第31話 旅立ち
第2章最終回です。
「世界を救うか……」
ラシャルは口角を上げて、薄く笑った。
「1度は言ってみたい台詞だね。ねぇ、オリヴェラ」
「は? ……はあ」
オリヴェラは呆れた様子だった。
ラシャルは今一度、青年と少女の方に顔を向ける。
きちん、と2人の顔を見た後、頷いた。
「わかった。それでいいよ」
「陛下。よろしいのですか?」
カイルとアイーナは顔を輝かせた。
一方、オリヴェラは不満らしく、王に確認をする。
ラシャルは執務官の顔を見て、頷いた。
「いいと思う。少なくとも彼が敵ではなくなるということは言質が取れたんだ。今は、それでいいと余は判断する」
「…………」
オリヴェラはカイルに矛先を向ける。
恨みがましそうに、眼鏡の奥から睨んだ。
部下のことはひとまず無視し、ラシャルは話を続けた。
「ともかく、【極神騎】の調査は承った。というより、国としてもその調査は必要だと感じている。ビーストビーズ、ディルブレイドを含め、世界で確認されている残りの【極神騎】についてもね。オリヴェラ、頼めるね」
「は! 総力を挙げて、情報収集を開始します」
「頼むよ。……と、今のところはこんなところかな。ところでカイル。調査報告を待つ間、君はどうする? 魔法学院で勉強かい?」
「それで陛下……。少し困ったことが起こってまして」
「まさか、また余に頼みごとなのかい? 王の特権を乱用しすぎてないかな」
「いえ。滅相もありません」
カイルは大きく手を振った。
隣のアイーナは尻尾をぶんぶんと横に振る。
慌てる若い2人に助け船を出したのは、オリヴェラだった。
軽く咳を払うと、ラシャルに進言する。
「実は、件のスキルイーターですが、先日の戦闘により自己修復限界の部分まで破損してまして。現在、王国の騎渠にて調査しているところです」
「直るのかい?」
「専門家の話によると、王国では難しいかと。幸い精励起動機には問題ないのですが、一部の魔導伝達繊維や装甲が、修復不可の状態になっているようです」
「なるほどね……」
ラシャルは顎を撫でながら、考えた。
王国の整備班は優秀だ。
しかし、それは【亜人騎】に限る。【極神騎】はその範囲ではないのだ。
ラング王国もマッドバイルという【極神騎】を要しているが、そのメカニズムや、真繊維についてはわかっていないところが多い。
【極神騎】を良く知る者でなければ、修復するのは難しいだろう。
「精励起動機が無事というなら、ボトムミッドに運ぶしかないか」
「はい。私もそう考えていました」
「ボトムミッド?」
まだ世界の事に詳しくないカイルは首を傾げる。
横にいるアイーナが説明をしてくれた。
「ドワーフ族が住む大陸です。【亜人騎】の装甲や部品の約80%がそこで作られていると聞いたことがあります」
「へぇ……」
「ですが、ドワーフ族の中にも【極神騎】を扱ったことがある職人は少ない――いえ、皆無に等しいでしょう」
「だけど、ラング王国の騎渠に置いておくのもね。やることはやらないと」
「では、陛下……。スキルイーターをドワーフたちに預けることは」
「了承するよ。ついでに彼ら2人の旅費費用も王国が負担しよう。ただし、贅沢はしちゃいけないよ。オリヴェラがうるさいからね」
「わ、私はそんな貧乏臭くは――」
「何を言っているんだい。何かと経費経費と言う癖に」
オリヴェラの白い顔が、赤くなった。
カイルが苦笑すると、氷のような眼差しが飛んでくる。
慌てて口を噤むが、彼女の怒りが鎮火することはなかった。
「すいません。陛下……。何か何まで」
「いいんだよ。これぐらいは。君は不本意かもしれないけど、スキルイーターは我が国の大事な戦力だ。それをみすみす倉庫の中で埃をかぶせるわけにはいかないよ」
ラシャルは腰を上げた。
「さて。お願いごとはこれぐらいかな?」
「は、はい! 陛下、ありがとうございます」
カイルとアイーナは慌てて立ち上がる。
「うん。なかなか有意義だったよ。年の近い人間と喋るのは随分久しぶりでね」
「失礼ですが、陛下は今何歳なんですか?」
「そうか。君は知らないのか。今年で20歳になるよ」
――若ッ!!
