れ時だったが、ここまで夜もふけるほどに、幾分かの時間は経っても、店内には店長とお手伝いである私だけ。
実は最近ここのお手伝いを始めたばかりの私は、未だに仕事内容に不安なことが多く、お客さんが入店されるだけで緊張してしまうほどのド新人だ。なので実はお客さんがいないこの空間に安心していたりもする。
しかし、この店も夜を生業としているお酒のお店。元の私の世界で言えば居酒屋、ここでは酒場。ここまでお客さんがいないというのはかなり問題ではないだろうか。
「ミアさん。少し休憩していいですよ」
店内の奥からひょっこり顔を出して、そう言うのはこのお店の店長ラセルさん。オーナーと言った方がよいのかな。
「ありがとうございます!まだ覚えられてないメニューとかの復習してます」
「はは。熱心なのは良いことです」
私は手元のメモを確認しながら、メニューを暗唱し記憶を確認していく。ここのメニューはそこまで多くないので、全てを暗記するのが難しいわけではないが念には念を。
「ほんとはお客さん相手に実践してもらった方が覚えられるとは思うんですが、店内がこんなもので申し訳ないですね」
「いえいえ!そんな」
そんな会話をしていると、店の開店扉のベルが鳴る。
お客が来たのかと身構えた。
「ようマスター。ご無沙汰だな」
それはそれは屈強な戦士と言ったような大柄のお兄さんの登場だ。
上半身には鎧のようなものをつけ、腰にはおそらく剣だろう物が見てとれる。
思わずまじまじと彼の姿を見てしまった私にラセルさんが声をかけてくれたことで、はっと仕事を戻った。
「お久しぶりですね。今回は長期になるとは伺っていましたが、ご無事にご帰還されてなによりです」
「かなり遠方の方の任務だったからな。移動にかなり時間とられた。内容的には簡単なものだったよ」
「さすがですね」
会話の内容的に、もしや冒険者さんとかだったりするんだろうか、、、と無粋にも聞き耳たてつつ手を動かす。
話には聞いていたが冒険者を間近で見るのは初めてなので内心興味津々だ。
「麦酒です。ごゆっくりどうぞ」
会話を折らないようタイミングを見計らって、お酒を彼の座るカウンターにコトリと置く。麦酒とは見た目がほぼビールのような、この世界でも主流のお酒らしい。
そこで冒険者さんの目が私を捉えた。
「ん?はじめまして、だな。新人か何かか?」
怖そうな見た目に反して、気さくな声。しかし目は鋭いし、髪は金髪だし左頬にでっかり十字の傷があるしで普通に怖い。
「あ、はい。先日からお手伝いとして入りました。ミアです」
「可愛いお手伝いさんでしょ」
「……」
ラセルさんのフォローも耳に入らないぐらいの眼圧で見られている。見続けられている。見すぎじゃないですかね
「あの、」
怖い。まだ見られている。てか眼圧やばい。眼圧で息苦しくなってきた。助けてラセルさん
「おいラセル」
「なんでしょう」
「ほんとに可愛いじゃねえか。大丈夫かよ店に出して」
「え」
どんな会話だよ、と内心で突っ込んだ後に言われた内容を理解して、ぽっと顔を赤くなる。こんな真顔で言われると、う、隠せない、、
「やっぱ危険ですかね、それは私も心配には思っていまして」
「まあここの店が全く繁盛していないのが不幸中の幸いか、」
「はっきりいいますねえ」
さっきまでの怖いとか眼圧とかがすっぱり消え去る。外見褒められるのはやっぱり嬉しいものだ。嬉しさが隠しきれず私は満面の笑顔でお礼を言った
「ありがとうございます!」
私がそう笑顔で言うと、その冒険者はピタリと固まり、次は瞬き一つせずに化石のようになった。そして数秒おいて生き返ると
「あんたの笑顔は太陽みたいだ」
そういって何かを手に握らせられる。チップだとすぐわかった
笑顔が太陽みたい、、以前何回も何十回も言われてきた言葉
過去のその時と今が一瞬重なって、ほんのわずかだけ私の時が止まった
「ちょっとうちの新人口説かないでくださいね」
「本心を言っただけだ、口説いてるわけじゃねえよ」
