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第9話 黒幕

今日もよろしくお願いします。

ちょっと長めです。ご注意下さい。

 カイルと一緒についてきてほしい……。


 ミリオの思わぬ提案に2人は沈黙する。


 アイーナの首が曲がり、カイルの瞳が動いた。

 2人は視線を交わす。


 同時に頬を赤らめた。


 最初に唇を動かしたのは、カイルの方だ。


「ちょっと待ってくれ、ミリオ。それは危険だ。……そもそもアイーナには学校があるんだよ」


 アイーナの口元に向かって怒鳴りつける。

 返ってきたのは、深いため息だった。


『だから少々気が進まなかったのだ。カイルは怒ると思ったからな』

「当たり前だ!」

『だが、あの時こうする他なかった』

「そ、それはそうだけど……」

「カイルさん……。私は構いません」

「アイーナまで何を言うんだ!」


 思わず声を張り上げてしまった。

 アイーナはピンと尻尾を立てる。

 しばらく何も言わなかったが、ぽつりぽつりと話を始めた。


「確かに学校は大事です。でも、世界を救うということは、今世界が危機にあるということなのでしょう、ミリオさん?」

『ああ……』

「私にはその実感はありません。けれど、もしそうなら……。きっとそっちの方が重要だと思います。それに――」


 アイーナは自分の胸を見る。

 生を慈しむように、そっと心臓の上に手を置いた。


「私の命は像に捧げた時になくなっています。だから、どうかカイルさん。私の命を使って下さい」


 アイーナは笑う。

 何度と、カイルの心を癒してきた笑顔だ。


 「ダメだ」とは言えなかった。

 そもそもミリオがいないままスキルイーターを動かすのは不可能に近い。

 必然的に彼女にはついてきてもらわなければならない。

 それはカイルもよく理解していた。


 青年は悩む。

 その末で、1つの結論に達した。


「わかった。君は俺が守るよ」


 自分の胸を叩く。

 橙色の瞳には強い意志が宿っていた。


 青年の姿を、アイーナは眩しそうに見つめる。

 頬は朱に染まっていた。


『アイーナの同行を許可するということだな』

「ああ……」

「カイルさん。ありがとうございます」

「お礼を言うのは俺の方だよ。これからもよろしくね、アイーナ」


 手を差し出す。

 アイーナはわずかに躊躇った後、青年の手を握った。


 2人は同時に微笑むのだった。



 ★



 アイーナの意志を確認した後、カイルは1人の傷を負った盗賊を見つけ、尋問していた。


 横で猫耳の少女が包帯を巻く横で、ずっと気になっていたことを訊く。


「教えてくれ。どこでスキルイーターの対処法を訊いたんだ?」


 弩弓や大砲による遠距離攻撃。

 最初の戦闘で手の内を明かしてしまったとはいえ、盗賊団の対応はあまりに的確すぎた。【極神騎】フレイムダストをどこで入手したのか。それも気になるところだ。


 ミリオの読みでは、おそらくブレインがいる、とのことだった。

 それも【極神騎】をよく知る存在が。


「女だ。いつつつ……」


 痛みにあえぎながら、盗賊は唸った。


「女? どんな女だ?」

「わからねぇ。フードを目深にかぶっていたから。……でも、きっと美人だ」


 へへ、と笑う。

 ふざけているようだが、嘘は言っていない。


「もう1つ訊きたい」

「あん?」

「俺があんたたちを村からおっぱらった時、確かに聞いたんだ」



『今日は大丈夫なんじゃないのか? どうなってやがる!』

『こんなのがあるなんて聞いてないぞ!! どういうこった?』 



 一見すると、元々の予定が狂ったのだという風に受け取ることができる。

 しかし、カイルには何となく引っかかっていた。


 そもそもこの周辺には辺境派遣の騎士団がいて、集落を巡回している。

 アイーナ曰く、それでも集落襲撃が止む気配はなかった。

 普通なら、騎士団がうろうろしている土地では控えるはずだ。

 なのに、回数は減らない。


 それはつまり……。


 盗賊団があらかじめ騎士団が巡回するスケジュールを知っていた――と言うことではないのだろうか。


 考えられる可能性は2つ。

 騎士団の中に盗賊団の諜報員がいる。

 もしくは――。


 ヒュッと風切り音が聞こえた。

 カイルとアイーナは反射的に伏せる。


 乾いた音がすぐ側で聞こえた。

 見ると、盗賊団の頭に矢が突き刺さっていた。

 男の瞳から力が失われ、即死していた。


「誰だ?」


 カイルが顔を上げる。

 視界に映り込んだのは、鎧を纏った騎士の一団。

 そして銀色の装甲を持つ【亜人騎】だった。


 騎士団の先陣を切る【亜人騎】の一騎が進み出る。

 開口部が開くと、長い金髪を揺らし男が現れた。


「ガードロー……さん……?」


 アイーナの青い瞳がみるみる開いていく。

 カイルは驚かなかった。


「やっぱり、あんたか」

「ほう。最初から私を疑っていたのかね?」

「最初からというわけじゃない。けど、これを見た時に気付いたんだ」


 カイルは1枚の紙を取り出す。

 おもむろに広げた。


 紙にはこう書かれてあった。


 “辺境派遣騎士団司令官ガードローと盗賊団は繋がっている”


