それを、呪いだと人は言った 2
※フィクションです!
以前書いたものの続きです。
連載するかは、筆のノリ次第です。
R2.3.1 加筆修正、よろしくない表現削除
薄給の、アルバイターに子どもふたりを養うことなど到底出来ない。
だが、新には"お金持ちなお友達"がいたのでそちらにきょうだいを頼むことにした。
「新さん、いくらお金持ちといえどただの友人の、しかも拾ってきた孤児なんて預かってくれるわけないじゃないですか。」
姉、左京は不安と困惑の入り交じったような眼で新を見た。緋に、暗く黒が混ざった瞳の色だ。「おまえは馬鹿か」とでも言いたげな、尖った視線だ。
場所は開店前の喫茶、の従業員控え室。この店の従業員は店長の他に、新しかいないので彼らの会話に聞き耳をたてている者はいなかった。
弟、右京は朝早い時間に起こされたせいもあってか、控え室のパイプ椅子に座りながらカクリカクリと船を漕いでいた。それを落ちないように、左京が支えている。
「大丈夫、大丈夫。あいつ結構な豪邸にひとりで住んでて部屋が余ってるらしいし、俺も時々下宿させてもらってる。いざとなったら、俺も交渉するし。
拾った責任くらいは、とらせてもらうさ。」
まったくもって安心できない、と左京は思う。もちろん世話をかける以上、あまりわがままも意見も、非難も出来はしない。
だがすべてを委ねるほど左京は、新のことを知らなすぎた。今を例えるなら、タヌキの乗った泥の船のような不安定さだ。
左京には弟、右京を守らなければならないという使命がある。ホイホイと気軽に船に乗ってはいけないし、どんな船に乗ったとしても弟だけは守らないといけない。
「それで、その方のお名前は。まだお聞きしてませんでしたね。」
世話になるかもしれない人、の名前ぐらいは聞いても良いだろう。左京は、新に向き直る。
「この前も思ったけど左京ちゃんは、言葉づかいしっかりしてるね。孤児院仕込み?それとも、」
ポリポリと右手で頬を掻く新。
「それとも、の方の仕込みです。ボスが厳しい方だったので。」
それを聞いても、新の頭の中には大きな唐辛子が出てくるだけだった。ボスと聞いても、唐辛子しか出てこなかった。
「うん、まあ礼儀正しいことはマイナスではないさ。
慇懃無礼で怒るやつは、大抵どうしようもない人だから。」
「いんぎんぶれいってなんですか。」
聞き慣れない言葉に、左京は首を傾げる。
「気にしないで。あいつの名前ねえ、なんだったかな。」
「まさか、忘れたわけではないですよね。」
左京の、緋色の瞳が見開かれる。
眼の開き方や昼夜、光の入り具合によって、左京たちの瞳の色は面白く変化することに新は気付いた。朝の、この時はルビーのような綺麗な瞳になる。それが彼女らの感情によっては、キラキラと輝くときもある。逆に言うと、彼女たちの感情が暗く沈んでいけばいくほど瞳はどす黒く、くすんでいく。
よほど近くで絶えず観察していなければ解らないような、僅かな変化だがそれは新には、新鮮で心地の良い驚きだった。
人生を潤わせるひとつは、驚きとはよく言ったものだ。
「まさかだよ、うん十年来の友人だからね。よくある話さ、あだ名で呼んでたら本名忘れたってやつ。大丈夫、存在は覚えてるから。」
存在を忘れたら、もうそれは。
ほんとうは2月29日にあげたかった・・・
(。´Д⊂)