二人の声に、はっと我にかえる。ラセルさんからはチップをもらうことがあれば、それはしっかりと頂くものだと、教えを受けていた。しっかりとチップを握りしめてから再度冒険者さんにお礼を言う
すると冒険者さんは「ミアの笑顔を見れたから、もう一杯」と追加注文してくれた
「いつもは一杯だけなのに、ほんとにミアさんが気に入ったようですね」
私にむけてラセルさんは言う
私も心をこめて麦酒を入れた。そして全力の笑顔でお出しした
そこではじめて冒険者さんの屈強な顔が緩むのを見る
あ、こういう感じ、久しぶりだ。
私は嬉しくなって、その冒険者さんに問いかける
過去の経歴からか、完全に営業モードへと切り替わっていた
「あの、お名前を聞いても大丈夫でしょうか」
「ガリレイだ。冒険者をやってる。普段は王都をメインに活動してるんだ」
ガリレイさんガリレイさんガリレイさん。よし、覚えた
過去の経験からか、人の顔と名前を覚えるのは慣れている
「ガリレイさんですね、覚えました!」
「可愛すぎる」
ふふふ、とラセルさんが笑う
私も笑って、ガリレイさんに色々な話を聞いた。
どんどん追加注文していくガリレイさんに、毎回ラセルさんが驚きつつも嬉しそうに手を動かしていく
そして気付いたら、ガリレイさんは三時間も滞在していた
もう店も閉める時間だ
「こんな滞在するつもりはなかったんだがなあ まあいいか!」
「こちらお会計です」
すっかりお酒も入り上機嫌のガリレイさん
わりと高額だろう代金もすんなり支払い、椅子から立ち上がった
そして私を最後と見て
「ミアがいるなら、また来るな!」
と今日一番の笑顔で帰っていった。
私は手を降りながら、また過去を思い起こす。
また、会いに来てね。
そう何度も言って手を降った。あの幸せな時間。
もう戻ってこないと思っていたあの時間が、ここにあった。
ここでも、誰かの太陽に、なれるかもしれない
「あんなガリレイさん、はじめて見ました。もうすっかりミアさんのお客さんですね」
そう言いながら、そう笑いながら、ガリレイさんを見送る私に近付くラセルさん
「ミアさんは、人を元気させる、笑顔にさせる才能がありますね」
ラセルさんはにっこり笑う。私は頭が空っぽのまま、言葉を紡ぐ
「ラセルさん、」
「なんでしょう」
「私、昔は人を元気に、笑顔にする、仕事をしていたんです」
私は、元の世界で、日本という国で、アイドルをしていた
最初はほぼボランティアみたいな底辺地下アイドルで、やっとのことでAOO45のオーディションに受かって、少しだけ大きなステージで歌って踊って、握手会もして、私のことを推してくれる人もいて
選抜には入れていなかったけど、まだまだ頑張ろうって、そんな矢先に事故にあって死んだ
「人を元気にする仕事。ミアさんにぴったりですね」
「ありがとう、ございます」
事故にあって、この世界に転生して14年
日本での記憶はもう微かなものになってしまっているけれど、どうしても忘れられないものが、ずっとあった
忘れられなくて、この世界での生き方にずっと迷っていた
でもやっと、なんとなくだけど、道を見つけた気がする
「ラセルさん、私とりあえずこのお店で頑張ります」
「?? はい、頑張って下さい」
そうだよ、アイドルって、
「、、、べつに、どこでだって、皆さんに元気と笑顔は届けられますもんね!!」
「あい?あいどる?」
「はい!頑張ります!よろしくお願いします!」
「えっと、こちらこそ」
やや戸惑うラセルさんに満面の笑顔をおくり、手を掴んでブンブン振る
今の私は、やる気に満ち溢れているのだ
私はこのお店でアイドルになる。なにも歌って踊るだけがアイドルじゃない。対象だってファンだけではない。舞台だってステージだけではない
今の舞台はこの酒場「ラセルセル」だ
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。今後のお話も考えてはあるのですが、書くかどうかは未定です。