蟲が怖い-転-
「うーん……、もう朝か……」
まどろみを繰り返して熟睡していないせいか頭の回転がだいぶ落ちている。一晩中、虫のオバケにビビらされていた。
カサカサと何かが這う音がずーっとしていた。流石に布団の中までは入ってこなかったのが不幸中の幸いだ。
オバケというか幽霊なのは確実だ。昨日考えた通りに小部屋に行くべきだろうか……。迷うところである。あそこの空気苦手なんだよなぁ。でも四の五の言ってられないし……。
「……朝飯喰ったら行こう……」
我ながら元気が無い。仕方ないだろう。精神は摩耗している。
午前十一時くらいに準備を終えて部屋から出てきた。外は炎上灼熱。今日もバカみたいに暑い。自分に気合いを入れるためにコンビニでエナジードリンクを買って一気飲みする。健康には悪そうだとは自分でも思う。
ヒィヒィ言いながら小部屋の前に辿り着く。アポは無いが大丈夫だろう。前来た時は暇そうだったし。
ノックをする。そして相手の返事を待たずにドアノブを回す。ガチャリと回るハズだったが途中で止まってしまった。どうやら留守の様だ。
「クッソ……、こんな時に留守かよ」
俺は毒づく。しかしドアの向こうから人の気配がした。カチリ、とドアの鍵が開く音がして中から若い女性がこちらを見ている。
「あっ、すいません」
「いえ……。今、私の順番なんですけどもう少しで終わりますから待っててくださいね」
どこか影のある女性だ……。いい意味で言えばミステリアス。悪く言えば陰気。まぁこんな不気味な小部屋にも人は来る様だ。順番待ちが発生するとは思わなかったが。
五分、十分くらいしたら先ほどの女性が小部屋のドアを開けて出てきた。
「お待たせしました」
それだけ言ってこちらに目も合わせず行ってしまった。うーむ。何を話していたのだろう。気になるがまずは自分の問題だ。
「失礼します」
小部屋の主は応接用の椅子に座り、無言で対面する様に促す。どうもこの人は苦手だ。まるでつかみどころが無い。
「それで、どうしました?」
性別、年齢不詳な見た目と声で話しかけてくる。いかん、このままだとまた向こうのペースに取り込まれる。
「いや、先日ここでお話させていただいた虫の話なんですがね……」
俺は起こった事をすべて話した。相手の顔は無表情だ。怒っているのだろうか。前回があまりにも不躾だったせいか? ちょっと不安になる。
「あの……」
「ええ、お話は分かりました。それで虫の幽霊をどうにかして欲しいと?」
「は、はい。その通りです」
「こちらとしても、なんかしたいのですがね……」
「やっぱり無理なんですか?」
俺は肩を落とす。
「いえ、まだ無理と決まったわけではないんです」
「えっ、それはどういう事ですか?」
「虫の幽霊を追い出す方法がある、という事ですよ」