オバケが怖い-結-
寮の部屋をこっそりと開ける。夕日が差し込み部屋を照らす。早速冷房のスイッチを入れる。
「はぁ……。本当に大丈夫かなぁ……」
正直、不安である。本当に霊感は無くなったのか。確かめる術は……夜にならないと分からないけれど。
「裕美ー。どこ行ってたのー?」
墨玲が部屋へとやって来た。が、入ってきた墨玲の頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる様だ。
「あれ? この部屋の雰囲気変わった? 前より少し明るくなったというか……」
「ああ……よかった……」
思わず涙ぐんでしまう。
「ちょ、ちょっとどうしたの!? 私なんか悪い事言ったかな?」
「逆、逆! 嬉しくって嬉しくって……」
墨玲は相変わらず状況が飲み込めていない様だ。これでこの部屋に憑いていたオバケは消えたっぽい。よかったぁ……。あの小部屋には感謝感謝だ。
「安心したらなんか疲れちゃった……。ごめん墨玲。今日私もう寝るね」
「え? 早くない? まだ二十時半だよ? 体調悪い?」
「ちょっと、ね。とりあえず今日はゴメン。明日話せたら話すね」
ずっと不思議がっていた墨玲が退室する。小部屋の主が言った通り、若干倦怠感がある。魂を少し吐き出してしまったのだろうか? それはそれで不安ではあるけれど。
とりあえず横になっても視線は感じないのに安心して泥の様に眠る。
翌日、倦怠感は未だ抜けず。けれど昨日よりはマシになったかな? と思い、起き上がる。一昨日は眠れなかったからその分も含めてたくさん寝たみたいだ。時刻は十三時を過ぎている。いささか寝過ぎで体が痛い。
「ふあー……よく寝た……」
「ホント、死んでるみたいに寝てたよね」
えっ!? と思い一瞬で眠気が飛ぶ。勉強机の椅子には墨玲が座っていた。
「墨玲!? いつからそこに!?」
「えーっと……こういう時はなんて言うんだっけ。来たばっかりだよ、か」
「嘘だー」
「うん、嘘」
あっけらかんと墨玲は言う。本当はいつから居たのだろうか。寝顔を見られていたと思うと恥ずかしい気持ちが湧いてくる。でも見られてしまったのは仕方ない。ルームメイトとして墨玲が居た時にも見られていたかもしれないのだから。
「全く……。心臓に悪いわ」
「こっちも心配したんだからねー。一年の頃寝相が悪かった裕美が全く動かないんだもん。それに昨日体調悪いって言ってたし……」
あー……そんな事もあったっけ、と思い返す。墨玲には心配かけたなぁ。
「ゴメンゴメン。じゃあ昨日話せなかった事話すから許してよ」
「うむ、仕方ないので許そう」
墨玲に昨日あった事を説明する。
「――というわけで」
「ほうほう。部屋の空気が明るくなった事とあんまり関係は無さそうだけど霊感が無くなったのはいい事なのかな。全く見えなければ居ないのと一緒だしね」
「そうそう。だから今度の肝試しもきっと大丈夫! だと思う!」
「でもさ。霊感が無くなったってだけで怖いって感情が無くなったとは限らないのでは?」
「……そっか、そうだった」
「まぁ存分に怖がってくださいね」
墨玲は極上の笑顔で言う。怖いモノは怖い。見えなくても。雰囲気に飲まれてしまう。
肝試し当日。怖くない怖くないと言い聞かせながらビビっていたのは言うまでも無い。やっぱりビビリといじられるのであった。