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紋章世界物語

掲載日:2019/03/12



魔物蠢くその世界。

異世界『デュアディード・ル・エイクス』。


俺は家の図書室で本を開いていた。


ーー人々は結界術師の張る結界に守られた町や村で生活し、魔物から身を守っている。

結界術師とは祈りにより結界を作る事の出来る術者の事。

結界術師は基本女性で、才能のある者しか使えない。

それは主に先天性。

後天的に使えるようになる事はないという。

同じように男は『解放術』が使える。

こちらも先天性で、後天的に使えるようになる者はいないらしい。

『解放術』は身体強化……肉体に封じられる『本来の能力』を引き出し解放する事。

俺はなんと、この世界に転生してこの『解放術』が使える家系に生まれる事が出来た。

先程も言った通りこの二種類は先天性。

つまり……ほぼ、血筋で決まると言っていいのだ。


「セーファス」

「は、はい! 父上」


本から顔を上げる。

銀の髪に、青の瞳、美しい容姿に白い騎士の服。

真紅のマントを翻らせ、図書室に入ってきたのは今世の俺の父、シュゼット・メデークラセ。

この人は十数年前復活した『魔人帝』と呼ばれる怪物を倒し、世界を救った八英雄の一人。

元はこの国の将軍の一人でありながら単独で国を抜け、処刑された王子の息子を探し出し護衛、同行した結果、そんなものと対峙する事になったのだという。

色々突っ込みどころしかないが、要するにこの人も怪物級の強さを誇る、という事だ。

偉大なる父に、偉大なる母。

ああ、そうさ。

俺の母上もまた、父上と同じように『魔人帝』と戦った魔導師なのだ。

そんな両親の間に生まれた俺は……いわゆる転生者。

しかし、そんな事とても言えない。

この父の前では、特に。


「読書もいいが剣の稽古は?」

「……あ、ええと、ほ、本日の稽古時間は、きちんとこなしました」

「ほう?」

「…………」


メ、メデークラセ家は建国当初からこの国の王家に仕える騎士の家系の一つ。

その中でも『血紋けつもん』と呼ばれる『解放術』『結界術』に特殊な能力が付属する家系。

の、中でも更に更に珍しい、魔物と契約したメダルを代々受け継ぎ、彼らと心通わせて共に戦う家系……。

ちなみに、王家は『王紋結界術』と『王紋解放術』いうものが使えるそうだ。

俺、見た事ないけど。

とにかく、そんな大変にプレッシャーが半端ないお家の長男として生まれてしまったのが俺、セーファスである。

いや、容姿はね、この父とあの母だ。

前世とは比べ物にならないほど勝ち組といってもいいだろう。

いやもう勝ち組だろ。

家柄良し、容姿端麗、加えて『血紋解放術』の家柄だ。

女として生まれていたとしても『結界術』が使えただろう。

そう! 俺は誰がどう見ても! どう考えても文武両道の名家のお坊ちゃま!

将来は父の跡を継いで、この家と国を守る将軍だろう!

……と、誰もが思う。……だろう。


「……セーファス、くどいようだが、剣が苦手ならばそれでもいい」

「……は、はい」

「我が家は騎士の家系。武に秀でていなくとも、軍略を学び、軍師として仕える事も出来る。だがお前はどうも……そちらの才もないように思う。父の見立ては間違っているか?」

「…………。い、いいえ」


合ってます。

すごい当たってます。

俺はそのどちらも苦手です。


「かと言って魔導の才もないそうだな?」

「うっ……」


はい、ありませんでした。

母の息子ならば、と幻素魔導術はどうかと学んでみた。

ぶっちゃけ魔導術……いわゆる魔法って前世の世界にはゲームや漫画の中だけのものだ。

なかったからこそ憧れたし、めっちゃくっちゃ使ってみたかった!

それは、もう!

しかし、俺はあの偉大な魔導師様の息子でありながら……幻素耐性が皆無だったのだ。

幻素げんそ……俺の元いた世界でいうところの魔力っぽいもの。

幻素は基本的に有毒。

幻素を使うには耐性が高くなければならない。

俺にはその耐性がなかったのだ。

びっくりしたよ、うん、その場の全員がね。

……つーか、ついに父上の耳にも入ってしまったのか……いつかこの日が来るとは思っていたけど……。


「解放術に関しても、その兆しは見えないしな……ふむ」

「…………」


そ、そうです。

その上、本来ならとっくに発現していてもおかしくない『解放術』まで俺はまだ使えないのだ。

身体強化程度の『解放』なら、とっくに出来ていても不思議ではないらしい。

でも、俺は十歳を迎えて一ヶ月……その兆しもないというのだからどうしたものか。

父上も思案顔。

名士の嫡男でありながら、俺は全方向の才能が全くないのである!

