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蒐集家

 これまで数々の人々の怖いモノを聞いてきた。最近で言えば蟲が怖い大学生とオバケの怖い高校生か。大学生に弱いとはいえ蠱毒の蟲を使ってしまったのは誤算だったが、高校生で霊感と魂を少し頂けたのでカバー出来た。

 良質な霊感と魂はいくらあっても足りるという事は無い。少しだけ魂の力をムカデに込めて再び蠱毒の準備を始める。仕事柄強い蟲を持っておくと楽である。

 蒐集家は仕事であり趣味でもある。怖い話を集めるのは蒐集家として正しい姿だと自分では思っている。おそらく同業者も多いだろう。

 蒐集した怖い話はストックしておいて恐怖モノの小説や語りとして使わせて貰う。私自身もオカルトに足を突っ込んで蠱毒なんて作っている以上おかしいのかもしれない。

 だが、止まらないのである。恐怖に魅了されてしまった。魅了されるきっかけなんてモノはとうの昔に置いてきた。ただ今は恐怖を追い求める。

 心霊スポットというモノにもよく訪れる。そこで所謂、お持ち帰り、をした事も多々ある。全部封印してあるが。

 オカルトに関しては私にも昔、先輩が居た。その人から恐怖との向かい合い方を教えて貰った。いくら感謝しても足りないくらいだ。

「ねぇ? 先輩?」

 私は死が怖いという先輩のために万華鏡の中に魂を封じ込めて時々話しかけている。先輩に意識は無い。けれど魂はここにある。それだけで充分である。

 肉体はとうに焼かれて骨が墓場にあるだろう。実を言えば私も幽霊に近い。自覚のある幽霊と言えるのだろうか? まぁとにかく私の体も骨になっている。人として肉体を保てるのはこの小部屋に限られている。なので心霊スポットでは他人に私の姿は見えないだろう。この姿になったのも、もう何十年も前の話だ。生前だと思われる記憶では戦争も見てきた。死に際は覚えていないが日本のどこかで死んだのだと思っている。

 この小部屋も実際には存在していない……ハズである。この小部屋は私の心の領域。私の欲求を満たすモノしか入れない。いや、誘蛾灯の様に誘われてくるのである。

 そして私の糧となるモノを語り。去って行く。二度来るのは割と珍しい事である。それが続くとなると更に珍しい。

 まぁいい。この地に取り憑いて正解だったと思う。私の小部屋は気まぐれなので日本中どこでも気付くと移動している時がある。それをここに怖いモノを吐露しに来た人間のエネルギーで固定化するという荒技を使っている。だからどんどん来て貰わないと困るのだ。まぁ逆に怖いモノが無い人間が多い土地からはさっさと抜け出せるというメリットもあるが。

 ガサリ、と音がする。蠱毒の中で蟲が暴れ出した様だ。これでいい……これでいいのだ……。


「ねーねーあの噂知ってる?」

「ひょっとして小部屋の噂?」

「そうそう! 怖い事があったら話を聞いて貰えばいいんだってさ!」

「本当にあるのかなぁ。そんな小部屋」

「本当らしいよ。先輩に聞いたから!」

「でも先輩も又聞きなんでしょ?」

「まーそうなんだけどね!」


 こうして小部屋に誘蛾灯の様に誘われる人間は増えていく……。悪夢は続く。どこまでも。

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