第27話 花火
『隊長! 作業完了です!!』
リミットのギリギリまで作業をしていた【亜人騎】が次々引き上げていく。
残ったのは2体の【極神騎】のみ。
1体は緑衣のスキルイーター。
1体は魔石を付けたマッドバイルである。
その内の1体。
スキルイーターの騎手室で、ミリオは声をかけた。
『アイーナ。大丈夫か?』
「……え。あ、はい――」
猫耳族の少女の手は震えていた。
尻尾にも耳にも力はない。
こんなことではダメだ。
またカイルに心配される。
そう思う彼女だったが、精晶窓に映る現実に竦みあがらずにはいられなかった。
「アイーナ……」
カイルが声をかける。
また心配される。
そう思ったが、青年は前を向いたままだった。
「君は俺が守る」
ただそれだけ言った。
アイーナの中で澱んでいた恐怖が、スッと取り払われる。
「はい!」
少女は笑う。
そして挑むように精晶窓を見つめた。
『カイルくん。準備はいいかな?』
外部音声でアミニジアが声をかけてくる。
「はい! 行けます」
『いい返事だ。では、盛大にあげよう。人類史上稀に見る大きな花火を』
2騎の【極神騎】は顔を上げた。
そこには大きな影があった。
巨大な崖がそびえているように見える。
それは魔獣――ガロンデイル。
大きな甲殻を動かし、2騎の【極神騎】に怯むことなく向かってくる。
その巨体はすでに地雷原に踏み込んでいた。
スキルイーターも、マッドバイルも動かない。
カイルは精晶窓を凝視し続けている。
操縦桿を掴む手に、じんわりと汗を掻いていた。
騎手室に沈黙が落ち、皆が皆――目の前の事に集中していた。
ガロンデイルは不気味な音を立てて迫ってくる。
その腹は地雷原に完全に入った。
『カイルくん! 今だ!!』
マッドバイルは宝石の付いた槍を掲げた。
ミリオとティラーダ両精霊の声が揃う。
『【炎魔法】起動する!』
『【炎魔法】起動します!』
そして――。
「「炎よ!!」」
スキルイーターの手とマッドバイルの槍から炎が吐き出される。
地面に引かれた導火線に火がついた。
片や【炎魔法】Lv999。
片や【炎魔法】Lv485。
膨大な炎圧が敷設された導火線を一気に滑っていく。
ガロンデイルの腹の下はまさに火の海だ。
それでも魔獣の行進は止まらない。
我関さず、と無数の肢を動かし、骨が軋むような音を立て、王都に迫ってくる。
カイルもアミニジアも怯むことはない。
手を地面に向け、炎を吐きだし続ける。
膨大な炎が地面に接地された火薬に点火した。
ゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンン!!
耳が吹き飛ぶような轟音が響いた。
衝撃波が大地を這う。
いかな【極神騎】といえど、襲ってきた衝撃に耐えられなかった。
スキルイーターとマッドバイルは地面を転がる。
「きゃあああああああああ!!」
「ぐああああああああああ!!」
騎手室でカイルとミリオの悲鳴が響く。
さらに爆風に煽られ、気が付けば両騎は、城壁に叩きつけられていた。
『カイル! 大丈夫か』
「ああ。なんとかね。アイーナは」
「大丈夫です」
ミリオの言葉に、騎操者は反応する。
宿主であるアイーナも無事だ。
「それよりもどうなった?」
『待て! 精晶窓を回復させる』
衝撃でブラックアウトした精晶窓を再起動する。
再展開され、映った光景に、カイルは息を呑んだ。
ガロンデイルは立ち上がっていた。
腹の底を見せ、その頭部は今にも、空を食みそうだ。
肢をジタバタと動かし、もがいている。
巨体はゆっくりと前へと倒れようとしていた。
『まずいぞ! このままではひっくり返せない!』
ミリオが叫ぶ。
さらにスキルイーターの横から外部音声が聞こえた。
『くそ! 爆薬の量が足りなかったか!!』
アミニジアの声だ。
だが、先ほどの余裕はまるでない。
マッドバイルは忌々しげに、徐々に元のポジションに戻ろうとするガロンデイルを見上げていた。
爆薬の量が足りなかったのもある。
だが、やはりその量をすべて一気に吐き出すには、まだ火力が足りていなかったのだ。
作戦は失敗。
城壁から見ていた【亜人騎】部隊に、沈痛な空気が流れる。
そんな中で、マレルドは決断しなければならなかった。
退却――。
玉砕覚悟で突っ込むのは、騎士としての本望かもしれない。
マレルドには隊の長としての責任がある。
忸怩たる思いだが、ここは退くしかなかった。
諦めムードが漂う中。
