表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/44

エピローグ

 県庁所在地けんちょうしょざいちとは思えないほどひなびた駅の一か所に、人が集まっていた。せまいコンコースの中で、その一角いっかくだけは聖域サンクチュアリであるかのように、通行人が皆けて行く。

 その集まりの中心に、ボワッとふくらんだアフロヘアーの若い男が立っていた。デニムのオーバーオールを着て、肩に布製のショルダーバッグを掛けている。まるで、教育テレビに出て来るキャラクターのような格好かっこうだ。

 傀儡師くぐつしの風太であった。

「一応、周囲に結界けっかいを張りましたので、この場では何を話されても大丈夫です。改めまして、総支配人、三日間、本当にお世話になりました」

 仏像のような静かな笑顔で頭を下げた。

 ちょうど向かい合わせの位置にいた、黒いドレススーツを着た有魅ゆみが、真っ赤なルージュをったくちびる両端りょうはしをキュッと上げて微笑ほほえんだ。

「うちのホテルなら、あと何泊してもらっても良かったのに」

「あ、いえ、もう体調も戻りましたし、あんまり居心地いごこちが良過ぎて、仕事したくなくなってしまいますから」

 すると、有魅の横に立っている、真っ白なベリーショートの髪に合う地味な色のスーツを着た弥生やよいが、「風太さん、もう仕事に戻るの?」とたずねた。

「はい、校長先生。おかげさまで、他の学校からも引き合いが来ました。飯田先生によろしくお伝えください。それから、慎之介しんのすけ、いや、横尾先生にも」

「わかったわ。でも、あんまり無理はしないでね。それから、皐月さつき是非ぜひまた来て欲しいと言っていたわ。どうも、あなたを気に入ってしまったみたいよ」うれしそうに笑った。

 それを聞いて、となりの頭一つ背の高い玄田が「残念っす」と言うと、並んで立っていた相原がエルボーをお見舞いした。

「浮気者!」

 二人のやり取りを微笑ほほえましい目で見ていた風太が、「慈典しげのりによろしく伝えてね、相原さん」と頼んだ。

「はい。お見送りに来れなくて、広崎先輩も残念がっていました。でも、以前と違って、今はとても仕事が楽しいんだって言ってましたよ。あ、すみません、総支配人」

 相原がペコリと頭を下げると、有魅は真っ赤な唇で苦笑した。

あやまるのは、こちらの方よ。ダゴンがいる間は、いやな思いをさせて、本当にごめんなさい。でも、残党はすべて、大先生と若先生が綺麗きれいにしてくだすったわ。もちろん、警察や市役所もね。ねえ、若先生?」

 玲七郎れいしちろうは、相変わらず黒いシャツのボタンを一番上までめ、我関われかんせずという態度で立っていたが、「まあな」とうなずいた。

ほとんどは親父おやじのやったことだけどよ。葦野ヶ里遺跡あしのがりいせきからこっちの市街地まで、徹底的てっていてきにクリアにした。ただし、今回は伝統的な妖怪ようかいたちの生活の場は荒らさないように気をつけたらしい。その代わり、いつもより疲れたから温泉に入りたいって言って、この先の有名な温泉地に行っちまった。そんなの、遊ぶための口実こうじつさ。おれは、まあ、ホテルと学校を、ちょこちょこっとやったくらいだな。大したことはしてねえよ」

 風太は「ありがとう、玲七郎さん」と頭を下げた。

「ふん。礼を言うなら、麒麟きりんに言いな。親父も言ってたが、もし、あいつが来てくれてなかったら、マジでヤバかったぜ」

「それはもちろんですが、今回は全員が力を合わせたからこそ、強敵を倒せたと思っています。おお、一番の功労者こうろうしゃが来ましたよ」

 皆が風太の視線を追うと、駅のコンコースとアーケード街をつなぐ通路から、黒い仔猫が歩いて来るところだった。

 黒猫が風太のかたわらまで来ると、ショルダーバッグから、ピョコンと男の子のパペットが顔を出した。

火傷やけどはもう良いのか?」

 ほむら丸の問いかけに、猫叉ねこまたは「肉体が焼けたわけではないから、じきに回復はするであろう」と答えた。

「やはり、ギリギリまでねばったのだな、猫叉?」

「ふん。吾輩が少しでも逃げる素振そぶりを見せれば、ナイアルラトホテプも逃げておっただろう。場合によっては、共に死ぬ覚悟はしておったよ。いや、あやつは死なぬから、共に灰になる覚悟だな。おかげで本体の方はだいぶ焼かれた。それをいやすため、一度は解放してやったこのからに、舞い戻るしかなかった」

「すまぬ。こちらも、少しでも手加減てかげんしていれば、逃げられてしまう可能性が高かった。だから、全力を出さざるを得なかった」

「ふむ。それでよかったのだ。まあ、一万年もすればどこかでよみがえるのだろうが、幸い、吾輩とて、そこまでの寿命じゅみょうはないからな」

「確かに。われも自分が短命のような気がしてきたぞ」

 これを聞いて、風太も苦笑した。

「千年以上も生きてるほむら丸にそう言われちゃうと、ぼくらは蜉蝣かげろうみたいなもんだね」

 玲七郎もニヤリと笑い、「長さの問題じゃねえさ。一期一会いちごいちえと言うしよ。だが」と、風太に向き直り、手を差し出した。

「傀儡師、おめえとは、また会う気がするぜ」

 風太もニッコリ笑って、その手をにぎり返した。

「ぼくも、そんな気がします」

 そのまま、猫叉を含むその場の全員と握手あくしゅわし、風太は改めて別れを告げた。

「それじゃ、いつかまた、お会いしましょう」

 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。

 この作品は、タイトルだけが先に決まり、ほとんど見切り発車でスタートしました。

 ストーリーを交互に進めるということも、最初から考えていたわけではありません。

 結果として、すべての歯車がうまく噛み合い、理想的な結末を迎えることができました。

 これもひとえに、風太を始めとするキャラクターたちの協力のたまものです。心から拍手を送りたいと思います。

 さて、次回のお話をいつごろお届けできるのか、それもまた、風太たち次第です。なるべく早くその日が来ますよう、わたしも心待ちにしています。

 それでは、また。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