オバケが怖い-転-
「んー……。ちょっと悪いモノが憑いてるかも?」
帰ってきた墨玲に部屋と私を見て貰ったら、そんな無慈悲なコメントを頂いた。
「ちょ、ちょっと! どうにか出来る?」
「大丈夫大丈夫。心を強く持てば霊もそのうち出て行くって」
「そ、そういうモノ?」
「そうそう。まずは気持ちから強くならないとね」
「何か足しになるモノとかって無いの?」
「んー……。今度実家に行ったらなんか探してみるよー」
「そんな悠長な……」
「まぁまぁ。これも一つの試練だと思って」
「怖い……」
「でも本当に弱いモノだから大丈夫だよ。視線を感じる程度だよー」
「か、鏡とか窓に映ったりしない?」
「うーん、多分大丈夫」
「た、多分かぁ……」
仕方なく私は部屋に一人……いや、オバケと二人か。取り残されてしまった。どうしたらいいだろう……?
こういう事に強そうな人物……。あの奇妙な小部屋の主なら何か足しになる様なモノあるかも、と私は閃いた。今日は怖くて眠れなさそう……。
翌日、私は早速小部屋に向かった。
「それで、どうされましたか?」
性別、年齢不詳な小部屋の主は私に話を振る。
「実は……オバケに取り憑かれてしまったらしくって……」
「ふむ、興味深い……。詳しくお聞かせ願いますか?」
「あ、はい。実は――」
私は一連の流れを話した。主はふむふむ、と頷いている。
「なるほど。事情は分かりました。貴方には弱い霊感が備わっているんですね」
「え? どうしてです?」
「霊感がゼロだったらそもそも霊を感じませんからね。視線を感じて、そのご友人が弱いオバケと言うのを信じるのであれば貴方には霊を少しだけ感知する力があるのでしょう」
「な、なるほど。でも、こんな力要らないんです……」
「そうでしょうね。では霊感をゼロにする方法があるのですが……受けます?」
「受けます!」
「分かりました。ゼロにするというよりは霊感を私に渡す、と言った方が正確ですね」
「怖いのが無くなるのなら出来る範囲で何でもします!」
「では少々お待ちください」
そう言うと主は部屋にある道具箱の様なところから布製の袋を取り出した。
コンコン、とノックの音がする。間髪入れずにガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえる。小部屋には鍵がかかっているのだが来客だろうか?
「私が出ます。捜し物を続けてください」
私は一方的に言うとドアを開けた。そこには憔悴した若い……と言っても年上だろうか。男性が立っていた。今は私の順番だと言う事を伝えると、男性は訝しみながら待つ様だった。さぞかし私も憔悴して見えただろう。
「ああ、あったあった」
小部屋の主は袋と香炉を手にして座り直していた。
「どちら様でしたか?」
「若い男性でした。憔悴していた様でしたが」
「ふむ……」
それだけ言うと香炉の準備を終えて甘い香りがし始めた。
「ではこの袋を口に当てて霊感を吐き出すイメージをして息を吹き込んでください」
「は、はい」
十分くらいだろうか? 私はその動作を繰り返し続けた。
「もう充分です、お疲れ様でした。これで貴方から霊感は無くなりましたよ。ただ元々魂に紐付けられた感覚なのでしばらく倦怠感があると思います。お大事に」
それだけ言われ部屋を出た。外では先ほどの男性が待っていた。お待たせしました、とだけ言い残し私は寮に戻った。