6 竹田教頭の話
「いや~、偶然ってあるものですね~」
八津教諭が話しかけてくる
「・・・」
そこは返事ができない
佐藤が血まみれになって床に倒れているのを偶然と言うのはいかがなものか?
ここで首肯するのは間違っていると感じる
「それでは佐藤の方は教頭先生におまかせするということで・・・」
いきなり話を変えてきた
いきなり話が変わったと思ったら丸投げされた?!、と苦情を言いたい
でも言ったらまずそうな雰囲気だ
黙っていたら八津教諭が延々と子供が助かってよかったと言い続けてた
どうやっても父親をボコボコにした件に無理矢理、共犯者に引き摺りこむつもりらしい
貴方、何もしなかった
八津教諭が無実なのはしっかり証言しろ
しないなら、ただ居ただけで意味ないだろう?
しっかり証言するくらいしてください
そんな雰囲気だ
八津教諭が思っていることがなぜだか判ってしまう
なぜ判るのだろう
いや判ってしまうのだろう
判らなければ無視できるのに
そう思う
教師生活30年
私が教職に就いた頃は『聖職』だった
しかししばらくすると不良と呼ばれる生徒が現れ校内暴力が吹き荒れた
なんとか解決して下火になるまで10年近くかかった
ようやく平穏が戻ったと思ったら生徒が小賢しくなっていた
口が達者で言い負けそうになる
もっとの立派なのは屁理屈だけで人格は未熟だからやっかいだ
なにせ自分は間違っていないとなんの根拠もなく確信しているのだ
その対応に苦慮していたら今度は親が口出ししてくるようになった
自分本位の無茶な要求ばかり
・・・本当に人の親なのか?と思った
その後は学級崩壊だ
どの学校も1年から6年まで数クラスあれば1クラス位はなるという代物
・・・崩壊しているのは子供の頭とその親の常識だ、と面と向かって言わなかった自分を褒めたい
そしてとどめは虐待やいじめによる自殺だ
昔は近所の老人や世話好きといった常識ある人間が見ていた
だから最悪の被害というのは少なかった
でも最近では口出しするだけでストーカーやらの犯罪者扱いだ
もはや歳をとった教師では時代の変化についていけなくなっていた
校長が来ないはずだ
書類やら関係する所への電話が大変とか言っていたのはこのせいか
なんで付いてこないのか不思議だったが、よく判った
保身のため平気で逃げるくらいのことをしないと校長にはなれないというわけか