カイルは思わず仰け反りそうになった。
「今、若いと思っただろう。大変だったんだよ。この年で王になるのは。いや、むしろ今の方が大変なんだけどね」
大変、と言葉を使いながらも、ラシャルは笑った。
どこか表情は充実していて、ちょっぴり羨ましいと思う。
5000年前にも、こんな王がいれば、と思わずにはいられなかった。
「また会おう、カイル。君とはもう少しじっくり話したい」
「是非。ボトムミッドから帰った暁には、参内させていただきます」
「うむ。それまでに報告を上げれるようにしておこう。では、カイル・バレッド。アイーナ・ミロット。良い旅を」
こうして王との謁見は終わりを告げた。
★
王の謁見から10日後。
カイルの姿は王都の南門にあった。
騎体運送用の馬車の荷台には、幌をかぶせられたスキルイーターが寝かされている。その周りには、十数名ほどの護衛騎士が目を光らせていた。
「オリヴェラさん。何から何までありがとうございます」
カイルは手を差し出した。
スキルイーターの搬送の手続きや護衛の確保など、諸々手配をしてくれたオリヴェラは、少し間を置いてから、青年の手を握る。
「別に。感謝されるような事はしていません。私は王の命令に従っただけです」
「相変わらずオリヴェラ執務官は硬いですね」
「仕方あるまい。兵学校では“鉄の女”と呼ばれ、男性諸氏に恐れられたほどの傑物なんだぞ」
褒めているのかけなしているのか、よくわからない総評を送ったのは、見送りにきたアミニジアとマレルドだった。
聞けば、オリヴェラは彼らの後輩でよく知る仲らしい。
だが、どう見ても、オリヴェラは2人を煙たがっているように見えた。
やれやれという感じで、執務官は息を吐く。
「どうしてあなたたちがここにいるのですか?」
「ボクは後見人だよ。見送りにきて当然じゃないか」
「俺は未来の上司だからな」
即反論が返ってくる。
涼しげな顔に、青筋が浮かんでいくのを見て、カイルはゾウとした。
オリヴェラは気を取り直して説明する。
「南の港町についたら、そこから海路です。残念ですが、そこからはお2人で行くことになります。一応現地に駐在員がいますので、指示に従ってください」
「はい。わかりました」
「カイルくん」
声をかけたのは、マレルドだった。
「ニールから伝言だ。必ず帰ってきて、昼食をおごらせてね、だそうだ」
「……はい。必ず戻ってきます」
「アイーナくんも気を付けるんだよ。特に夜とかにね」
アミニジアはニヤリと笑う。
カイルはポカンとしていたが、アイーナは意味を察して顔を赤くした。
何かの妄想を振り払うように、尻尾と頭を振るう。
「き、気を付けます」
とだけ返事した。
そうこうするうちに出発の時間になった。
2人は馬車に乗り込む。
扱うのは、王国の騎士だ。
「じゃあ、しばしの別れだ。息災にな、2人とも」
「鍛錬を怠るなよ、カイル」
「はい。お2人ともありがとうございます。必ず戻ってきます」
馬車の上から手を振る。
見送った3人が見えなくなるまで、カイルは振り続けた。
1度、お城の方を見る。
ラシャルはきっと今日も執務に忙殺されているのだろう。
心の中でお別れを告げ、カイルは荷台に戻った。
「ごめんね、アイーナ。付き合わせちゃって」
アイーナは頭を振る。
「私はカイルさんについて行くって決めてますから」
「でも、そのために魔法学院を休むことになってしまった」
「勉強も大事です。けど、カイルさんのやろうとしていることの方が、もっと大事ですから」
花のような笑顔を浮かべる。
いつものアイーナの表情。
何度も、カイルを立ち直らせた笑みだ。
青年は微笑みを返す。
心の中で再度誓いを立てた。
これからもずっと、この笑顔を守っていくと――。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今後の方針については、活動報告に記載させていただきますので、ご確認いただければ幸いです。
端的に申し上げると、手直ししたい部分が多々あって、期限を設けて削除することを考えています。
その後、発表の媒体を変えることも含めて、更新を考えております。
何か動きがあれば、Twitterや活動報告にてアナウンスさせていただきますので、今後ともよろしくお願いします。
ブクマ・評価・感想をいただきありがとうございました。
今後の新作についても、楽しみにしていただけばと思います。




