02 旅立ちの日の空はとても澄んでいた
主人公の旅立ちです。
「カンナよ。王家のシキタリに従い、お前も16歳になった今日、兄たちと同様修行の旅に出る事になる。準備は出来ておるか?」
「はい。昨日の内に。」
「うむ。気をつけて行くのだぞ。」
「はい。」
私は、国王(お父様)に一礼して大広間から廊下に出た。
するとそこには、私と4つ違いの妹のミキが立っていた。
「とうとう、カンナお姉様も行ってしまうのですね。」
悲しそうな顔で言うミキを見ると、少し胸が痛む。
私の上に兄が2人いるのだが、たまにしか帰って来ないので、私まで行ってしまうと、遊び相手が一人もいなくなってしまうのだ。
シキタリだから仕方ないよ。と頭を撫でてやると、
「それは、分かってはいるけど・・・。」
と複雑な表情で見つめてくる。
「珍しい物を見つけたら送るし、手紙も書くから。」
「ジー二アスお兄様や、ランドお兄様みたいに、途中で止めたりしない?」
「うん。止めたりしないよ。ちゃんと書くから。」
「本当?」
「私が今まで、約束を破ったことある?」
その言葉を聞いたミキは満面の笑みで、力強く首を横に振った。
「じゃあ、これから部屋に荷物を取りに行くから。」
「土産話を楽しみにしてますわ。」
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部屋に戻った私は、荷物を手に取り改めて自分の部屋を眺めた。
見馴れていて少しも変わった所なんて無いのに、しばらくの間、主が帰って来ないのが分かっているかの様に、少し淋しく感じる。
「行ってきます。」
部屋に暫しの別れを告げた私が、しばらく廊下をロビーに向かって歩いていると、とても懐かしい顔が目に飛び込んできた。
「ジー二アスお兄様!? どうしてココに!?」
予想外の人物に驚いた半面、嬉しさのあまりつい抱きついてしまった。
「おぉっと。 つきさっき帰って来たばかりだよ。間に合って良かった。」
私を降ろしながら、16歳おめでとう。と言ってくれたジー二アスお兄様の顔は、とても嬉しそうだった。
「ありがとうございます。この街から外に出た事が無いから、ワクワクします。」
「そうか。でも、外はこの街の人達みたいに良い人ばかりじゃないから、くれぐれも気を付けるんだよ。」
「はい。それでは頑張って行ってきます。」
ジー二アスお兄様に別れを告げ、私はロビーに向かって再び歩き出した。
ようやく目的地のロビーに着くと、メイド達や執事、それにお父様、お母様が見送りに来てくれていた。
「カンナお嬢様。あんなにお小さかったお嬢様が、こんなに立派になられて、オルグは嬉しゅうございます。」
一番初めに声を掛けて来たのは、執事のオルグだった。
私が物心付く前からこのお城で働いていて、一番古株の人物だ。
「カンナお嬢様、私達お弁当を作ったんです。」
「良かったら、持って行ってください。」
「カンナお嬢様の好物ばかり、入れてありますから。」
次に3人のメイド達が声を掛けて来た。
彼女達は私のお世話係りで、歳が近い事もあり姉の様に慕っている。
「ありがとう。」
ニッコリとそう答えると彼女達は、良かったね。と、三人で顔を見合せた。
「私達には、これくらいしか出来なかったので・・・。」
「何かしてくれようとした気持ちだけでも、十分に嬉しいよ。」
そう言うと彼女達はまた、顔を見合せて嬉しそうにしている。
そこへ、次はお母様が声を掛けて来た。
「盛り上がっている所、ごめんなさいね。私もカンナとお話ししても良いかしら?」
微笑ましそうに言うと、私に向き直る。
「あなたも、とうとうこの日が来てしまったのね。」
と、私を抱き寄せた。
この母の温もりとも暫くお別れかと思うと、涙が出そうになる。
「さっき、ようやく届いたのよ。間に合わないかと思って、ヒヤヒヤしたわ。」
お母様はニコニコしながら、細長い箱を見せてくれた。
箱を開けるとそこには、虹色に輝く雫の形をしたネックレスが入っていた。
「これは?」
「天女の雫と言って、この日の為にオルグに頼んで取り寄せてもらったのよ。きっと、あなたを守ってくれるわ。」
私の首にネックレスを掛けながら、そう説明してくれた。
「ありがとうございます、お母様。大切にしますね。」
「さて。最後にワシの番じゃな。」
そう言いながら、みんなのやり取りを静かに見守っていたお父様が、お母様の隣に来た。
「カンナよ。ここから外に出た時から、お前の旅が初まる。悲しい事や辛い事も有るだろうが、焦らず一つ一つ乗り越えて、楽しい事嬉しい事をたくさん経験し、大きく成長したお前に合える日を楽しみに待っておるぞ。それと、体には気を付ける様にな。」
言い終えると、お父様は強く抱きしめてくれた。
「お父様。ありがとうございます。」
私はお礼を言ってお父様の腕から離れ、皆の方に向き直る。
幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた大切な家族。次に逢える日を楽しみに、別れを告げる。
「それでは、行ってまいります。」
一礼をして扉を開けた。後ろでは皆の温かい声援が聞こえる。振り返り大きく手を振り、また前を向いて歩き始めた。
私は、これからの事をいろいろと考えながら、期待と不安を胸に一路、港へと向かった。
空はとても青く澄んでいて、旅立ちにはもってこいの日だった事を、今でも鮮明に覚えている。
読んで頂き、有り難うございます。