これは、ヤバイのではないだろうか。

母は二人目妊娠中。

もし、弟が生まれてきたら……俺はお払い箱になるんじゃ……。


「逆になんの才能があるんだ?」

「え⁉︎」


それズバッと聞いちゃいます⁉︎

それで悩んでる息子にズバッと聞いちゃいます〜⁉︎

くそう、分かってたら俺だって悩まねーよ!

つーか、十歳で才能について悩むなんて前世じゃ考えられねー!

豪勢な暮らしにこの天使のような容姿、勝ち組アッザース! とか思っていた五年前の俺を殴り飛ばしてぇ!

今ではひたすらプレッシャーを浴び続ける日々!

才能だと?

そんなん俺が知りてーっつーの!


「セーファス、私はこの国の騎士として本来はお前に『契約メダル』を譲るつもりだった」

「!」

「だがお前は……解放術の力を未だ見せない。解放術が使えないのなら『契約メダル』はお前の子、あるいは、じき生まれてくる赤子が男児ならばその子に渡す事になるだろう。……お前の伯父たち……あの二人にも解放術の力は発現していたが、最終的に私が全てのメダルを手に入れた経緯は話した事があるな?」

「は、はい」


……『契約メダル』。

この家に代々受け継がれる『血紋解放術』により解放される『メダルに封じられた魔物たち』だ。

この家の『血紋解放術』はメダルに封じられた魔物を解放する力がある。

もちろん魔物たちはそれを了承済みでメダルに封じられ、主人と認めた者以外の呼びかけには応じない。

その基準は『契約メダル』を会得した者にしか分からず、父上の兄たち二人は脱落し、全ての『契約メダル』は父上が手に入れた。

家督も当然、父上が譲り受け……伯父たちは辺境の地で国の防衛を任されている。

まあ、ていのいい左遷だよ。

ちなみに、その『契約メダル』の一部……上位の魔物は解放召喚に幻素が必要らしい。

俺は幻素耐性がゼロなので、この時点で上位の魔物の解放召喚はーー不可能。


「ここまで才能がないのは逆に争いも起きない故、私自身は好ましく思う」


ズバッと言うなぁ、ホント……。

母上もこういうところあるけど、なんなのこの夫婦、配慮とかそういうのどこに置き去りにしてきたの……?

すげぇ傷付くんですけど。

俺まだ十歳なんですけど、体は。

ああもうホント辛いわ〜。

グレるぞちくしょーう。


「とはいえ穀潰しをいつまでも置いておく理由はない。分かるな?」

「っ…………、……は、い……」


え、えぐい。

うちの父上えぐすぎる。

もし俺が転生者じゃなかったら十歳の少年は間違いなく、グレていた事だろう。

俺は父上の仰る事ごもっともー、と納得出来るのでぐうの音も出ません。

勝ち組ヒャッハー! とか思ってたりもしたが、基本真面目な日本人属性なので、素直にその理屈は理解出来た。

とはいえ、俺はこの世界において、そしてこの家において必要な才能がからっきしなのだ。

家を出て一人で何をしたらいいのか、正直文化が違いすぎて全然分からない。


「なので、少し早いがお前には旅に出てもらおうと思う」

「ふぁ⁉︎」


た、旅⁉︎

十歳になったばかりの子どもに旅って言った? この人。

つーか、魔物が闊歩する世界で十歳児が旅なんて出来るわけねーじゃん⁉︎

要するにお払い箱って意味ーー⁉︎


「本当ならば十五歳になったら、と思っていたが……お前のその才能のなさは正直異様にさえ思う。故に調べてこい」

「……、……え? えーと、調べて……ど、どういう意味ですか?」

「コーネリン女王国は知っているな?」

「は、はい、もちろん」


ここで知りませんとか言った日にゃ、父上に夜通し説教食らいそう。

いやいや、さすがに家庭教師に習ったから知ってるさ。

この世界の地理。

大きな大陸は三つ。

中央に比較的大きな島国が一つ。

小さな島が一つ。

ここは大陸北東部の大陸……アゴバゼロン王国。

南西の大陸、ファングレラ王国とは長年『どちらが聖人エイクスの正統なる子孫か』で揉めに揉め続け、幾度となく武力衝突をかました犬猿の仲。

それを傍観するかのように南東には帝国が鎮座し、その南にコーネリン女王国が存在する。

アゴバゼロン王国とファングレラ王国は現在、父上が仕えた『本来いなかったはずの王子たち』により『結局どちらもエイクスの子孫ではなかった』という真相に基づき平和条約を結び、少しずつだが穏やかな関係になりつつあるのだが……だからといって魔物の脅威がなくなったわけではない。

