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21 見る者、見られる者

 大志摩おおしま校長に連れられて風太と玲七郎が保健室へ行くと、さすがに若者同士、玄田と皐月さつきは昔からの知り合いのように打ちけていた。

「あ、もう話し合い終わったんすか? 残念すねえ。今、ゲームの話で盛り上がってたとこなのに」

 玲七郎はニヤリと笑った。

「じゃあ、続きは家でやんな」

「はあ?」

 風太が話を引き取り、「今夜は校長先生のお宅に泊めていただくことになったんだよ」と教えた。

「え? マジすか? いいんすか?」

 大志摩校長もつられて少し笑いながら、「本当よ」と告げた。

「あなたの働いているホテルは、すっかり連中に牛耳ぎゅうじられているわ。義妹いもうとひそかに抵抗運動レジスタンスこころみているけど、やり過ぎると仲間のけ猫たちに危害がおよんでしまうとおそれてるの。だから、今日はもう戻らない方が安全よ。できれば連中を外におびき出して、一気にかたをつけたいんだけど。そのためにも、一度は葦野ヶ里遺跡あしのがりいせきを調べる必要があるわね」

「わかったっす。自分はそんなでもないんすけど、晴美はるみちゃん、あ、いえ、相原さんはすごくこわがってて、いつも、早く研修を切り上げたいって言ってるす」

 風太はハッとしたように、「そうか。彼女は見えるからなあ」とつぶいた。

「そうだ、玄田くん。相原さんと慈典しげのりに電話してみようよ」

 だが、時計を確認した玄田は首を振った。

「二人ともまだ勤務中っす。規則なんで携帯の電源を切ってるはずっす」

「へえ、そうなんだ」

 大志摩校長が、「とにかく、うちに案内させてちょうだい」と提案した。

「車は二台あるから、ゆったり乗せて行けるわ。こういう田舎いなかだから、一人一台ないと不便なのよ。入浴して食事をして、それから電話するといいわ」

 玲七郎は皐月の車に、風太と玄田は大志摩校長の車に、それぞれ分乗して行くことになった。玄田は少し不満そうだったが、玲七郎が風太との同乗をしぶったためだ。

 小学校から三十分ほどで大志摩校長の家に着いた。元々旅館だったというだけあって、おもむきのある古風なつくりであった。

「なんかオバケが出そうすね。あ、すいません」

 さすがにまずいことを言ったと感じたらしく、玄田はすぐにあやまった。

 先に玄関を開けようとしていた大志摩校長も、「面白い人ね」と笑った。

 大浴場だいよくじょうは旅館を廃業はいぎょうした際に解体してしまったということで、交代で家族用の風呂に入らせてもらった。

 浴衣ゆかた着替きがえて大広間おおひろまに行くと、すでに料理が用意されていた。

「すげえ、ご馳走ちそうすね!」

 感激している玄田に、料理を運んできた皐月が微笑ほほえんだ。

「まあ、ありがとうございます」

 昼間の続きで話がはずむ玄田と皐月の横で、風太と玲七郎はそれぞれおのれの考えに沈み、黙々と食べている。

 食べ終わったところで、風太が玄田に「もう、いいかな?」と尋ねた。

「そうすね。ボチボチいいと思うっす。自分は晴美ちゃんに掛けてみるす」

 風太が掛けると、タイミング良く広崎につながった。

「あ、慈典かい? ぼくだ、風太だ。うん、仕事でこっちに来てる。慈典は研修なんだって? いや、そっちには泊まらないよ。ちょっと、知り合いの家に泊めてもらうことになってさ。いやいや、そんなんじゃないんだ。やだな、違うよ。え? 明日? ああ、ごめん、明日は忙しいんだ。実は、葦野ヶ里遺跡あしのがりいせきに行くことになってね。いや、慈典は来ない方がいい。危険だよ。え、なんだって? 玄田くんが一緒だって? それはおかしいよ! あれ? もしもし、もしもーし! あ、切れたのか」

 只事ただごとでない様子に、玄田が掛けかけていた電話を切って風太に尋ねた。

「どうしたんすか?」

「うーん、玄田くんがもう一人いるみたいなんだ」

「え、やめてくださいよ。自分に双子の兄弟はいないす」

「だよね。聞き違いならいいけど。ああ、そっちはどう?」

「話し中っす。晴美ちゃん、結構長電話なんで、ちょっと今日は無理かもっす」

 時間をおいて何度か掛け直してみたが、状況は変わらない。広崎にはつながらず、相原は話し中である。

 二人のやり取りを眠そうな顔で聞いていた玲七郎が、「明日にしろよ。もう、寝ようぜ」と告げると、布団ふとんが並べられた奥のに引っ込んでしまった。

 そのあと、やっと広崎が電話に出たが、充電が切れていたと言うだけで、なく切られてしまった。

「慈典、どうしたんだろう。まあ、悩んでもしょうがないか。明日、もう一度掛けてみよう」

「そうすね。自分もそうします。あ、じゃあ、ちょっとトイレに行ってから、寝るっす」

 皐月にくと、廊下ろうかの突き当りを降りて、中庭を抜けたはなれにあるという。

 玄田は冷えた廊下を歩きながら、しきりに周囲を見回した。

「何か、変だなあ。何か変な声が聞こえる気がすんなあ」

 ハッキリとは聞き取れないが、「帰れ、帰れ」とささやく声がしたように感じたのだ。

 玄田は、廊下の突き当りの階段を降り、置いてあったサンダルをいた。少しふるえながら薄暗い中庭を横切って、離れの扉を開いた。

「和式かあ。ま、しょうがないっすね」

 しゃがんだところで、強烈に視線を感じた。

「ええっ、やだなあ。まさかのぞかれてないっすよね」

 キョロキョロとまわりを見たが、別に異常はない。ふと、天井を見上げ、玄田は絶叫ぜっきょうした。

 そこには、天井をおおかくすほど巨大な目玉が浮かんで、ジッとこちらを見ていたのである。

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