「は! どこでそんなものを」

「あんたからさ」

「は?」

「あんたにもらった――正確にはあんたの騎士団員の1人からもらった毛布の中に隠されていたんだよ」

「なにぃ!」


 ガードローは咄嗟に後ろを振り向いた。

 部下を見回す。


「もういいだろ。さっきの行動であんたは馬脚を(あらわ)した。化けの皮をつくろう必要などない」

「チッ!」

「それでもあんたが犯人探しをするというなら、俺はその人も救う。どんなことをしてでも……!」

「小僧が!」


 憎々しげにカイルを睨む。

 そこに優しい司令官の姿はなかった。


 踵を返し、自分の【亜人騎】に乗り込む。

 動きを見て、カイルとアイーナもスキルイーターに乗り込んだ。


 アイーナは騎手室(ヤード)をおろおろと見回した。


「あの……。私はどうすれば?」

『私がやる。アイーナは楽にしててくれ』

「わ、わかりました」

「行くぞ! アイーナ! ミリオ!」


 スキルイーターを起動する。

 ちょうどガードローも【亜人騎】を立ち上がらせたところだった。


 出力を上げると、【亜人騎】は突っ込んでくる。

 剣と、意匠が施された盾を構え、間合いを侵略した。


『はああああああ!!』


 裂帛の気合い。

 一気に剣を振り下ろす。


 ――速い!