コーネリン女王国といえば世界で唯一の闘技場がある国じゃねーか……。

ま、まさかそこで死んでこいとか、い、言わないよな?


「その国の女王は巫女だ。才能を占ってもらい、闘技場で……その国に闘技場があるのは知っているか?」

「⁉︎ ……え、あ、あ、あの……ま、まさか?」

「そのまさかだ。闘技場で十回優勝するまでメデークラセの家名を名乗る事もアゴバゼロンに戻る事も許さない。名もセーファスではなくセレンと名乗れ」

「……っ!」

「破った場合はどうなるか分かるな? ……厳しいと思うかもしれないが、魔物使いとしてこの国の剣となり盾として仕えてきた家の嫡子がこのままでは……」

「…………」


父上はそれ以上の言葉を続けなかった。

だが、精神年齢が父上と同じくらいなので言われずとも察する事は出来る。

数百年と続く王家に仕えてきた一族の、次の当主となるべき俺が『なんの才能もない無能』では、到底今の地位を守れない。

この家は他の『血紋』の家とは違い、古の……今より巨大で強い魔物たちを従えているのだ。

お取り潰しなんて生易しい。

恐らく魔物諸共……血筋の者は全員……。

ゾッとする。

腕を擦り上げてもちっとも暖かくなんてならない。


「は、はい、わ、分かっております……」

「そうか……お前が聡いのは救いだ。辛いだろうが最低限の戦闘能力は身に付けろ。身を守る術でもある。優勝の十回とは決定戦でなくとも良い。……無論、決定戦で優勝する事が出来たのならばなお良いが、そこまでは求めない」

「…………」


それは……、随分とお優しい事で……。

確かコーネリン女王国の闘技場は『毎日』トーナメントが開かれ、賭けが行われている。

いわゆる博打場なんだ。

そこで戦う一部の戦士は賭け金から数パーセントの給与がもらえる。

勝てば勝っただけがっぽがっぽ。

生業にしている人もいるらしいので、その中で十回ってのは……十歳の俺にはきつすぎる。

で、決定戦は月一で行われる強者決定戦を優勝した者のみが挑戦出来るマジの『最強決定戦』。

偶然で勝てた奴は『強者決定戦』で潰されて、本気で強い奴のみが出場するコーネリン女王国、最大のお祭り。

無理無理、ほんとそんなので優勝するとか無理。

そんなのに出られる奴は確実に『解放術』か『結界術』が使える奴だけだから。


「……それに、闘技場ならば死ぬ事もないだろうしな……」

「? え? な、なんですか?」

「いや、なんでもない。出発は明日。ロアには私から言っておくが、引き留められる事はまずないと思え」

「あ、はい、それはもう」


母上なら「は? なんなら転移魔導術で送ってあげる? ああ、でもそれじゃあ旅の楽しみがなくなっちゃうわよね! ゆっくり楽しんで行きなさい。船とかお勧め! あ、女王国には船じゃないと行けないんだっけ! そうそう、女王国に行くならラッセルによろしくね!」……とか笑顔で言う。

箱入り娘だったらしい母は旅先で父上たちに出会った事で、無類の旅好きになったのだ。

可愛い子には旅させろ系の母なので引き留められる事はまずない。

絶対ない。

ちなみにラッセルとは八英雄の一人、『対槍のラッセル』様だ。

コーネリン女王国最強の騎士。

俺も一度会った事があるけど、とても穏やかで物腰柔らかな人物。

当たり前だけど『解放術師』な。

でも身体強化系のみで父上のような『血紋』は持たない。

それでも八英雄に数えられるんだから、別な意味で化け物なのは間違いないだろう。

まあ、うちの母とかもう一人の魔導術師だったナーシーさんは『結界術師』じゃないけど。


「それと、こいつを渡しておこう」

「? ……⁉︎ え、こ、これって⁉︎」


手を出せ、と言われて両手を差し出すと、右手にメダルが載せられた。

メダル!

