表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/44

7 学校の怪談

 相手が完全に立ち止まってしまったため、風太は相手を必要以上にこわがらせてしまったことに気づき、ニッコリ笑ってびた。

「ごめんよ、慎之介。何でもないんだ、気にしないでくれ」

 教師は少しホッとしたように、「気にするよー」とぎこちなく笑い、再び歩き始めた。

「おれは中学に上がる前にこっちに引っ越したからくわしくは覚えてないけど、風太んって、なんかおはらいみたいなことするいえだったろう。だから、風太も霊感とかあるんじゃないのかと思ってたんだよ」

 横を歩きながら、風太は苦笑した。

「近所の子供たちはみんな、そんなこと思ってたんだな。だが、安心してくれ。ぼくには一切いっさい霊感はないからさ」

 逆に、教師は少しガッカリしたように「へえ、そうなんだ」と言ってから、少し含羞はにかんだように笑いながら「実は、ちょっと期待してたんだよね」と付け加えた。

「どういうことだい?」

 教師はハッキリ説明した方がいいと覚悟を決めたらしく、再び立ち止まった。

「気を悪くしないでくれよ。風太を呼んだのは、もちろんパペットのショーを子供たちに見せるのが目的なんだけど、もし、風太に霊感があったら、校内で起きてる変な現象の原因がわかるかもしれない、と思ってさ。さっき言ったウサギやニワトリの件以外にも、おかしなことが、色々起きた、いや、起きているんだ」

「ふーん、そうか。じゃあ、ぼくも慎之介には、ハッキリ言っておこう。霊感がないのは事実だけど、いわゆる魔界のことは少しわかるし、実は、そういう仕事もしてる。まあ、ひらたく言えば、家業かぎょういだってことかな」

 教師の顔がパッとかがやいた。

「そうか、そうなんだな! 助かったあ。ここは学校だから、変なことが起きても、おがみ屋さんには頼めないし、困ってたんだ。風太が幼なじみで良かったよ」

 風太はワザとあきれたように、「なんだよ、最初からタダばたらきさせるつもりだったな」と教師に文句を言った。

 教師は困ったように頭をいた。

「すまん、やっぱり本当は謝礼って高いんだろうな、こういう仕事って。学校からはお金は出ないけど、なんならおれがポケットマネーで」

 風太は笑いながら「冗談さ」と言った。

「慎之介からお金は取らないよ。その代わり、地元の美味おいしいものでも教えてくれればいい。もっとも、パペットパフォーマンスの料金は、ちゃんといただくよ」

「ああ、それはもちろんさ。ちゃんと学校の催事費さいじひから出るよ。それより、校長をあまり待たせられないから、別件べっけんの方は、挨拶あいさつが終わってからゆっくり話そう」

 途中、動物をっていたらしい小屋の前を通った時、風太のショルダーバッグの中身がモコモコと動いたが、風太は小声で「わかっているよ」とささやいて、バッグの上からポンポンと軽くたたいた。

 授業中とはいえ、校舎のあるあたりには活気かっきがなく、子供の話し声などまったく聞こえてこない。静かというより、まるで誰もいないかのようだ。

 校舎の中に入り、一階の廊下を奥に進むと、突き当りの左側のドアの上に【校長室】というプレートが出ていた。

 教師は先に立って校長室のドアをノックした。

「横尾です。今よろしいでしょうか? 今日、人形劇をやってもらう友人を連れて来ました」

 中から「どうぞ」という声がした。高齢の女性の声だ。

 横尾と名乗った若い教師は「失礼します」と言ってドアを開けた。その背中越しに、風太にも室内がチラリと見えた。色々なスポーツ大会の優勝トロフィーが、たくさん並んでいるようだ。

 横尾に続いて風太が室内に入ると、校長らしき人物は立ち上がり、こちらに向かって歩いて来た。六十歳手前ぐらいのせた女性だ。ほぼ真っ白な髪をベリーショートにし、地味な色調のスーツを着ていた。いかにも鬼教師というようなきびしい顔をしている。その視線は、真っ直ぐ風太の髪型に向かっていた。

 怒りだすのかと思いきや、何故かフッと表情がやわらぎ、片手を差し出した。

「初めまして、半井なからいさま。わたくしが、当矢窯やがま小学校の校長を勤めさせていただいております、大志摩おおしま弥生やよいと申します」

「こちらこそよろしくお願いします。半井風太です。風太と呼んでください」

 風太も普通に右手を出し、大志摩校長と握手あくしゅわした。

 一秒、二秒、三秒と時間が過ぎ、無言のまま、なかなか双方とも手を離さない。十秒ほどったところで、どちらからともなく手を離した。 

 校長はニーッと笑い、横尾に「それでは、詳細は飯田先生と相談してください」と指示した。

 校長室を出て職員室に向かいながら、風太のバッグの中身はずっとモゾモゾと動いていたが、風太は自分の考えに沈み、もはや気にしていなかった。

 横尾が職員室のドアを開け、「飯田主任、お話していた友人を連れて来ました」と告げると、中から「おう」と返事があった。

 横尾の後ろから中に入り、待っている飯田という教師を見て、風太はギクリとした。

 校門の前にいた、あの体育教師だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