06 三人目
次の日。
時矢はログインすると、レイナを待つ間に掲示板を眺める事にした。
そこは相変わらず一時的にクエスト等で足りない面子を揃える募集ばかりだったが、一つだけ目につく募集があった。
『求)タンクになれる人 当方弓職』
これは願ってもない事だった。
弓を扱う職業はどのゲームでも基本として罠スキルも覚えている場合が多い。
罠スキルで何らかのペナルティを課してそれを狙い撃ちするという戦法だからだ。
もしこのキャラを仲間にする事ができれば、レイナが耐えている間に罠で異常状態にする、あるいは足止めをして時矢が攻撃を行うというパターンを作る事ができる。
問題はこのキャラが求めているのがタンクのみという事だ。
書かれているレベルを見る限り時矢と同じ程度だが、攻撃力には自信があるという事だろうか。
何はともあれ動かないと始まらないので、時矢は件の募集の下に自分の名前で返事を書く事にした。
『当方前衛と火力 もし良かったら一緒にPTを組んでみませんか? OKなら噴水のところで待っていてください』
といった返事を書き残し、噴水の前で待つ事にした。
そしてしばらく。
「カゲトキさん、お待たせしました」
昨日と同じ格好のレイナが時矢と合流した。
今日はどこへ行くか相談をしたが、昨日は森林フィールドでも戦える事を確認したので、今度はそこよりもっと奥の『深緑の森』というフィールドに向かう事にした。
森林フィールドを抜ける必要があったが、途中で出会ったモンスター達は装備を新調した時矢達の敵ではなかった。
レイナが盾を含む防御力で敵の攻撃をいなし、その間に時矢が手裏剣で攻撃を行う。
石の時ですら一発だったのだから、それより殺傷力のある手裏剣で倒せない訳はなかったのだ。
しばらく森林の中を進み、いよいよ深緑の森フィールドに向かう。
「さて。ここからは初めてだから、お互い油断の無いように行こう」
「はい」
いつも通りレイナを先頭に、時矢がその後ろを歩くという形で進んでいく。
少し進むと早速モンスターに出会った。
深緑の森で番人をしているという設定のケンタウロスだ。
映画等でも見た事はあるが、下半身は馬の姿をしていて、馬の首から上が人間の上半身になっているモンスターだ。
「じゃ、昨日と同じように。ここは初めてのフィールドだから、油断せずに行こう」
「分かりました」
そしてレイナがプロボスをケンタウロスに使う。
するとケンタウロスは一目散にレイナの方に突進しながら手に持つ弓矢でレイナに攻撃をしかける。
しかし。
放たれた矢はレイナの持つ盾に防がれ、彼女のHPもほとんど減っていない。
「大丈夫です。このモンスター程度なら別に問題はありません」
その言葉で安心した時矢は手裏剣を投げまくる。
下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるというものだ。
想定通り、何発目かでケンタウロスの体に手裏剣が当たるとケンタウロスはその一発だけで消滅した。
当たった分も含めその場に落ちた手裏剣を拾いながら時矢は呟く。
「これなら深緑の森も普通に狩れそうだな。この調子で行こうか」
「ですね。私も回復しなきゃいけないほどのダメージがありませんし」
レイナは以前装備を新調した時にポーション……回復薬の事だが、それをいくつか持ってきていたのだが、それもあまり使う機会は無さそうらしい。
ちなみにこのゲームのポーションには一定の数値を回復するものと割合で回復するものがあるらしいが、レイナは後者を選んだそうだ。
もっとも、それは当然だった。
VIT極のレイナはHPが高いので、決まった数値で回復するより割合で回復する方が得なのだから。
しばらく狩っていたが、深緑の森でも時矢とレイナのコンビは難無く狩れていた。
実際のところ、本来なら二人のレベルから言えば深緑の森フィールドはまだ早いのだが、お互いにステータスの一部のみを最大まで振っているのでお互いの短所を補い長所で行動する事で、本来の参考レベルより低いレベルでも狩れるという状態になっていたのだ。
ある程度狩った結果、深緑の森でも十分に狩れるという事が分かった二人は一時休憩していた。
その時に時矢はレイナに掲示板の件を話す事にした。
「弓職、ですか?」
「そうそう。大抵のゲームでは弓職は罠スキルを持っててね。このゲームでもそれが存在するらしくてね。多分覚えてる可能性が高いと思うんだ。レイナが敵をひきつけている間に罠に引っ掛けてそれを俺が叩く。俺の欠点は命中率が悪い事と耐久が低い事だけど、その弓職がいれば命中率の面が補えると思うんだ。レイナはどう思う?」
「そうですね……。攻撃力はカゲトキさんがいますし、補助を誰かにやってもらえるなら大丈夫だと思います」
レイナの了承も得た事で、時矢はレイナを連れて町に戻る事にした。
