表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホラームービー  作者: ロンドン
2/2

ホラームービー2

僕がスクーターで壊れんばかりの猛スピードを出し

15分も遅刻で辿り着いた高級レストランは

黒を基調とした内装に、暖色の照明で彩を添え

まさに、優雅、それ以外の言葉は似合わない

僕の給料1ヵ月分使ってもトイレも借りれない様な

プロポーズするには申し分のないステージだった


アビーが腕時計を見ながら

レストランの入り口に立っている

ブロンドのロングヘアーは頭の上で美しくまとめ

服も黒のドレスワンピースが素敵だった

僕はいつもと違う姿のアビーに見とれてしまったが

すぐに駆け寄った

「ごめんアビー、待たせてしまったね……」

僕は両手を広げアビーに謝罪した

「いいわよ、ケビン、また、あの小太りな映画友達の長話に付き合ってたんでしょ?」

小太りな友達とはジャックの事だ

「いや、ちょっと、オーナーと話をしてて」

僕はレストランの扉を開き、アビーを中へ通す

レストランの従業員の対応が素晴らしく

遅刻なんか無かった様に

すぐに予約の席に通してもらった

「で、こんな素敵な所で話って?」

アビーは微笑みながら、僕を見つめた

そのグリーンの瞳は僕がプロポーズする事を

易々と見破っているようだった


「あ、あの……」

急いで来たせいで何も考えていない僕は

言葉に詰まってしまった、少し落ち着くため

下を向き、大きく息を吐く

「監督を目指すフリーター生活は辞めて

映画館のオーナーを目指して、ホセルイスシネマに

就職する事にしたんだ、オーナーのすすめもあって」

僕は手始めにプロポーズの成功確率を上げる為に

スパイス要素をアビーに伝える

「本当に?監督諦めちゃったの?」

グリーンの眼を大きく見開きアビーは僕に聞く

「いや、諦めた訳ではないんだけど……

僕も安定を目指そうかと……その……

えっと……」

アビーが僕を見つめている

その、吸い込まれんばかりの瞳に飛び込むように

僕は気持ちをアビーに伝えた

「キミと結婚したいから」

すかさずポケットに隠しておいた小さな箱を

アビーに見えるように掲げる

アビーは小さな箱を手に取り大きく息を吸った

僕は箱のフタをアビーに見えるように開け

小さな、小さなダイヤが輝く指輪を見せる

「大スクープよ!!大スクープ!!」

新聞記者をしている彼女ならではの口癖だ

「あぁ、ケビン……ずっと待っていたのよ……」

アビーは涙が混ざった素敵な笑顔をしている

「こんな、僕でよければ……結婚してください」

トドメの言葉、決まった……

どんな、映画の主人公より自分がかっこよく思えた

「もちろんよ!ケビン!

子供の時からアナタが大好きなのよ!私は!」

アビーは席を立って僕に抱きついてきた

僕のプロポーズは大成功で幕を閉じた


それから、僕らは彼女の親への挨拶の予定や

今後の手続きについて軽く話をした後

幸せを十分に噛み締め

意外にあっさりと、その日は別れ帰路についた



帰り道、少しお酒を飲んだ僕は

スクーターを押しながら帰っていた

口角は上がりっぱなしで

自然と鼻歌も奏でていた

アパートに着く、階段をミュージカル映画ばりに

コミカルに駆け上がり、鼻歌もサビに差し掛かる

「ケーシーか?うるさいぞ!!!」

サビはそんな歌詞ではない

一階に住んでいる大家のオズワルドさんが

エサの貰えない犬の様に叫んでいる

「ケーシー!先月の家賃はどーした?

