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ショートショート「ガラス片」

作者: 紙屑

一丁前な口を叩くようで本当は気が引けるのですが、本当のことなので正直に書き記したいと思います。この小説は個人的にですが文のリズムを大切にして書き上げました。歌うように流れるようにを意識して書いたのですが、おそらく最初はむしろ読みづらいと感じる方がほとんどだと考えます。どうか意識したことが良い方向に作用し、最終的にははからずも癖になった、ちょっぴりだけれど面白かったと思って頂けると良いのですが。……どうぞ宜しくお願い致します。

 可愛いものしかいらないと、あなたはいつでも言っていました。家でも外でもどこででも、口が酸っぱくなるくらい。どんな時でも着飾って、誰の前でも気高くて。胸張り上向き見下ろすの。おまけに腕を組みながら。 

 集めることが癖でした。趣味というより習性です。欲しくなったら入手する。好きになったら奪い取る。でも可愛くないなら切り捨てて、醜いのなら何もしない。これはつまりはこだわりでした。あなたの中の鉄則でした。何があっても守らねば。心の中に刻みます。あなたはそれを破れません。絶対絶対破れません。何故かは一択爽快だから。あなたが決めたこの掟。あなたにとっての宝物。これさえあれば許されます。傷を付けても壊しても、何をやっても大丈夫。あなたのせいにはなりません。誰一人としてとめられない。喜ばれたりもしちゃうのです。反ってあなたは尊くなって、それからいっぱい褒められます。「何でこんなに可愛いの?」。にこにこしながら寄ってきます。「あなたがいないと何にも出来ない」。たくさんたくさん感謝をされます。あなたは心底誇らし気でした。それゆえあなたは最も可愛い。

 ある日あなたは遊んでいました。友達一人と二人きり。その子はとても綺麗な子でした。髪はつやつや眉きりり、目の玉大きくまつげも長い。唇ぷるんとしています。肌もすべすべおまけに小顔。鼻高々とはこのことでしょう! けれどもその子はしとやかでした。静かで控えめ、一人を好む。いつでも本とにらめっこ。誰かが声をかけたとしても、うんともすんとも言いません。笑いもしないし泣きもしない。ただただひっそり壁際にいる。気付けば勉強してました。もくもく鉛筆走らせながら。テストで満点当たり前。誰もその子に勝てません。一生懸命頑張って、必ず倒してみせると張り切る。それでも結局負けちゃいます。だんだんやる気も失せていき、悪口ばかりが飛び交います。ひそひそ話を大きな声で。全く隠れていないのです。その子は黙って聞いています。机に広げた分厚い本。添えてる手の平小さいです。背中はぴんと伸びていました。目の玉両方落ちそうでした。  

 あなたはその子をオブジェとしました。周りが何と罵ったとて、あなたは構わず近寄ります。ずんずん手を振り大股で。どんどん荒ぶり隣に座り、こつんと一回爪先当てます。履いている靴は新調し立て。その子はびっくりしてました。けれども目の玉落ちません。ビー玉みたいに光っていました。

 それからその子は友達に。ぴったりくっつき離れません。どこへ行くにも連れ添います。例えばそれはアヒルの番い。天気の良い日も雨の日も、外出てあなたと共にある。びしょびしょだって気にもしない。晴れているなら儲けもの。よっぽどあなたを気に入ったのね。ますます綺麗になりましたとさ。文句や陰口何のその。からかわれたってへっちゃらさ! 加えてあなたが優しいの。……好きになるには十分でした。

「勉強出来て凄いわね」

 あなたはその子を煽てます。さすれば決まって、「それほどでもない」。

「今度教えてくれないかしら?」

 「嫌よ」と品良く首振ります。あなたはすぐに「どうしてなのよ」。だけども黙ったままでした。それからてへへと笑ったのでした。あなたはむっとし「嫌みはやめて」。慌ててかぶりを振りました。なぜならばそれが肯定だから。あなたは首をかしげます。きょとんとしていてなおおかしい。

