表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうして僕を働かせるのか  作者: 3食おやつ付きお布団在住
1/2

1.Hello Death Work

あらかじめ言っておきます。主人公も仲間もクズしかいません、と。

床上とこがみ 不動ふどうはなんてことのないニートである。

現代日本において10%はいるといわれているなんて珍しくもない人種である。


しかし日本は大量の国債赤字を抱え、お世辞にも豊かな国とは言えなくなっていた。

そんな状態だからなのか、新しい法が制定された。

正式名「国家補填益材労働回収法」

通称「ニート撲滅法」である。


立ち向かうは国、ひいては世論。

明日もお布団の上で一日を過ごすため、新作のゲームを必ず最速で遊ぶため、やりたい仕事がない。

そんな人間達が手を結び、戦うことを決意しなくてはいけなくなった。

これはちょっと強引だけど別に悪いことでもないことしてる国家に立ち向かうレジスタンスの物語である。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



時刻は深夜3時30分

最低限のスタンドライトに照らされるのはやや痩せ寄りの不健康な少年。

目の前には3枚のPCモニターが彼の前面を囲むようにして並んでおり、すぐ横にはタワー型PCが排気の音を鳴らす。


コンコン


とても、まるで動物を刺激しないかのような控えめなノック

ヘッドフォンをしている少年はそちらを振り返らない


カチャ


小さく、必要最低限のエネルギーでドアを開ける音

差し込む廊下からの光が少年の目にささる


チッ


あからさますぎるほどの舌打ち

発生源はヘッドフォンの少年だった

ゆっくり開く扉がまるで怯えるようにブレる


「あの…不動、スクリプト?が得意なんだって?昨日✕✕工業のおじさんが褒めてたわよ」


声はドアの向こう、廊下から

言葉を話す者が、ヘッドフォンをした少年の母親であることが予想される


ヂッ!


ふたまわりは大きい舌打ち

そしてほぼ同時にヘッドフォンの少年は近くにあった空きのCDケースを掴むとドアに向かって投げつけた


ッシャアン!


プラスチック製のCDケースは分解し、甲高い音をたてる。

扉の向こうの母親から怯えたような小さな声にもならない声をあげる


「っせーぞババァ!んなこと言っても僕は働かないからな!いいか、絶対にだ!!!」


ヘッドフォンの少年が怒鳴りつけるとドアがゆっくりと

まるで猛獣を刺激しないように静かに閉じられる


(くそが、ことあるごとに理由をでっち上げてるのが丸わかりなんだよ)


ニート、それは社会問題になりつつある人種の呼称だ

働かず、養われるままに怠惰を謳歌する

引きこもりと近い意味を持つが、外から見たら同じようなものらしい

その扱われ方も出回りつつあるが、それが余計に苛立ちに拍車をかけているようだ


ヘッドフォンの少年はクシャクシャと頭をかくと、気を取り直したようにモニターに目を戻す

左のモニターにはネット上の友人たちとの会話・チャット機能を持つDislink

前のモニターにはつい三日前に発売された新作のゲームDarkness Soul

右のモニターには各種攻略情報のwikiページ、およびゲームの大手BBS6ちゃんねる

彼は新作のゲームの攻略中であった、今はちょうどボス戦前

もしボス戦の最中に母親が扉を開けた場合のことは想像にかたくない


(……気分が乗らなくなったな、今日は落とそう)


閉じられるゲームウィンドウ、あわせて攻略wikiとBBSも閉じられる

そして左のDislinkを閉じようとして、ふと彼の指が止まる


「……ニート撲滅法?」


それは彼の友人が送ってきた一つのウェブニュースURL

その見出しに彼の瞳が吸い込まれて、止まった


『社会問題の1つ、国内のニートを臨時労働力として担保、強制雇用する』


(…"強制"雇用?)


即座に閉じたBBSを履歴から呼び出す

6ちゃんねるでもその話題のスレッドが立っていたところであった


『【訃報】ニート撲滅法~オワ~』


即座に中を開く、そこにはニート撲滅法についての記載があった。

こちらの法が適応されるのは来年の4月から、すなわち今から10ヶ月後

順次、国の調査機関が調査し該当者に対してメールを送信する

こちらの対応を怠った場合、強制的に捕縛し就労施設に移送する


「……うそだろ」


カツン


うなだれた少年の頭からヘッドフォンが床に落ちる


ティントン♪


ビクッと少年の体が反応する

彼のメールの着信音である

彼の脳裏にはよぎっていた


『順次、国の調査機関が調査し該当者に対してメールを送信する』


彼の指が恐る恐るスマホを取る

新着メール 1件

画面にタップしようとする指が直前で止まる

それは恐怖か、怒りなのか、おそらく少年自身もわかってはいない


何秒経過しただろうか、彼の指が画面を叩く

メールが開く、題名にはニート撲滅法の正式名のみ

彼の震えが止まる


彼には思い当たりがあった

両親には辛くあたり、何度か政府からのカウンセラーも訪れた

それをことごとく追い返し、この今の生活を手に入れた

ニートであることは両親はおろか、周辺住民も請け負ったカウンセラーを通じて市役所も知っている

当然メールアドレスもその際にバレている、あれから別のメールには変えていない


メールが開かれる

彼は悟っていた。自身が選ばれて不思議でない人間であることを

彼は怒っていた。突然のこの仕打をした国を

彼は決心した。せめて思いつく限りの文句をそのメールで返信してやろうと


メールの本文を彼の目が追う

静かに何度も舐めるように

そこにはこう書かれていた


『我々は、ニート撲滅法に抗う者達だ。不動、君にもその意思があるなら我々と共に戦って欲しい』


ヘッドフォンの少年、床上 不動は静かに横にあったミネラルウォーターを飲んだ

緊張で乾いた喉を水が潤し、不必要に張り詰めた肩の筋肉をほぐしていく

そして不動はスマホをゆっくりと元あった場所に置いた

彼の顔は晴れやかだった


「よし、ダクソの続きしよ」


そして10ヶ月、来年の4月まで彼はそのメールの存在を思い出すことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