15 援軍来たる
「改めてお願いしますが、パペットショーは予定どおりにやらせてください」
風太の申し出に、大志摩校長はホッとしたように微笑んだ。
「本当にいいの?」
「はい。勿論、校内を完全にクリアな状態にして、充分な結界を張った上ですが、やった方がいいと思います。実は、この学校に来てからずっと気になっていることがありまして」
「何? 遠慮なく言ってちょうだい」
「全くと言っていいほど、子供たちの声が聞こえないんです。特に笑い声が。これは非常に危険です」
「わかるわ。陰の気が籠もる、ということね」
「はい。邪まな存在に、付け入られ易くなります。やはり、笑顔のバリアは強力ですから」
そう言いながら、風太自身もアルカイックスマイルを浮かべた。
「そうね。わたしたちも、敵ばかり警戒して、肝心の子供たちの心のケアが足りなかったのね。早速飯田主任に話して、教師を含めてみんなをもっとリラックスさせるように指導させるわ。そのためにも、ショーはうんと楽しいものにしてよ」
風太は苦笑した。
「あちゃあ、ハードルが上がっちゃいましたね。精一杯頑張ります」
大志摩も少し笑いかけたがすぐに真顔に戻り、「その後、あいつらへの対策はどうするつもり?」と尋ねた。
「そうですね。この学校の護りを固めたら、いずれにしろ一度葦野ヶ里へ行ってみるつもりです」
「やっぱり、あそこがあいつらの拠点なのかしら?」
「発見されたという巨大な甕棺というのが気になります。恐らく、繭だと思います」
「コクーン?」
「ええ。海底に封じられていたという、古きものの首魁が入っていたのかもしれません」
「だとしたら、あなた一人じゃ危ないわ」
風太はニコリと笑った。
「応援を呼びます。ああ、そうだ、ショーの間に召喚したいのですが、二時間ほど人が出入りしない場所を貸していただけませんか?」
「確か、今日は視聴覚教室を使う授業の予定がなかったから、使ってちょうだい。それも飯田主任に言っておくわ。式神を呼ぶのね?」
「はい。一体はすでにこちらにいるので、あと三体召喚します」
ショーは盛況だった。腹話術による軽妙なパペットの掛け合いと、意外性のあるマジックの組み合わせが、子供たちに大いにウケた。飯田も「久しぶりに子供たちが思い切り笑うのを見た」と目を潤ませていた。
その間、ほむら丸は姿が見えぬよう位相をズラした状態で、校内のあちらこちらをパトロールしていた。
ショーを終え、子供たちに取り囲まれないよう体育館の裏口から出て来た風太に状況を報告するため、ほむら丸は実体化した。人目に付かぬよう、オオカミの形がハッキリしないほど炎を薄くしている。
「少なくとも今は、校内には一匹もおりませぬ」
「ありがとう。もうそろそろ召喚も終わってるはずだ。みんなに会うかい?」
「ご遠慮いたします。他の二体はともかく、みずち姫と会えばまた喧嘩になりますので」
「喧嘩するほど仲がいいってことは、なさそうだね」
ほむら丸が炎を一瞬メラッと濃くしたのを見て、風太はおかしそうに笑った。
「笑い事ではござりませぬ」
「ごめんよ。じゃあ、引き続き見回りを頼む」
「御意」
再び隠形したほむら丸に警戒は任せ、風太は教えてもらった裏の通路を使って視聴覚教室に向かった。
風太が教室の前に着くと、中から話声が聞こえて来た。
「これじゃから、式神使いの荒い若君に仕えるのは大変なんじゃ」
「おばば、そう拗ねるな。わしらなんぞ、滅多に呼ばれんわい」
「誰が、おばばじゃ!」
風太は苦笑しながら、「入るよ、いいかな?」と告げた。
視聴覚教室のドアを開けると、風太は正面のステージに真っ直ぐ歩み寄った。
ステージの中央には真っ黒な大蛇、その左には雪だるまのような形の泥の塊、反対側には青い小鳥が飛び回っている。三体に共通しているのは、体が半透明であることだ。
風太は等分に三体を見て、嬉しそうに笑った。
「みずち姫、ぬかり坊、つむぎ、よろしく頼むよ」
三体を代表するようにみずち姫が風太に尋ねた。
「すでに犬神も来ておるようじゃが、地水火風の四元が揃い踏みとは、余程の難敵かえ?」
「ああ、強敵だ。古きものと呼ばれる邪神たちだ」
その名を聞いて泥の塊が驚きの声を上げた。
「あな恐ろしや。わしらで大丈夫かのう」
青い風のようにせわしなく飛び回っていた小鳥が「ケッ」と嘲笑うように鳴いた。
「ぬかり坊は何時だって悲観的だからイヤんなる。あたいは平気さ。相手が誰だろうと、この嘴で切り裂いてやる!」
風太はまた苦笑して「つむぎ、あまり無茶はするなよ」と窘めた。