「可愛い顔で笑うのね」

 すんなり何気に出た言葉。すると今度はぽっとします。頬を赤らめもじもじと。綺麗じゃなくて可愛いと、あなたに呼ばれてしまったせいで、瞳はとろんと溶けたのでした。

「教えてあげたら何かをくれる?」

 勇気を出して聞いてみた。震えて、しかもか細くて、こんなに近くにいるのだけれど、届いているかがとても不安。それだけ言うのにどうして疲れる? その子を支える一つの疑問。分かってしまわぬようにとわざと、とぼけたふりする純情娘。答えはすでに知っている。口に出すほど野暮ではない。

「それじゃあこんなのどうかしら?」

 あなたは言って、くしゃくしゃと、頭を撫でます強引に。犬でもしつけるようでした。整う毛束は乱れてしまって、絡まり合ってて痛そうです。だけれどにんまりしてました。舌出し寝そべり転がります。思ったよりも大胆だった! もしもしっぽが生えてるのならば、千切れるくらいに振ったのでしょうよ。

 その子は子分と化しています。あなたにお菓子を貢ぐ役。袋の中にはクッキーが。手作りしてきた一品でした。ぱくりとすぐに丸呑みし、「明日も作ってくれないかしら?」。間髪入れずに敬礼し、「もちろんですとも任せてね」。ぴゅうっと家へとまっしぐら。自慢の腕を奮う時。すかさず本棚漁ります。蓄えてきた知識を元に、あなたのことだけ考えて。簡単でしたよ何もかも。不得意なものは一つもないのさ。眠たくなっても何のその。慣れっこなのよと力を込めます。

 まずは材料用意します。バターを出します冷蔵庫から。固いままではいけません。上手に混ざってくれないからです。その子は少しぴくりとします。それから袖をまくります。くるくるではなくぐるぐると。ふうっと息吐き気合いを入れます。納得いかない最後にするな。出てきた細腕ナイフのようです。その子は真剣そのものでした。寸分違わず量った砂糖。ほんとはもっと使いたい。食べられないほど甘くしたい。そういう気持ちを押し殺し、美味しくするのを優先します。あなたを想って作った結果が甘ったるくて食えないじゃあ、本末転倒でしょうから。卵はちょっと奮発しました。朝一番に採ってきました。産みたてほやほや新鮮です。卵黄だけを取り出します。白身はすかさず排除します。乾燥せぬようラップをかけます。ぷっくら艶立つ黄身をこそ、あなたに見立てているのです。乾いてしまわぬようにと願う。好意という名のラップで防ぐ。その時その子は不敵に笑みます。目玉は焼けているようでした。

 さあさあお次は薄力粉! ふるいに掛けますなぜならば、不純なものを取り除くため。落としていきますトントンと。真っ白な粉が揺れています。弾んで舞って、空気を食べます。まるで踊っているようでした。用意周到異常なほどに。神経を大分すり減らしました。眠たくないのはそういうわけかな? 部屋のランプはちかちかとして、今にも切れてしまいそう。外を見やると真っ暗でした。

