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ホラームービー  作者: ロンドン
1/2

ホラームービー1

視線を感じる……


振り返る……


その時は既に……


定番のホラー映画の流れだ

この瞬間のワクワクとドキドキが

僕は大好きだ


大盛りのポップコーンの残りに

手をつける

床にこぼれ落ちても気にならない程

映画に熱中しているのは

僕ケビン・ケーシーと

映画オタク仲間のジャック・ブラントン


クライマックスに差し掛かると

僕らは勝手に映画の考察を始めている

監督の意図、キャストの演技

審査員気取りの僕らは

映画の終わりと同時に話し出す


「ほらな、ケビンやっぱりこの監督の撮影センスは完璧だ」

エンドロールを眺めながら興奮気味に

笑顔のジャックは話す

「確かに、このなんとも言えない恐怖感を出せるのは素晴らしいな」

僕はポップコーンの皿を片付けながら言う


映画館なら喋る事はご法度だが

ここは僕の家の素晴らしいホームシアター

映画監督を目指す僕が苦節5年かけて

貧乏ワンルームに作った

最新サラウンドシステムを備える

完璧な僕の、いや、僕らだけの映画館


「でもな、ケビン、お前にはこの監督以上の才能がある俺は信じてるぜ、お前のセンスを」

ジャックは僕が大学の時に作った

ホラー映画を気に入り僕を映画監督に"したがってる"

熱狂的な僕のファンでもある

言えば、子供に無理矢理習い事をさせてる親みたいな

まぁ彼の方が、よっぽどタチは悪いが……

「毎日言ってて飽きないか?

まぁ最も、僕が映画監督の夢を見続けれるのは

君のおかげだけどねジャック」

褒められて悪い気はしない

「さっバイトに遅れるぞ」

僕はスクーターの鍵を二人分掴み

血に濡れたチェーンソーのキーホルダーの方を

ジャックに投げた

「うわぁ、指が切れちまうぅ

だ、誰か助けてくれぇぇえ!レザーフェイスだぁぁ!いやぁぁ!!死にたくないい!!」

じたばたとジャックがおどける

僕はいつも通りに振り向く事もなく

玄関を出て、アパートの1階へ続く階段を降りる

スクーターにまたがり、エンジンを掛ける

「飽きないな、レザーフェイスごっこ」

僕はため息をつく

今度は映画"悪魔のいけにえ"のレザーフェイスの

真似をしながら、小さなチェーンソーを

振り回しジャックが降りてくる

「早く行くぞ」

チェーンソーの音を真似るジャックを尻目に

僕はバイト先にスクーターを走らせた



"ホセルイス・シネマ"

古びた看板に数の足らない電飾で

そう書かれているのは

僕の住む片田舎唯一の映画館

そして、僕とジャックの職場でもある

ジャックとはここで出会った

僕が働き始めて5年経ったくらいに

ジャックはやってきた

最初は馴れ馴れしいやつだと思っていたが

映画好きに悪いヤツがいるわけでもなく

徐々に意気投合、家に呼んで朝まで映画の話で

飲み明かし、酔った勢いで、

自主制作映画を見せてからは

"監督になれっ!"なんて、あの調子

やっと1年くらいの付き合いになる


ドンッ!!!


「ラージサイズのコーラ2つとポップコーン!!

俺が来たら用意しとけっつってんだろ!!

"ナーズ"《オタク共》」

映画好きに悪いヤツはいない?

前言撤回だ、コイツを忘れてた

軽食を注文するカウンターで

ダサい青一色のキャップとエプロン姿の僕に向けて

これでもかと、カウンターを叩き、怒鳴りつけてる

伝説のパンクロッカー、シド・ヴィシャスを腐らせて

金髪に仕上げた様なコイツは

この片田舎一番の荒くれ者イアン・マッケンジーだ

「聞いてんのか?なぁ?」

僕を睨みつける

「や、やぁ、イアン、そうだったね

ごめん、すぐ用意する………」

僕はなるべく目を合わさない様に

飲み物とポップコーンを急いでトレーに乗せる

と、同時に、女がこっちに向かってきた

「ねぇ?なんで、ここのトイレっていつも汚いの?

ちゃんと掃除してる?」

床に唾を吐く

シドがいればもちろんナンシーもいる

この娘はイアンの彼女エリン

フルネームは知らない、イアンと同様に

決していい噂は聞かないし、僕らオタクの敵である

そんな最低なカップルがシルバーアクセサリーの

音をジャラジャラと鳴らし

スクリーンに向かって行ったあと

今日の掃除係ジャックが

エリンが吐いた唾と、カップルが歩いてきたであろう

道のりを、見えない足跡すら残さないように

ゴシゴシとモップで拭く

「今回ご紹介する商品はこちら

スペシャルクリーンモップです。

エイリアンの唾も、パンクロッカーゾンビの足跡も

ご覧の通り、綺麗になりまーす」

ジャックは僕を励ます様に

夜中のくだらない通販番組の真似をする

「ケビン!今日終わったらさ、ウチで飯でもどうだ?