 なんとかカイルは剣で受けた。

 耳が痛くなるほどの金属音が響く。


 カイルは敵騎が近づくのを待っていた。

 手を伸ばし、【亜人騎】に触れようとする。

 ガードローは読む。

 寸前のところで回避すると、一旦距離を取った。


「スキルイーターの能力を知っている?」

『そのようだな』


 ガードローの哄笑が響く。


『ふははは……。知っているぞ、スキルイーター! お前のスキル【暴食】は他者に触れないと発動できないのだろう』

「どこでそれを――」

『勝てたら、教えてやるよ』


 スキルイーターの性質を知ってなお、飛び込んできた。

 よほど接近戦が得意なのだろう。

 ガードローはその技量を見せつけるように敵騎に剣を叩きつける。

 カイルは応戦するので精一杯だ。

 何度か、【亜人騎】に触ろうとするも、ひらりとかわされてしまう。


 今のところスキルイーターは1発も食らっていない。

 が、長引くと不利だ。


 ミリオはアイーナの瞳を通して、カイルの状態を見ていた。

 連戦に次ぐ連戦。

 【極神騎】フレイムダストとの戦いも含まれている。

 すでに体力は限界のはずだ。

 その証拠に先ほどから操桿のミスが多い。


 ガードローとの技量差よりも、カイルの集中が切れかかっている方が問題だった。

 ヒットアンドアウェーの戦法が、ボディブローのように効いて、確実に体力を奪いつつある。


 敵は確信的に行っているのだろう。

 バロンドの外部音声から高笑いが鳴り響いた。


『まったくしぶといガキだ。大人しく国から出ていればいいものを』

「何故、盗賊団に荷担した! あんたは王国の騎士なんだろ!!」

『そうさ! 俺は騎士だ。優秀なな! なのに辺境に飛ばされた! 誰かの陰謀によってだ。認めない! 認めることなど断じてない!』

「ここで実績を積めば、あんたを認めてくれる人だっているだろう」

『こんな辺境でか! 亜種とエルフぐらいしかいない。貧乏でしみったれた集落しかない土地でか。……そもそもなんで俺たち人種が守らなければならない!』

「なんだって!」


 カイルは操縦桿を強く握る。


『知能遅れの亜種に、閉鎖的なエルフ……。あいつらが我々人種に何をしてくれた。我々の社会に土足で入り込み、ただ甘い蜜だけを吸っているようなヤツらだぞ!』

「彼らも懸命に生きようとしている! それを手を差し伸べることのどこが悪い!」

『馬鹿め。その手を振り払うのもこっちの自由だろ』

「黙れ!」

『は! だったら死ねよ!』


 金属と金属がぶつかり合う。

 鋭い衝撃波は、まだ燃えさかる炎を激しく揺らした。


「俺に預けられたあの文書はあんたへの優しさだ。人の道を違えたあんたになんとか更生してほしいという上司への思いやりだ」

『はん! 知るか! 誰がやったかしらんが、必ずつるし上げて縛り首にしてやる』

「あんたはそうやって人の思いやりに泥をぶつけてきた。それが今ある地位の結果だろう」

『うるさい! 小僧が知った口を聞くな!!』


 もはや対話は不可能だった。

 狂ったようにガードローは剣を振るってくる。

 怒りが増せば増すほど、剣筋は速くなっていった。

 同時に、カイルの体力も確実に奪われていく。


「ミリオ! 【鑑識眼】!」

『了解した』


 バロンド

 Lv 233

 DP 4500

 MP 1500

 保有スキル

 【剣技】     Lv230

 【槍術】     Lv88

 【弓術】     Lv102

 【移動速度増幅】 Lv120

 【状態耐性】   Lv50

 【ウォークライ】 Lv30


『よりどりみどりだが、【剣技】スキルは完全に負けているぞ』

「だけど、俺たちは負けるわけにはいかない」

『案ずるな。この程度でスキルイーターが負けるわけがない』


 カイルは笑う。

 ミリオなりのエールなのだろうか。

 後ろ向きだった自分の気持ちを、ポッと押されたような気がした。


 スキルイーターは再びバロンドに触れようと試みる。

 やはり相手の方が速い。

 後ろに逃がしてしまう。


 ――今だ!


 タイミングを見計らい、カイルは操縦桿を引く。


 一旦距離を置く。


『逃げるのか、小僧』

「違うね」


 口角を上げる。

 スキルイーターは手を掲げた。


「炎よ!!」


 飛び出したのは小さな火の玉ではない。

 太陽(ルヴル)が現れたかと思うほど大きな炎弾だった。


『うおおおおおお!』


 ガードローは悲鳴を上げる。

 咄嗟に避けたが、盾が腕ごと溶けてしまった。


『な、なんだ! 今のは! 聞いてないぞ!』


 額に脂汗を滲ませ、精晶窓(グリッド)越しに損傷箇所を見つめる。

 そのよそ見が命取りだった。


 精晶窓(グリッド)に緑衣の騎体が現れる。


『スキルイーターぁぁぁあああああああ!!』


 名を叫び、息を呑む。

 残った剣で応戦しようとしたが、遅かった。


 スキルイーターの手がバロンドに伸びる。

 その手は朝日のように輝いていた。


『【暴食】!!』


 外部音声からカイルの叫び声が放たれた。

 一瞬にして、スキルを食らう。


 次瞬、バロンドから不気味な軋みが聞こえた。

 関節部の奥にある魔導伝達繊維(ナーブ)が発光する。


 やがて剣を取り落とした。


「なんだ。これは――」


 ガードローは精晶窓(グリッド)を叩く。

 目を広げ、己の騎体のステータスを見つめた。


 バロンド

 Lv 233

 DP 1355

 MP 1500

 保有スキル


 確認するまでもない。

 スキルがごっそりと奪われていた。


「わ、私の努力の結晶を!! 悪魔か、貴様は!!」


 何度も精晶窓(グリッド)を叩き、ガードローは怒りを露わにする。

 血の涙を流しながら、目前の【極神騎】を睨んだ。


 代わりにスキルイーターの方には、スキルが書き加えられていた。


 スキルイーター

 Lv 999

 DP 3023

 MP 4980

 保有スキル

 【鑑定眼】    Lv999

 【暴食】     Lv∞

 【炎魔法】    Lv999

 【器用補正】   Lv10

 【炎耐性】    Lv999

 【炎属性付与】  Lv999

 【魔力消費減】  Lv500

 【炎吸収】    Lv800

 【剣技】     Lv230

 【槍術】     Lv88

 【弓術】     Lv102

 【移動速度増幅】 Lv120

 【状態耐性】   Lv50

 【ウォークライ】 Lv30


「終わりだ、ガードロー」


 大剣を向ける。

 【剣技 Lv230】となり、先ほどよりも操縦桿が軽い。


 バロンドの片腕をなくし、DPも少ない。

 おまけにスキルを奪われ、剣も振るえない。

 完全な詰みだった。


 それでもガードローは諦めない。


『くそ! 何をしている! 騎士団! こいつを撃て!』


 騎首を向け、自分の部下に向かって命令する。


 弩弓を構えた【亜人騎】たちは、こちらに矢を向けた。

 緊張感が走る。

 カイルはただじっと騎士団の方を見つめた。


 そして――。


 矢が放たれる。

 ギンと甲高い音を響いた。


『な、何をしている!』


 ガードローは叫ぶ。


 矢が刺さったのは、バロンドの残った腕だった。

 ちょうど関節部に入り込んだ矢は、魔導伝達繊維(ナーブ)を傷つける。

 魔力の伝達が切れると、だらりと垂れ下がった。


 1騎の【亜人騎】が近づいてくる。

 開口部を開けると、騎士が手を挙げて近づいてきた。


 顔を上げて、バロンドの中のガードローに語りかける。


「司令官殿……。もうやめましょう」


 …………。

 反応はない。

 ただ外部音声から聞こえてきたのは、むせび泣く司令官の声だった。


『くそ……。ちくしょおおおおおおお!!』


 目の前の精晶窓(グリッド)を叩き割った。


次は夕方に投稿予定をしています。

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