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02 想定外

 町を出て草原に入ってからしばらく。

 現実では田舎でしか味わう事のできなさそうな風景を堪能しながら辺りを散策していると、それに出会った。

 青緑の色をした、丸いぶよぶよした生き物。

 他のゲームでも画面越しに見た事のある、所詮しょせん『スライム』辺りだろうかと時矢は推測した。

 色々なゲームで見かける、一部のゲームを除いた雑魚MOB。

 こいつなら確かに初心者にはもってこいだろう。


「よっし、先手必勝っと!」


 時矢は剣を振りかぶり、勢いのままスライムを切り裂いた。

 そして表示される『miss』の文字。


「……え?」


 その表示に時矢は呆気に囚われた。

 確かにスライムの真ん中を剣で斬った。

 しかし表示されたのは『miss』の文字。


「……ひょっとして、当たり判定がある?」


 そう判断した時矢は、それなら当たるまで攻撃するのみとばかりに剣を何度もスライムにぶつける。

 しかし何度攻撃しても表示されるのは『miss』の表示のみ。


「ちょ、どんだけ命中低いんだよ!」


 そうしている中、スライムにも動きがあった。

 ぶよぶよ動いているかと思ったら、時矢にぶつかってきたのだ。


「わっ!?」


 その衝撃に、時矢は後方に飛ばされる。

 痛みはそれほどでもないが、何かにぶつかったという衝撃が体に残る。


「いた……くはないか。けどこれだけ攻撃してmissばっかりって、ありえないだろ!?」


 動揺している間にも、スライムはまた攻撃をしかけようとしているのか時矢のいる方に近づいてくる。

 HPゲージを見ると、今の一回の体当たりで1/5は減っていた。

 今のをあと四回喰らえば、彼は死ぬ。

 VITに全然振ってないとはいえヤワすぎたのだ。


「くそ、来るなってのっ!」


 時矢は苦し紛れにそこらに落ちていた石を拾う。

 同時に装備が両手剣から石に変わる。

 しかし時矢はそんな変化には構っていられず、とっさに石を投げた。

 その投げた石はスライムの方に飛んでいき……。

 『hit!』

 その表示と同時にスライムの上に数字が現れ、そしてスライムは消滅した。


「……え?」


 本日二度目となる呆気。

 武器屋の店員からは、今時矢の持っている剣でなら二、三回も斬れば草原のモンスターは倒せると聞いた。

 しかし今のスライムは攻撃力が高い剣ですらなく、ただのそこらに落ちていた石だ。

 おそらく攻撃力は剣にも届かないだろう。

 なのに。


「何で……?」


 時矢の頭は軽い混乱状態になった。

 剣ですら何回か当てないと倒せないMOBを、ただ石を投げただけで倒せてしまったのだから。

 ただ石を投げて、剣ですら二、三回攻撃しないと倒せないと言われたスライムを倒せた。

 これはどういう事なのか。

 時矢は剣を買った武器屋に向かった。

 我に返った時は装備無しになっていたので、ちゃんと両手剣を装備してからの話だったが。


「ちょっと、店員さん!」


「あ、さっきの。どうしたんだ?」


 店にかけこんだ時矢は、さっき起こった事を話した。

 すると……。


「あー……ひょっとしてアンタ、STR特化だろ」


「え? た、確かにそうだけど、何で?」


「このゲームは確かに人と組んだ時はある程度尖ってた方がいい。けど、最初はちょっとだけでもいいから他のステータスに振らないと全然使い物にならないんだ。例えば攻撃職の場合、STR>AGI>DEXの回避型とかな。多分アンタステータスをSTR全振りにしたろ。それじゃ何回当てようとしても滅多に当たらないよ」


「そ、そんな……」


 時矢は軽い眩暈めまいに襲われた。

 今までやってたゲームでは普通に特化型で最初から遊べてたのに、このゲームでは最初からそうでは駄目らしい。


「wikiとかにもその辺載ってたはずなんだけどなあ……。まあ、命中率を上げる装飾品とかがあるからそれで最初は補えばいい。無いよりマシになるだろうよ」


 そんな事を言われたが、時矢にはもはやそんなものを買う金すら無かった。



 武器屋を離れた後、時矢はこの後どうするかを考えていた。

 作ったキャラが気に入らないならキャラを作り変えればいい。

 しかし、彼はあくまで特化型でいきたかった。

 それにたかがゲームとはいえ作ったキャラをそう簡単に消していいものかと思ったのだ。

 これはあまりにゲームが現実に近いため、数十分だけとはいえ操作して愛着が沸いてしまったのかもしれない。


「……そうだ。さっきは一度当たったんだから、当てるまで攻撃したらいいんだ!」


 発想の転換である。

 なかなか当たらないなら、当たるまで攻撃を続ければいい。

 店員が言うには、そこらに落ちてる石でも投擲武器として装備できるのがこのゲームの自由度のうたい文句。

 なら、質ではなく量、攻撃力の高い剣を振るのではなくただの石ころを投げてやってやろうじゃないかと。

 そう決めた時矢は早速行動に移した。


 再び草原フィールドに出た時矢は剣を一度装備から外して所持品の欄に入れ、石をできるだけ拾った。

 どれだけ持てるかはSTRの数値によるらしいが、そもそもカゲトキのキャラはSTR極振りなので普通のキャラクターより多く持てる。

 石を数十個持った時矢は再び草原を探索した。

 そして、出会ったのはさっきと同じ見た目のスライム。


「よし、じゃあやるか!」


 時矢は早速石を投げた。

 MOBの上に浮かぶ『miss』の表示。

 それでもめげる事はなく何度でも石を投げ続けた。

 その結果……。

 9回目でようやく『hit!』の文字と共にダメージの数値がスライムの上に表示され、スライムは消滅した。


「ふう……大体10回を超えるかどうかってところか……。命中率10%の攻撃とか、ちょっとキツいな……」


 しかし倒せた事は倒せた。

 やりようさえ変えれば要領は悪くてもMOBは倒せると分かった時矢はそのまま草原を探索し、出会ったMOB全てに石を投げ続けた。



 日が傾く頃には、それなりのGが溜まり、レベルも少しは増えていた。

 しかし問題はここからだった。

 実践してみせた通り、今までのゲームでは通用した特化型もこのゲームでは通用しない。

 正確には他のプレイヤーと組むまでは効率が圧倒的に悪い。

 だが逆に。

 他のプレイヤーと組めば、それなりに戦えるかもしれない。

 そう考えた時矢は、念のため見つからなかった場合に備えて増えたステータスポイントを何に振るから保留にし、町で共闘するプレイヤーを探す事にした。

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