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20 シェイプシフター

 広崎の勤務が終わったのは、夜の8時過ぎだった。昼は遅めに食べたのだが、さすがにもうはらが減っている。研修期間中使わせてもらっているりょうに帰る前に、コンビニに寄ることにした。

 私服に着替えてホテルの通用口を出たところで、勤務中は規則のため切っていた携帯の電源を入れると、すぐに着信音がった。表示を見ると風太だった。

「おお、ちょうど良かった。風太に電話しなきゃと思ってたんだ。この街に来てるらしいじゃないか。うん、そうなんだ、半年間の交換研修さ。たまたま、ある人から風太と会ったって話を聞いて、今日あたりうちのホテルに泊まりに来るんじゃないかと期待して待ってたのに。え? そうか、知り合いの家に泊まるのか。へえ、おまえもすみに置けないなあ。なに? 違うって? じゃ、そういうことにしといてやるよ。あ、それでさ、良かったら、明日会わないか? 忙しい? へえ、葦野ヶ里遺跡あしのがりいせきに行くのか。いいじゃないか。おれも、せっかくこっちに来たんだから、一度は行きたいと思ってたんだ。はあ? 危険? 大丈夫だよ、子供じゃないし、玄田くんと一緒いっしょだからさ。え? おかしいって、何がだよ? あれ? もしもし、もしもーし!」

 いきなり通話が切れ、画面が真っ暗になっていた。充電切れだ。

「まいったな。どっちにしろ、早くコンビニに行かなきゃ」

 歩き始めたところで、「広崎せんぱーい!」と呼ばれた。女の声だ。

 薄暗うすくらがりの中をパタパタと走って来たのは、相原だった。

「あれ? 女子寮は反対側じゃなかったっけ?」

 相原は、口角こうかくだけを上げて笑った。

「先輩に会いたくて、待ってたんです。今から夜食の買い出しでしょう? 付き合いますよ」

 そう言うと、いきなり広崎の腕に自分の腕をからませた。

「おいおい、玄田くんに怒られるぞ」

 冗談じょうだんめかして腕をほどこうとしたが、ますますギュッとつかまれた。

「いいんです、あんなやつ。それより、明日、風太さんに会いに行くらしいですね。ご宿泊先とか、わかりました?」

「あ、ああ。知り合いの家らしい。ちょうど携帯の充電が切れちゃって、くわしいことは聞けなかったけど。そうそう、明日、葦野ヶ里遺跡に行くって言ってたから、直接行ってみるかな。向こうで会えるかもしれないし」

 すると突然、相原は広崎の腕をはなし、大声で叫んだ。

「やめてっ! 何するんですか! 痴漢ちかんよーっ! 誰か助けてーっ!」

 何故なぜ相原の態度が豹変ひょうへんしたのか、広崎にはさっぱりわからない。

「ど、どうしたの、相原さん?」

 広崎の動揺どうようなどおかまいなく、相原は大声で叫び続けた。

 すると、どこからともなく、二人の制服警官がけ寄って来た。

「おじょうさん、どうしました!」

「おまわりさん! この人、痴漢です! 助けてください!」

 何がどうなっているのか、広崎には理解できなかったが、このままでは非常にマズいことになるのは確実だった。

「違います! 誤解です! おれは何もしていません!」

 だが、警官たちは聞く耳を持たなかった。

「言い訳するな! 話はしょで聞く!」

 もう一人の警官が、広崎に手錠てじょうを掛けた。

「20時30分、確保!」

「違うんです! 相原さん、うそだと言ってくれ!」

 相原はまた、口角をキューッと上げて笑った。

「まあ、なんて図々ずうずうしい痴漢なの。お巡りさん、うんとらしめてやってください!」

勿論もちろんですとも!」

 そうこたえた警官たちのまぶたは、下から上にじた。

 なおも抵抗する広崎を、二人かりでパトカーに引きって行った。

 不自然なほど口角を上げて笑っている相原の横に、いつの間にかジャージの上下を着た男が立っていた。男は極端な三白眼で、口が異様に横に広かった。

「うまく行ったようだな、ナイアルラトホテプ」

「はい、ツァトゥグァさま。背の高い男の時には接触に失敗しましたが、その後、うまくこの女にチェンジできました。明日は、今の男として傀儡師くぐつしに近づいてみます。わたくしの変身は、余程よほどる』力のある者しか見破みやぶられまませんので」

 そう言いながら、相原の姿から広崎に、徐々じょじょに変化しつつあった。

 それをたのもしに見て、ツァトゥグァは細長い舌をヒラヒラさせながら笑った。

「これで、ダゴンのさきせるな」

 ナイアルラトホテプは完全に広崎の姿になり、大きくうなずいた。

勿論もちろんですとも。大司祭だいしさいさまの後継者こうけいしゃは、ツァトゥグァさま以外に考えられません」


 その頃、相原は、女子寮として使われているマンションへ小走りで向かっていた。時々振り返っては、おびえた様子で周囲を見回している。マンションの玄関のセキュリティを抜けると、幾分いくぶんホッとしたようだが、自分の部屋に入るまでは急いだ。

 部屋に入り、ドアをロックすると、ヘナヘナと腰を抜かすようにその場に座り込んだ。すぐにハッとして、バッグから携帯を取り出すと電話を掛けた。

「あ、畑中先輩! 夜分にすみません。またこわいことがあって。ええ。帰りに玄ちゃんと会ったんですけど、様子が変で、あたしの腕をつかんでニタニタ笑うんです。よく見ると、姿は玄ちゃんなのに、本当はグニャグニャと不定形なのがわかったんです。あんなの玄ちゃんじゃありません。いいえ、人間じゃありません!」

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