1人――いや、1騎の騎体が立ち上がった。
『まだだ!!』
青年の力強い言葉が、王都と平原に響き渡る。
『アミニジアさん! 俺を――スキルイーターを【風魔法】でガロンデイルまで吹き飛ばしてください!』
『な、なんだって!』
『あともう一押しなんです! 【風魔法】の衝撃と、スキルイーターの推力があれば、倒せるかもしれません』
そう。
確かにもう一押しかもしれない。
立ち上がった巨体は、そのままフラフラと動きながらも、なかなか倒れてこない。
1つ大きな力を加えれば、どっちにでも倒れる――微妙なバランスの元にあった。
『しかし、そんなことをして大丈夫か? 騎体がバラバラになるかもしれないんだぞ! カイルくん!』
『スキルイーターならやれます! 時間がありません! 早く!!』
『ええい! わかったよ! 君にすべてを託す! ティラ!』
『はい! 【風魔法】起動します!!』
マッドバイルは槍を構えた。
魔獣にではなく、人が乗る【極神騎】に向かって。
『風よ!!』
アミニジアは叫んだ。
渦を巻いた大気の塊が、スキルイーターを捉える。
ぼん、と背中を押されると、一気に加速した。
叩きつけるようなGが騎操者たちに襲いかかる。
カイルは精晶窓を注視する。
アイーナのことは心配だが、後で謝ることに決めた。
みるみるガロンデイルが迫ってくる。
その先端にある大口が見えた。
『いけええええええええええええ!!!!』
スキルイーターは激突する。
ちょうどガロンデイルの下顎をかち上げるように。
巨大魔獣は動いた。
後ろに倒れようとするも、必死に肢を動かして、元に戻ろうとする。
まだ決め手が不足していた。
「ミリオ! 【暴食】起動!!」
騎手室で青年は叫ぶ。
『了解! 【暴食】を起動する!』
騎操者の声に、ミリオは間髪入れず応えた。
スキルイーターは手を伸ばす。
金色に手を光らせ、ガロンデイルに触れた。
スキルイーター
Lv 999
DP 7335
MP 2
保有スキル
【鑑定眼】 Lv999
【暴食】 Lv∞
【炎魔法】 Lv999
【器用補正】 Lv10
【炎耐性】 Lv999
【炎属性付与】 Lv999
【魔力消費減】 Lv500
【炎吸収】 Lv800
【剣技】 Lv230
【槍術】 Lv88
【弓術】 Lv102
【移動速度増幅】 Lv120
【状態耐性】 Lv50
【ウォークライ】 Lv30
【穴掘り】 Lv220
【土属耐性】 Lv189
【嗅覚鋭敏】 Lv345
【死霊の声】 Lv340
【透過】 Lv408
【魂喰い】 Lv392
【闇属耐性】 Lv184
【突進】 Lv563
【突進】のスキルをガロンデイルから奪う。
カイルは迷わずそのスキルを発動した。
再びスキルイーターは突っ込んでくる。
【突進】のスキルは、速度、さらにスキルイーターの重量を一時的に増大させた。
ガッ! ココオオオオオオオオオオンンンンン!!
ガロンデイルは3度目の衝撃が加えられる。
カンカンカンカンカンカン、と一本の巨木が倒れるような音を響いた。
やがて魔獣はのけ反り始める。
城壁の上でそれを見ていた【亜人騎】部隊から歓声が上がる。
アミニジアも割れた眼鏡越しに、その光景を見つめていた。
ガロンデイルが裏返る。
轟音が鳴り響いた。
とてつもない砂煙が上がり、空へと上昇していく。
辺りは曇り空のように真っ暗になった。
しかし、人々は目に映る光景に対し、息を呑まずにはいられなかった。
スキルイーターもまた落下し、地面に叩きつけられる。
完全に頭部がひしゃげ、さらに落下の時の衝撃で左肩の装甲が完全に弾け飛んでいた。
『どうだ!』
半壊寸前のスキルイーターは騎操者の声に応える。
映水晶を動かし、状況を精晶窓に映した。
そこに映っていたのは、無数の肢を天へと向け、モゾモゾと動かしている間抜けな魔獣の姿だった。
「――!」
「――!」
『――!』
騎手室内の空気がなくなるのではないかと思うほど、カイルとアイーナは息を吸い込む。
そして――!!
「「やったあああああああああああああああ!!!!!」」
青年と少女は喜びを爆発させる。
それとともに、背後から勝ち鬨が上がった。
城壁の上で【亜人騎】が装甲を叩いて喜んでいる。
アミニジアもマッドバイルから出ると、カイルたちに賛辞を送っていた。
こうしてラング王国の危機は、青年カイルによって回避されたのだった。
ブクマ・評価をいただきありがとうございます。
明日もよろしくお願いします。




