表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/44

22 記憶を奪う者

「おれは無実だ! ここから出してくれ! せめて会社か家族に連絡させてくれ!」

 先程さきほどから何度も同じことを叫んでいるが、誰も来ない。留置場りゅうちじょう勾留こうりゅうされるのは勿論もちろん初めてだが、広崎にもこれが普通の状態ではないことは、薄々うすうすわかった。

 こちらの言い分も聞かず、強引に逮捕たいほし勾留したのに、その後、まるでほったらかしだ。とても警察のやることとは思えない。

 と、接見せっけん用の附室ふしつに誰か入って来た。

「お、おまえは……」

 相手の顔を見て、広崎は絶句ぜっくした。

「おれは広崎慈典しげのり、ホテルのフロントクラークだよ」

 そう言って皮肉ひにくみを浮かべているのは、広崎と同じ顔をした男だった。

「と、言ったところで、誰もうたがわないだろう。ただし、おまえの友人の傀儡師くぐつしのぞけば、だけどね」

「おまえは、何者だ!」

 広崎と同じ顔の相手は、肩をすくめた。

「さあ、本当のところ、自分でもよくわからないんだよ。あまりにも長い年月を生きているのでね。おれの名を人間の発音できる言葉になおすと、ナイアルラトホテプということになるかな。まあ、おれのことはいいだろう。問題は、傀儡師のことさ。おまえの知っていることを聞くために、わざわざ戻って来たのだ。どうだ、取り引きしないか?」

 広崎は激しく首を振った。

「風太の不利になるようなことを、おれが言うわけないだろう!」

 ナイアルラトホテプは、広崎の顔でニヤリと笑った。

「いやいや、おれはただ、傀儡師と仲良くなりたいだけさ。できれば、親友になりたいんだよ。なあ、あいつのことを、色々教えてくれないか?」

「断る! おまえからは、とても邪悪な気配がするからな!」

 ナイアルラトホテプは苦笑した。

「なまじっか霊感れいかんがあるというのも、考えものだね」

 そう言うと、ナイアルラトホテプの体がグシャッとつぶれ、ドロドロした液体のような状態になってドアの下の隙間すきまをすりけ、広崎が留置されている部屋に入って来た。そこで再び立体化し、広崎の姿になった。

「芥川龍之介は、自分のドッペルゲンガーに会って、しばらくして自殺したそうだよ。さあ、おまえは、どうする?」

黙秘もくひする!」

 グッと歯をいしばった広崎を見て、ナイアルラトホテプはあきれたように笑った。

「おお、おお、いよいよ本物の犯罪者らしくなったじゃないか。だが、もう遅いよ!」

 そう言うやいなや、人差ひとさし指を広崎のひたいにピタリと当てた。広崎はクルリと白目しろめくと、ガクガクとひざふるわせながら倒れ込んだ。

うばわれたのが、記憶だけでんだことを感謝することだ。昔のおれなら、おまえはとっくに死んでるよ」

 カチャリと音がして附室のドアが開き、制服の警官が入って来た。瞳が縦線たてせんのように細い。

「ナイアルラトホテプさま、その者の携帯電話の充電が終わりました」

 手に持っていた広崎のものとおぼしき携帯を、相手に見えるように差し上げた。その途端とたん、携帯が鳴り出したため、驚いた警官はまぶたを下から上に閉じ、携帯を落としそうになった。

 そこに、ドアの下をくぐってナイアルラトホテプの手が伸びて来て、携帯をキャッチした。伸びたその手を追いかけるように、再びグシャッと潰れた本体もこちら側にズルリと移動して来た。

 そのまま立体化して広崎の姿になると、電話にこたえた。

「ああ、広崎だ。いや、何でもない。携帯の充電が切れてただけさ。また連絡する」

 電話を切ると、ナイアルラトホテプは広崎の顔でニヤリと笑った。


 その頃、女子寮じょしりょうとなっているマンションの一室で、ようやく畑中との長い通話を終えた相原は、放心ほうしんしたようにゆかに座り込んでいた。

 と、ベランダの方からカリカリという音がしたため、相原はビクッと体を震わせた。すぐに警察に通報つうほうしようと携帯を手にしたが、またカリカリと音がし、続いてニャーというき声も聞こえてきた。

 相原がおそる恐るベランダの方をのぞくと、窓の外に黒い仔猫こねこがいた。一瞬、ホッとしかけた相原の顔が、再び恐怖にゆがんだ。

「ば、化け猫」

 すると、黒猫の体からスーッと影のようなものが抜け出て来て、ガラス窓をそのまま通過し、部屋の中で尻尾しっぽ二叉ふたまたに分かれた山猫のような姿で実体化した。

吾輩わがはい猫叉ねこまたである。化け猫なんぞと一緒にせんでくれ。お嬢ちゃんは背の高い若人わこうどちごうて、実体化せんと吾輩の声が聞こえんようだな。滅多めったに吾輩の姿は見れんぞ。よく、おがんでおくがいい。いやいや、脱線してしもうた。頼みがあるのだ。風太とかいう傀儡師を、助けてやって欲しいのだ」

 相原は呆然ぼうぜんとしたまま、「風太さんを?」とつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