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目覚めたら異世界で人魚だった  作者: 御餅屋ハコ
目覚めたら異世界で人魚だった 第一章
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第一章 01 人魚の衣服


第一章


  01 人魚の衣服


「さて、シン。名前を決めたら次は、服装をどうにかしようか」

 ノアタムはさっそく私の名前を呼んでそう言った。

「え? でも、すでに服は着てるじゃない」

 私は自分の体を見る。上半身はブラジャーのみだが、一般的な人魚の絵ではこのぐらい普通だ。むしろ全裸に描かれる場合も多かったはずだ。美しく描かれた人魚の絵と違って自分の胸は大きくなかったが、水泳選手の女性のように引き締まった体なので、スタイルは悪くないと思う。

 そして下半身には、巻きスカートのような物を履いている。人魚の絵ではこういった物は身につけていない。だから人魚にしては服を着ている方な気がする。

「着ていると言っても、それは下着だぞ」

「えっ!? ブラジャーはともかく、このスカートみたいなのも?」

「そうだ。それは日本における着物の腰巻きみたいなもんだ。着けていないと丸見えになるからな。穴が」

「穴!?」

 私は思わずそのスカートを手で押さえる。驚く私を満足そうに見つめながらノアタムが説明した。

「そりゃそうだ。魚にだって肛門や生殖器はあるのだから。わしは全身が魚の姿なのでかまわんが、上半身が人間の人魚は、排泄する箇所なんかが丸見えになるのは恥ずかしいだろう? だから下着が必要だろうと思ってな。人魚にパンツをはかせるわけにはいかないから、着物の下に着るような腰巻きを、人魚の下着として設定したのだ」

「でっでも、人魚の絵なんかでは、下半身は全部出してるし、穴なんか描かれてないじゃない!」

「人間の顔だって、絵に描くときは鼻の穴を略したりするだろう? 美しく描くためにそうしているだけのことだ。お前は絵に描かれた人魚ではなく、このノアタムアでリアルに生活している人魚なのだから、肛門や生殖器を持っていないとおかしいだろう」

「そ、そうだねえ……」

 ノアタムの説明はもっともだった。イルカだってイラストではかわいくつるっとした下半身を描かれているが、本物は下半身に穴やなんかががあったはずだ。私はそれを参考に、抑えたスカートの下を想像してみる。

 ……泳ぎ方だけでなく、人魚の体になじむのにはまだ時間がかかりそうだ。

「それに下着だけでは、魔物と戦うときに何の防御力もないぞ」

 私は顔を上げた。

「魔物! 魔物がいるの!?」

「嬉しそうだな。もちろんだ。舞台が深海で人々が人魚ばかりとはいえ、ノアタムアも『中世ヨーロッパ風ファンタジーの世界』だからな。剣と魔法で魔物と戦う世界なのだ。魔物を退治して生計を立てる『魔物狩り屋』も多いから、おまえにもそれをやってもらう」

「うわーっ! RPGみたいだ!」

「待ってましたって顔だな。お前はそういう願望の具現化だものな。

 で、お前は戦士系と魔法使い系、どちらがいい?

 いきなりレベル99のチートな主人公にはしてやらんが、『初心者は脱した』程度のスキルは持たせてやる。レベル10から20といったところだな。

 開始時に『パラメータにポイントを割り振ってください』と、好きにキャラメイキングできるタイプのゲームがあるだろう。まだポイントを割り振っていない状態だから、今ならお前の能力値を自由に設定できるぞ」

 私はわくわくしながら自分の能力を考え始めた。

「武器はやっぱり剣だよねー。でもそれよりまず魔法! 武器は日本でもチャンバラごっことか出来るけど、魔法は異世界じゃないと使えないもん! とりあえず基本的な魔法っていうと、炎と水、あと風? あっでも、海の中で炎の魔法って使えるの?」

「大丈夫だ。海底火山が噴火したとか言うだろう。熱を発生させるような形で、海の中でも炎の魔法は使える。

 それから、海中で水の魔法を使うのは、地上で風の魔法を使うようなものだ。海中ではその二つの魔法は同義と言うことだな」

「そっかー。じゃあ、炎と水の魔法が使えれば基本的な攻撃魔法は押さえたってことになるかな?

 あっあと、回復魔法も使えた方がいいよね! そういう魔法もあるんでしょ?」

「うむ。傷を癒やす魔法がある。魔法についての詳しい説明は今しても覚えきれんだろうから、追々してやろう。

 だが、魔法ばかり使える設定にすると、お前の物理攻撃はからっきしということになるぞ。魔法の習得は結構大変なのだ。魔法を三つも使えて、しかも剣まで扱えては有能すぎる。魔法を三つに設定するなら、武器はナイフがせいぜいだな」

「えーっ……。ファンタジーと言えば剣と魔法なのに……。でも回復魔法は外せないし、攻撃魔法も、一種類だけじゃなくてもう一つぐらい欲しいしなあ……」

「今決めるスキルがお前のすべてではない。RPGのキャラがレベルアップするように、お前も扱う武器や魔法を追加していけばよいのだ」

「んーそれもそうか。じゃあ武器はナイフで、魔法は炎と水、それから回復の三種類で」

 私は自分の能力を決めた。

「となると服も、特に重装備ではないな。ちょっと厚手な布の服、ぐらいか」

「そういやこの世界の布って何で出来てるの?」

「基本は海藻だ。繊維を編んで作る。あとは地上と同じように、生物の皮だな」

「ふーん。なるほどねえ」

 私は自分のブラジャーを触ってみる。これが海藻なのかと思うが、よく見れば確かに布目がある。

「そういえば地上の服だって、綿花とかとはずいぶん違う姿になってるもんねえ。海中には海中の布の服があるんだ」

「うむ。お前の装備は、厚手のタンクトップと厚手のスカートといったところかな。装飾品があると泳ぎづらいだろうから、今はシンプルなデザインでいいだろう。それからナイフと、旅の荷物を入れる鞄がいるな」

「いるなったって、それをどうやって調達するの?」

 私は辺りを見回す。今いる場所は洞窟で、岩と泉ぐらいしか見当たらない。

「そこの岩陰に、お前の装備が置いてあることにした。死角になって一度も岩の裏が見えておらず、『何も無い』と設定していないのだから、『実は装備一式が置いてあった』と設定してもおかしくないはずだ」

「へーっ! あんたそんなことできるの!」

「神だからな」

 ノアタムはどや顔で答えた。魚のどや顔なんて初めて見た。ちょっとイラッとする。

「さあ、その岩の裏からお前の装備を出してみろ」

 うながされ、私は岩へと泳いだ。

 岩陰をのぞき込むと、確かに装備一式がそこにあった。

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