しかもこの動物ではない生き物の絵柄はーー!


「リップ」


父が名を呼ぶ。

メダルが光り、浮き上がると回転し始める。

す、すご……!

これ、やっぱり!


『にゃーん』


黒猫だーーーー!

いや、正確には黒猫っぽい魔物だーーー!

これでも古の魔物なのですでに絶滅している影に潜る能力があるノワールキャットという種類!

すご、すごーい!

ああ! 俺もこれやりたかったのにイィ〜!

なんで才能皆無なんだぁぁぁあ!


「私の使い魔を預けておく。どうしても連絡しなければならない重大事態が起きたら、リップを通して連絡すれば良い。言っておくがあくまで私の使い魔だ。お前の用向きを手伝うか否かはリップが決めるだろう。拗ねて乱雑に扱う事はないようにな。くれぐれも」

「わ、分かってます! ありがとうございます! 父上! よ、よろしくな、リップ……」


しかも黒猫!

可愛い!

嬉しくて床に降り立ったリップへと手を差し出す。

するとシャッと何かが横切った。


「…………」


ワア、手の甲に赤い線が四本〜。

流血沙汰だぁ〜。


『気安く呼ばないでくれる? ご子息〜』

「しゃ、喋っ⁉︎」

『当たり前でしょう、ワタクシはメデークラセ家と契約しているのよ。アナタみたいな無能のお世話も無能との会話も、ホントなら絶対イヤなんだから。シュゼットがどーしてもって言うからついて行ってあげるってだけなのよ。調子に乗らないでよね、無能ご子息』

「…………」


思わず父上を見上げた。

無表情で見下ろしている。

うわあ、予想済みですか〜。


「監視は頼んだぞ、リップ」

『仕方ないけど引き受けたわ、主人シュゼット。ホンットーに仕方なく』


ひょい、と飛び上がると、俺の影の中に入り込むリップ!

き、消えた!

これが影に潜むノワールキャットの能力……っていうか今『監視』って言いましたぁ⁉︎


「他の人間には見られないようにしろ。リップは珍しい魔物だからな……」

「……、はい」


バツが悪そうにそう言う父上は、多分……俺を心配してこの子を付けてくれたんだろうな。

だってそうじゃないなら出発の時に渡せばいいんだもん。

口を開けばズバズバとオブラートなしでえぐい事言ってくるけど、息子を心配してくれるいい父親なんだよ。

……普通の十歳児だったらそれが分からず絶対グレてるけど。

でも、この人がこういう人だがらやはり絶対に俺が転生者だなんて言えない。

なんの才能も開花しない俺を守る為に、どれだけ苦心してるのか……。

これ以上負担にはなりたくない。

ぎゅう、と拳を握り込む。


「…………」


闘技場で優勝か。

ホントとんでもない事になってしまった。

いや、父上の言う事は理解出来る。

俺が弱いままじゃ、もしも生まれてきたのが妹なら俺が妹の子どもにメダルを引き継がせなければならい。

歴代でも父上のように『全魔物のメダル』に認められ、召喚出来た当主は片手で数えられる程度だったと習った。

特に『ホワイトドラゴン』は、この家の初代が契約して以後、父上しか召喚に成功していないという。

召喚には幻素を大量に使うからだ。

父上は幻素魔導術も使える。

この人には耐性があるから。

まあ、だからこそ『魔人帝』と戦い生き延びちゃうほどなんだろう。

俺には永遠に叶わない……『ドラゴン召喚』というめちゃくちゃかっちょいい夢……。

少なくとも『ドラゴン召喚』は才能と幻素耐性とそのドラゴンに認められる素養がなければ、当主になっても無理らしからやっぱこの人が変なんだと思うけどさ。

少なくとも俺の子どもか、あるいは妹の場合はその子どもか、これから生まれてくる弟が『解放術』の才能がなければとにかく次代へ引き継げるよう準備が必要になるって事。

ボサボサしていれば一族ごと危険に晒される。

はあ、エリート?

勝ち組?

ちゃんちゃらおかしいぜ、まったく。


「では健闘を祈る。準備は怠らぬようにな」

「は、はい」










これはエリート騎士家系に生まれたのになんの才能ももなかった俺が、世界を再び襲う危機から救うかもしれない物語。

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