03 募集
方向性を決めた時矢はまずPTを募集するような場所が無いか探してみた。
すると、町の中央辺りに目当ての場所を見つけた。
大きな掲示板があり、そこに張り紙が何枚も貼ってある。
それらを見てみると、それらはほとんどが何らかのクエストのための募集だったりした。
『○○のクエストで壁役を募集』だったり『二人以上の火力を求める』だったりなど。
しかし時矢の場合、一時的な募集ではなくこの先の自分のパートナー、あるいは一緒に組んでお互いの弱点を補うプレイヤーだ。
時矢はまずどのタイプを募集するかで悩んだ。
火力は彼が担当するとして、他に何を補うか。
そこで彼は一度ゲームからログアウトして調べる事にした。
ゲームからログアウトした時矢がネット上で調べたのは、まず異常状態にするスキルやアイテムだった。
MOB攻撃が当たらない。
なら当たるような異常状態にしてしまえばいい。
昔やったゲームでも、石化や氷結、気絶に麻痺など対象を動けなくする異常状態はいくつもある。
このゲームでもそういう異常状態にするスキルやアイテムはあるはず。
そう考えてこのゲームのwikiを調べた結果……。
「いや、無理だろ……」
前衛職でも相手を異常状態にするスキルは存在した。
しかし、それは付与効果。
相手に攻撃を当てる事が前提だった。
相手を異常状態にしないと攻撃が当たらないのに、攻撃を当てないと異常状態にならないとは本末転倒だ。
弓を扱う後衛職なら異常状態を扱うスキルや罠を会得できるらしいが、初期の段階では異常状態よりダメージを増加させるスキルしか無いらしい。
一般的な魔法や付与でも同じく。
味方に能力上昇を与える付与や攻撃魔法は存在しても、最初の頃から対象にマイナス効果を与える付与の魔法は存在しない。
とりあえず、『後衛職のスキルや魔法による付与』は次の策として、当面の目標は自分の代わりに攻撃を耐えてくれる壁を探す事にした。
さっきやってみて分かった事だが、カゲトキのキャラはVITにも全然ポイントを振っていないため、スライムに五回体当たりをされただけで死んでしまう。
なら、自分の代わりに攻撃を耐えてくれる壁を探し、耐えてくれる間にMOBを倒す、そういう戦法を取る事にしたのだ。
方針を決めた時矢は早速ゲームにログインして壁役を探す事にした。
町に戻った時矢はさっきの掲示板のあった場所に戻り、希望の募集を書いた。
『壁役募集。このゲームは初心者。STR特化なので命中に難あり』
こういう文章で掲示板に書いた時矢は、再び草原で雑魚MOB相手に石を投げまくっていた。
またある程度レベルを上げたが、それでもステータスポイントが増えてもステータスはそのままだったのでこのままでは初心者用の草原フィールドからは抜けられない。
カゲトキのステータス、耐久では草原の雑魚MOB相手で精一杯だったからだ。
時矢は何らかの進展があるだろうと思い、町に戻る事にした。
町に戻り掲示板のある場所に向かってみると、自分の書いた募集に参加してくれるプレイヤーの名前は皆無だった。
しかしそれも当然なのだ。
このゲームでは最初に調べれば最初から特化型では効率的に悪いという事が分かっていて、事前に情報を集めたプレイヤーが大体補助のステータスを振っていて自力で狩りができる。
そんな中で火力特化のプレイヤーが壁を探していると募集をしても誰も振り向かないのは当たり前だった。
(どうしたものかな……)
途方に暮れて近くにある噴水の淵に座っていると、自分と同じように顔を下に俯けているプレイヤーの姿があった。
初期装備の冒険者の服のみの時矢とは違い、体のあちこちに防具を装備している。
時矢は自分と似た境遇の人かとは思いつつ、気になったので話しかけてみる事にした。
「あー、ちょっといいかな」
声をかけると、そのプレイヤー……女の子だったが、彼女は顔を上げて時矢の方を向いた。
「……何ですか?」
「いやー、ちょっと気になってな。俺もさっきまであっちでたそがれてたから、同じような事してるアンタが気になって」
そう時矢が話すと、彼女はぶつぶつとだが話してくれた。
彼女の名前はレイナ。
このゲームが面白そうで買ってみたのだが、死んだりするのは嫌だという事でVITにステータスポイントを全部振った。
しかしVITにしか振っていなかったせいで、攻撃は当たらないし当たってもスライムすら倒せないしで途方に暮れていた。
と、そういう事らしい。
「このゲームはモンスター……でしたっけ、それを倒してレベルアップして強くなるじゃないですか。でも私じゃモンスターを倒せないからレベルアップもできないし、このままじゃ何のためにゲームを買ったんだか……」
彼女は愚痴をつぶやいていたが、それはもはや時矢には届いていなかった。
彼女が彼の目当て、壁役のキャラだったからだ。
しかしここで疑問に思うのは掲示板だ。
彼が掲示板に書いてから結構経ったはずなのだが、何の反応も無かった。
彼女は掲示板を見た上で自分を拒否したのだろうか、と。
「レイナさん、だっけ? あっちにある掲示板を見た?」
そう言って時矢が掲示板のある方を指指す。
すると。
「……掲示板って? いや単語は知ってますけど、それが何か?」
「ひょっとして知らない?」
時矢の問いにレイナが首を縦に振ると、時矢は軽くずっこけそうになった。
「あっちに板みたいなのがあるだろ? あそこに自分の探してる人材を募集してますって書くんだよ。ちなみに俺はそこで壁役募集って書いてた訳。つまり君みたいな人の事ね。全然書き込みが無かったから誰も相手にしてくれないだけかと思ってたけど、知らなかっただけだったのか」
「壁役……募集?」
「そうそう。俺も君と同じタイプでね。相手に攻撃される前に倒せばいいだろって事で、STR特化のステータスにしてたんだよ。おかげで命中率は悪いし草原以外では耐えられないしで草原で石を投げて雑魚モンスターを倒すのが精一杯でね。俺と君でパーティを組めばそれなりに遊べると思うけど、どうする?」
そこまで話した時矢だったが、その彼の言葉にレイナは目を輝かせた。
「わ、私壁役できます! 耐えるだけなら、草原より強いモンスター相手でも! 一緒に組んでくれますか!?」
「OK。じゃあ、試しにPTを組んで草原で戦ってみようか」
「はい!」
「ああ、ちなみに俺の名前はカゲトキ。PTを組む時に組んだ相手の名前は分かるらしいけど、一応自己紹介も兼ねてね」
こうして時矢は壁役となるプレイヤーと組む事になった。