オバケが怖い-序-
「怖いモノですか? あ、はい。あります。恥ずかしいんですけど私、子供の頃からずっとオバケが怖いんです……」
私の名前は斉藤裕美。自分でも恥ずかしいがオバケが怖い。子供の頃に見たホラーマンガがトラウマになっているっぽい。
どうにかしたいと思って、この不思議な相談所みたいな小部屋を紹介された。幽霊、妖怪、呪いなどなど、種類を問わず怖いのだ。
丑の刻参りなんか想像しただけでも恐ろしい。自分がするのも自分にされるのも怖い。
居ない……とは思っても、この夏の灼熱炎天になると嫌でも目や耳に入ってくる怖い話や心霊写真の画像。そして夏と言えば祭り、花火と肝試しと相場が決まっているらしい。祭りと花火は好きなのだが……。肝試しはただただ怖いだけだ。高校の友人からは、からかい半分で肝試しに強制連行されるのだがそれがどうしても苦痛なのだ。
従って肝試しに関しては付き合いが悪くなる。友人からはビビりすぎ、と言われるのだが仕方ないモノは仕方ないのである。
そのため夏休み明けは軽いイジメの対象になる事もある。それを考えると今から憂鬱だ……。それを目の前の人物に吐露する。
「お子ちゃまと思われるかもしれませんが、これが私の怖いモノです」
ふむふむ、と小部屋の主は頷く。これで何かが変わるのだろうか? そうは思えないが……。自分でも克服する努力はしてきた。怖い話を我慢して聞いてみたりホラー映画を友人と見たり。それでも未だに慣れる事は出来ない。まぁまだフィクションはマシだ。本物のオバケなんか見たらきっと怖すぎて正気を失うだろう。気絶回避とか怖い話を聞いているとあるが、それも許されないだろう。
特に収穫も無く、ただひたすらに話すだけで小部屋を後にした。小部屋の主には私が怖がっている事は充分に伝わったと思いたい。まぁ多少はスッキリした。ただ怖い事には変わりは無い。私の部屋は自分では普通と思っているが友人に言わせると空気が少し重いらしい。
何かが居るのだろうか? そんな事を思い出すと思わず身震いしてしまう。私は実家から高校まで遠いので高校の女子寮に住んでいる。女子校だから両親も許してくれたんだと思う。まぁ男子の目が無いのでイジメも割とエグい。引っ越しなんて許可出ないだろうからなぁ。
「あっ、裕美が居る」
突然声をかけられビックリする。誰だと思って振り返ると、そこには寮で同じフロアに住む同級生の墨玲だった。黒く長い髪が特徴の美人さんだった。まさに墨の様な美しい黒髪だ。性格は独特というかマイペースというか……。
「こんにちは、墨玲。墨玲も何か用?」
「うん、こんにちは。今度寮生全員強制参加で肝試ししようって話が出ててさ」
「げっ……」
「それの下調べだよ。裕美も付いてくる?」
今は昼間だ。今のうちに行っておけば夜に行っても少しは怖さが軽減するかな? と頭の中で計算する。
「う、うん。じゃあ付いてく」
というわけで私と墨玲は肝試しスポットへと向かって歩いて行った。