傘の進化
人間が鉄の塊に乗って宇宙に行く時代、傘の姿や性能は大して昔と変わらずに現在に至る。いい加減大きな変化を遂げても良いのではと感じた私は、傘の改良に取り掛かった。
私はまず、片手が塞がれるという欠点を改良した。取っ手と軸の骨を取っ払い、代わりとなる、密かに開発を進めていた伸縮性の楕円形反重力装置を傘の内側に取り付けた。これによって、傘を持つ手間が省け、両手が自由になるのだ。
次に私は、傘に雨雲感知センサーを付け、雨を感知した傘が、人がいる時にだけ自動で開くようにし、最後に、誰にでも扱いやすいよう音声認識装置を取り付けたのだった。
これで、従来の傘からはだいぶ進化した最新の傘が完成したと言えよう。
それから数日後、テレビの天気予報は雨を伝え、私はまだ雨が降る前の、どんよりとした雨雲が支配する空を確認すると、進化させた最新の傘を持ち、近所のコンビニへと出掛けた。
買い物を済ませ、外に出る頃にはポツリポツリと丁度小雨が降り始めた。この日の為に開発した傘を差そうと、楽しみと期待の心持ちで傘立てを見た私は、思わず独り言を口にした。
「…そうか、傘が盗まれる事を考えていなかった」