町に戻り噴水のある場所に行くと、その淵には一人の女の子が座っていた。
背中に弓を背負った女の子で、多分彼女だろうと思った時矢は彼女に話しかける事にした。
「こんにちは。掲示板の返事読んでくれた?」
「あ、どうもっす。って事はあなたが前衛か火力のどっちかっすか?」
「うん。名前はカゲトキ。火力をやってる。こっちはレイナ。前衛をやってもらってる」
紹介され、頭を下げるレイナ。
「アタシは葵っす。アタシは弓も少しは使えるんでタンクだけ募集してたんっすけど、まさか火力も来るとは思わなかったです。……で、どうするんです?」
「それからは俺から提案があるんだ。ちょっと聞いてもらえるかな」
そう前置きしてから時矢はレイナと相談した事を葵にも話した。
「アタシが罠役っすか……。別にいいっすけど、アタシも攻撃できますよ? 元々そのつもりで募集してましたし」
「別にそれでも構わないよ。火力が増えるのはいい事だしね。もし良かったら、試しに三人で組んでみないかな」
「分かりましたっす。場所はどこにします? VITとかに全然振ってないからアタシは今のところ草原フィールドでぼちぼちやってたんですけど。死ぬのはデスペナとかで嫌ですし」
「そうだな……俺達はさっきまで深緑の森ってフィールドで狩ってたんだ。だけどいきなりそこで練習ってのはキツいだろうし、森林フィールドでやってみようか」
「分かりました」
時矢と葵で話した結果、森林フィールドで試すという事になった。
レイナの時と同じように草原フィールドでやってもよかったのだが、できれば罠が上手く活用できるかどうか、アクティブモンスターがいるところで試したかったのだ。
草原フィールドを抜け、森林フィールドまで行くと、レイナを先行にして時矢と葵がその後ろをついていくという形で進む事にした。
モンスターが出るまで歩いていくと、オークが一匹目の前に現れた。
そこでレイナはすかさずスキルを使い、ヘイトを自分に向ける。
「じゃ、アタシの出番っすね」
そう言うなり、葵はオークのいる場所より少し手前に手を向ける。
するとそこに罠が発生し、オークはそれに捕まった。
「へえ、直接置くんじゃないんだ」
「色々試してみたんですけど、このゲームの罠ってのは一定距離を空けて置く事ができるらしいんっすよ。今の罠は相手の動きを鈍くする奴っすね。かかった奴の回避率も下がりますからカゲトキさんの命中率もそれなりに上がってると思いますよ。ちなみに罠の中にはDEXの数値で成功判定が出る奴もあるんっすけど、アタシはDEX極振りなんでほぼ成功します」
葵も極振りのパターンか。
そんな事を思っていると、葵が喋りながら矢を撃つ準備をしていた。
そして矢を撃ってそれがオークに当たった……はいいものの、一発では倒れなかった。
「やっぱりオークっすね。体がデカい分、ゴブリンより耐久がありますね。あと何発かかかるかもしれないっす」
「じゃ、今度は俺の出番かな」
そう言うなり、時矢は道具袋から手裏剣を取り出しオークに向けて投げた。
今回は一発目からHIT判定が出て、オークの頭上にダメージが出ると同時にオークが消えた。
その光景を見ていた葵は驚いたような目で時矢を見た。
「驚いたっすね。オークを一発で倒せるとか。どんだけ攻撃力高いんっすか」
「そういや言ってなかったっけ。俺はSTR極振りで、レイナはVIT極振り。どっちも葵の仲間みたいなもんだな」
ちなみに手裏剣は拾えば無くならないが、矢の場合はスキルで属性や付与が決まるらしく本数は無限にあるらしい。
それを利用すればヒットストップ、攻撃が当たった時のショックで当てられた対象がほんの一瞬だけ動作が止まる事、それも使えるかもしれないと時矢は思った。
その後も森林フィールドで試してみたが、レイナが挑発スキルでヘイトを誘い、葵が罠で動きを遅くしたり止めて、その後に葵と時矢で攻撃を行うというパターンは有効と見えた。
(もし葵が動きを止める罠を使った対象の回避率が下がってるなら俺も剣で戦えるかもな)
そんな事を思う時矢だった。
そして。
「さて。一度お試しでやってみたけどどうかな」
「アタシ的には問題無いっすね。最初はタンクにヘイトを貯めてもらってその間にアタシが攻撃をするって考えだったんすけど、カゲトキさんがほとんど一発でモンスターを仕留められますから。まあアタシも弱いモンスターなら何発か当てれば倒せますし、カゲトキさんがタフな敵を、アタシが雑魚モンスターを倒すって役割分担でできればそれでいいっすね。レイナさんはどうっすか?」
「私も楽だったですね。攻撃役が二人に増えた事で戦闘時間も短く済みますし、私は二人の攻撃対象外のモンスターを持つだけでいいですから」
「じゃ、これからはこの三人で組むか」
時矢の意見にレイナと葵の二人も異論を挟む事はなく、これからは三人でPTを組んで狩りを行う事になった。