血に濡れた悪魔の毒々ミートパスタを考えたんだ

すっげぇ上手いぞ、へへへ」

笑顔のジャックが誘ってくれる

しかし、こんな時にいっつも僕は

気の利いた返しができない、今日は特に……

「ジャック、悪い、今日はアビーと約束があるんだ」

そう僕はオタク、もちろんそれは認める

だけど、オタクに彼女がいないってのは偏見だ

アビーは幼馴染みで、僕の愛する彼女だ

「そっかぁ、ケビンモンスターが暴れる日か」

そう言うとジャックはニヤニヤしながら

僕に近づき耳元で囁く

「キラーコンドームには気を付けろよ

さすがのケビンモンスターもやられちまうぞ」

手で噛み付くジェスチャーをする

「ふざけるな、ジャック!大事な用なんだ!」

思わず大きい声が出る


そんな、僕らのやり取りを

仁王立ちで見ているのが

オーナーのホセルイスさん

「おい!お前ら、また、何ぺちゃくちゃ喋って

サボってやがるんだ?」

どっから、どう見ても、メキシカンマフィアに見える

その容姿から発せられる声は

それもまた、恐怖を与える事に関して一流であった

「「す、すいません!」」

僕らは謝罪のハーモニーを奏でながら

持ち場に戻った

ホセルイスさんは普段、僕らに対してとても優しく

メキシカンマフィアのボスの様な顔面から

"お疲れ様"って言葉と同時に"笑顔"がこぼれた時は

世界平和が訪れた様な幸せに包まれる

仕事には厳しくとても勤勉な人で

尊敬する人の1人だ

「ケビン、あとで事務所に来てくれるか?」

ボスはそう言うと"健全な"事務所に戻って行った

ジャックは僕に向かって

首を親指で切る定番のポーズをしながら

口パクで"死刑執行"と言っているようだった

"うるさい"と一蹴したかったが

お客の注文で遮られてしまった


コン!コン!

軽快なノックの音

僕は一通りの仕事を終わらせ

事務所の前に立っていた

「入ってくれ」

中で誰かが拷問されていないのを祈りながら

僕はドアを開けた

「失礼します」

もちろんデスクワーク中のホセルイスさんだけだった

「ケビンか、そこに座ってくれ」

僕はキャップを脱ぎ、手に握り締め、座った

勤勉なボスへの忠誠心を示す為に

背筋はピンと伸ばし、恐る恐る顔を除く

「今日はな、お前に提案があって呼んだんだ」

提案?僕はてっきり勤務態度について

いつもの様に指導を受けるとかと思っていたので

目を丸くした

「この映画館は俺のオヤジの時代から二代続く、

俺の誇りだ、わかるだろう?」

ホセルイスさんの問いかけに頷く

「しかし、俺は、独り身だ

これから、運良く結婚はできても、

子供の見込みもねぇ

そこで、だ、ケビン

お前を将来のオーナーにしたい

お前ほど、映画を愛してるやつもいないし

いい加減お前も定職に就くべきだ

どうだ?悪くないだろう?」

それは、僕への正社員雇用の話だった

正直僕は悩んでいた、映画監督の夢を追うために

正社員の申請をせず、5年間もバイトで過ごしてきた

しかし、監督業が上手くいくわけでもなく

とても楽しい将来が待っているとも

思えないでいたからだ

「ぜひ!ぜひ、お願いします!」

自然と返答が出た

これにはもう一つ理由がある

僕は今日アビーにプロポーズをするのだ

「そうか、ケビン、なってくれるか!

お前になら安心して将来この映画館を任せれる

立派なオーナーになれるように

今後も頑張ってくれな」

ホセルイスさんの笑顔を見ながら

僕もプロポーズへのスパイスとして

安定した職に就く事ができて

自然と笑顔がこぼれた


事務所から出て更衣室に向かう途中

ジャックが駆け寄って来た

「最新の拷問器具はキズ一つ残さねぇのか?」

僕の体をパタパタと触りながらジャックが言う

「なんとか、くぐり抜けたさ」

僕は適当に返事をした

「ほんで、何の話だったんだ?」

ジャックの問いかけに僕は全て答えようと思った

監督を諦め、定職に就き、アビーにプロポーズする事

しかし、熱狂的な僕のファンにその事を伝えるには

気が引けてしまい、僕は後回しにしてしまった

「ん?いや、ただ勤務態度を注意されただけだ

僕だけな、僕だけ」

作り笑いの見本をジャックに見せつける

「ついてないやつだなケビン、へへ

俺ぐらい真面目じゃないとな」

胸を張るジャックを、僕は呆れた顔で睨みつける

その奥に見えた時計が僕を現実に還す

「ヤバイ、アビーとの約束の時間だ

ジャック!また、明日、なっ!」

僕は急いで着替え、スクーターに乗り

予約していたレストランへ向かった

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