 準備が整いましたので、さっそく作っていきましょう! ボールにバターを入れまして、それから砂糖も入れまして、へらでじっくり混ぜていく。ねっとり纏わり付いてきます。その子はうっとりしてきます。力んでいたのが緩みます。混ぜるというより押し付ける。ゴム製のへらをあてがっていく。ボールの底に先っぽぶつかる。その都度跳ね返るのです手の中に。たっぷり残るの衝撃が。それはあなたが拒んでいるから? ちょっぴりだけれどカチンときたので、ぎゅうっと握ってみましたよ。けれども折れない何でかな? 折らないようにと手加減してるの。べとべとになってしまったバターを、小指ですくって口の中。歯に塗るようにし舌先動かす。よだれは立派な潤滑油。その子の口内びちゃびちゃでした。湿っているのは果たしてそこだけ? 泡立て器を持ち砂糖を入れます。ゴムべらはそっと置きました。滑らかに足してざらざらを。その子はひたすら泡立てます。一心不乱に掻き立てます。腕の骨がみしみしとなります。気にする素振りもありません。ざらつき始める耳の奥。鼓膜が震える小刻みに。喘いでいるのはあなたかな? 休めるどころか加速します。どろどろであったクリーム状。粒々挽かれてさらさらになった。つっかえつっかえだった手は、案外すんなり回っていました。ぎしぎし呻いていなさいと、その子はボールに呟きます。呼吸はぜいぜいしてました。返事を待ってる暇などない。卵黄投入、再出発! てかてかしているその表面を、迷わずびちゃりと潰します。攻めるは一気に容赦なく。でないと苦しくなっちゃうからね。とろけていく様血のようでした。両手でじっくりかき混ぜます。祈りを捧げているかのようにし、その子は天を仰ぎます。あるのは壊れた電灯一つ。消えずにいるのが不思議です。眩んだまなこを瞑ります。眼中光がのたうち回る。あなたに傷を付けられます。ひっかき刻んだものなのか。刺されて生じたものなのか。どちらであっても問題はなし。なぜならちっとも痛くはないから。薬を塗布するかのようにして、あなたがじんわり染みてきます。すると眼球元通り。反って艶めく宝石です。残すは磨いていく作業。あなたに研磨をして貰うだけ。荒々しくても平気です。瞼は爆ぜますなぜならば、剥き出したいのよ眼球を。穿るのもまた一興かもね。そっちの方が隈無く擦れる。いっそ全てを粉塵にして。盲目にしてよ、あなたの指で! その子は粉を一度に撒きます。切るように混ぜるいや圧迫する。生地が悲鳴を上げていく。叩いてしばいて屈服させるの。白ではなくするその体裁を。そしたらポロポロ零れていくわ。まるで涙のようにして。……泣いているのねかわいそう。だけれど分かって裏側を。傷つけてなんかいないんだから。壊れていくのはあなたじゃないのよ。ほらね、みるみるまとまってきてる。さっそく中から取り出しましょうか。赤子をそっと取り上げるように。吸い付いてくるの手の中に。接着するのは汗かしら? いやもしかすると破水というやつ? 幻聴でしょうか産声が、ぺとぺとくっつく全身に。まるで聖歌のようでした。生まれてきたのは単なる菓子生地。 

 ……熱中していた酔い痴れていた。だからでしょうね、おそらくは。見落としていたの塊を、寝かせる必要あったこと。一晩格納するべきだったと今更になってはっとする。瞬間冷凍、心はカチコチ。凍える吐息が空しく当たる。開けすらしないの冷蔵庫。間違えちゃったね盛大に。手作りクッキー渡すのは、不可能なんだよなぜならば、外が白んできてるでしょう? つまりは夜が明けちゃったんだよ。


「約束破ってごめんなさい」

 あなたの脛にしがみつき、鼻水たらたら流します。

「約束なんてしたかしら?」

 耳を塞いでいた訳ではない。だけどもどうして? よく聞き取れない。

「冗談やめてよ笑えない」

「いいえ丸きり記憶にないわ」

「頼んできたのはそっちでしょう?」

「忘れっぽいのよ昔から」

「教えてあげたら思い出す?」

「さあどうかしら? 多分無理」

「教えてあげる。……好きだと言って」

「嫌いになったわ怖いから」


 可愛いものしかいらないと、あなたがいつでも言ってたおかげか、友達全員ジュエリーでした。一つは真っ赤なルビーです。一つは真っ青サファイアです。エメラルドだって手に入れました。他にもオパール加えてクオーツ。ターコイズもあるガーネットもある。パールにトパーズアクアマリン。溢れんばかりのコレクション。数に限りはありません。煌びやかでした豪勢でした。神々しくさえありました。囲んだそれらはずっしりしてます。準じて欲望満たされます。「今日も可愛い」、「明日も可愛い」。(みな)してあなたを称えてくれます。最高級の賛辞をくれます。あなたはそれらを誇らしいとした。だから、あなたは間違えたのです。

どうでしたでしょうか?前書きでの危惧が杞憂である事を切に願います。改めてにはなりますが宜しくお願いします。

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