まだ、もらってないぞ!!」

今さっき高級なレストランの食事に変わったなんて

言えるはずもなく

胃の中身をぶちまけるような

もったいない事もしたくはない

「す、すいません、もう少し、もう少しだけ

待ってください!!」

僕はミュージカルの世界から

現実に引きずり戻されてしまった

再び、異世界に飛び立つ為に、耳にフタをして

すぐに、ベッドに入って目をつぶった


「ケーシー!貴様!家賃はどーした!!」

僕はパッと目を見開いた

外は明るくなっていた

朝まで吠えてるのか……しかも、僕の部屋の中で

「は、はい……」

ベッドから視線を声の方に移す

「ケーシー!」

顎をしゃくれさせ、ヘンテコな顔で

おどけたポーズのジャックが立っていた

忘れていた、ジャックの特技モノマネを

ジャックは大家のオズワルドさんに

背格好も声もそっくりなのだ

まるで、親子、笑ってしまう

「これは、これは、オズワルドJrさん」

寝ぼけた声でジャックに挨拶する

「息子ってなると、話は別だ、

俺は憧れてるんじゃない、

あんな父親嫌だよ、

リーアム・ニーソンくらい過保護じゃなきゃ」

困り顔のジャックが言う

僕は洗面所に向かいながら言った

「君なら誘拐される価値もないしな

リーアム・ニーソンも安心だろうよ」

ジャックは明後日の方を向いた、と思う


「そういえば、ケビン、昨日は

ケビンモンスターVSアビーは上映されたのか?」

そういえば、ジャックにはプロポーズの話は

してなかったんだった

「ふぃーてくれ、ヒャック(聞いてくれ、ジャック)」

僕は歯ブラシを咥えながら返事をした

「なんだよ?急に言語を変えやがって

スタートレックの世界でも共通語があるんだぞ?」

僕は口をゆすいで話しを始めた

「ごめん、ごめん、いや、聞いてくれよ」

ニコニコの笑顔でジャックの前に立つ

セールスマンの笑顔とは違う本当の笑顔だ

「昨日、アビーにプロポーズした」

説明は簡潔な方がいい

「あ?え?まじかよ…」

ジャックは口をポッカリあけて棒立ちになった

「ああ、プロポーズした!答えはYES」

僕は手で銃の形を作りジャックに発砲した

「おおおおお!やったじゃねーか!

た、確か幼馴染みだろ?やったな、監督!

後で後悔するなよ!監督業が進めば、

ハリウッドの女優と結婚と離婚のリレーができるんだぞ?」

しまった、大事な事を言い忘れていた

熱狂的な僕のファンには酷だが

僕の、いや、僕とアビーの安定には必要な決断だ

「ジャック……その事なんだけど

僕、監督を諦める事にしたんだ」

引退宣言をジャックに伝える

「おいおい、冗談はよしてくれよ!」

ジャックは話を聞き入れず、ソファに座って

テレビをつけた

「冗談じゃないんだよ、アビーとの生活を

安定させる為には、いつまでもフラフラしてるわけにはいかないんだよ」

ジャックは声高らかに笑った

「ガハハ!安定ったって、仕事あるのか?

まぁ、有ったとしてもだ、監督は辞めなくていいだろう?」

テレビを見ながら振り向く事もなくジャックは言った

僕は冷蔵庫から残り少い牛乳を取り出し

パックごと飲み干した

「ホセルイスシネマを継ぐことになったんだ

オーナー業ってのは、そんなに暇は無いと聞くし

これから、やる事が山ほどあるんだよ

君がなんと言おうとも終わりは、終わりだよ」

ジャックの横に座る

「ケビン……ケビン!お前アビーに言われたんだろ?

監督辞めてって、あの女に唆されたんだろ?」

ジャックが僕を睨みつける

あの女呼ばわりは流石に言い過ぎだ

僕はソファから立ち上がりジャックの方を向く

「おい、ジャック!アビーは関係ない!

あの女なんて言わないでくれ!

そもそも、僕が監督として日の目を見るなんて

監督はそんな簡単じゃない!君は何もしていないくせに、僕が決めたんならいいじゃないか!」

アビーの事となると思わず声を荒らげてしまった

「俺はお前の才能を認めてるんだ、それぐらい言わせろよ!!女に現を抜かしやがって!!」

ジャックも声を荒らげ反論する

「そもそも、映画の脚本から全て僕がやってきたんだ

君は部外者じゃないか!君に僕の苦労はわからないよ!監督は君が目指せばいい!!

僕が、幸せになるのがそんなに嫌かよ!!」

僕が喚いている途中で、ジャックはチェーンソーのキーホルダーでふざける事もなく

バイクの鍵を持って出ていった

バイクの音はすぐ遠くなった


ホセルイスシネマに出勤した僕は

今日から、ホセルイスさんと共に

少しづつオーナーの仕事について学んでいく事になり

普段とは全然違う仕事をしていた

たまにジャックとはすれ違ったが

お互い目も合わせることはなかった



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