~第二の錦織圭たちに贈る言葉(4)~ 『プレッシャーには呼吸法で対応せよ』
〜第二の錦織圭たちに贈る言葉(4)〜
『プレッシャーには呼吸法で対応せよ』
1. まえがき
2016年9月10日、全米オープン準決勝で錦織圭選手がバブリンカ選手に負けた。
実力が伯仲した選手同士の戦い。そこにはプレッシャーとの戦いがあった。
2. 贈る言葉(4)
第一セット、錦織選手は6−4でセットを取り、第2セットは5−7で落とした。
第2セット、錦織選手は第一ゲームをブレークして先行して試合は進んだ。しかし、第5ゲーム、第6ゲームでTV画面に映った表情は苦しそうで、コートチェンジの休憩でベンチに座っていても呼吸が乱れているようであった。
TV解説者の松岡修造氏はコート上の蒸し暑さと連戦の疲れが錦織選手を襲っていると説明していた。
しかし、まだ第2セットの始めころであり、それほど疲れる場面ではないので、私は暑さと疲れの他に、プレーシャーも錦織選手を襲っていると見ていた。その時の錦織選手は息苦しそうであった。試合後のインタビューのコメントでも足が重かったと述べている。
また、バブリンカ選手のコメントでは、試合前からタフな対戦になることは想定しており、第2セットからは錦織選手を走らせて疲れさせるためにいつもより少し速いボールをコーナーに打つことに努力し、無理をしなかったと述べている。裏読みすれば、バブリンカ選手も疲れ、プレッシャーを感じていたので体が重く、得意のバックハンドドライブでエースを狙えなかったと云うことである。しかし、ポーカーフェースを貫き、辛さを態度には見せなかった。
一方、錦織選手はたびたびネットダッシュを試みている。不用意なネットダッシュを何回か行い、返球をネットさせられる場面が目についた。
錦織選手は第2セットの第4ゲームでブレークバックされ2−2となり、3−3となった第7ゲームも0−40で3ブレークポイントを握った。しかし、ここで錦織はブレークに失敗する。5−6となった錦織選手は第12ゲームのサービスで第1サーブが決まらず、第2サーブで不用意にサーブアンドボレーの戦術を実行して、ネットミスさせられ、ゲームを落とす。
第2セットを取ったことでバブリンカ選手は自信を取り戻し、第3セットの接戦を6−4でとる。
第4セットはバブリンカ選手が完全に主導権を握り、6−2で取り、試合は終わった。
この試合、第2セットのプレーシャーに耐え、錦織選手の体力消耗を狙ったバブリンカ選手の勝利で終わったのである。
第2セット、第3セットのブレークチャンスを逃したのが錦織選手の敗因であるが、第2セットの中盤に訪れたプレッシャーに耐えたバブリンカ選手が勝利を得た試合であった。
自分にプレッシャーが掛った時、対戦相手にも同時にプレッシャーが掛っているのである。そのプレッシャーに耐えられた選手が試合の主導権を握って行く。
プレッシャーとは、自分が発する『気(脳波、電磁波)』の波動と、対戦相手が発する『気』の波動が干渉して『うなり』の波動が試合の場に発生し、二人の選手に襲い掛かるのである。
第二セット、バブウリンカ選手の強い『気』の波動が錦織選手の『気』の波動とぶつかり、物理学で云うところの『うねり』の波動が試合の場であるコート上に生じて、二人の選手の固有バイオリズムを乱してプレーシャーを感じさせた。
この時に不必要な動きをすれば、相手にその隙を突かれることになる。兎に角、耐えてボールを返球し、相手が苦し紛れに何か手を打って来るのを待つのが上策である。根競べである。
筆者の経験であるが、試合が始まったばかりの2ゲーム目に呼吸が乱れ、足が重くなって軽快なプレーが出来ない状態に襲われた経験がある。
それほどに相手の返球に振り回された訳でもなく、何故に呼吸が乱れるのかが判らなかった。その試合の相手と勝敗は覚えていないが、数ゲーム後にはプレッシャーは消えていた記憶がある。
この呼吸が乱れる問題を解決すべく考えた出した方法が、空手の『のがれ』呼吸法であった。
空手の『のがれ』呼吸法には、表と裏の二種類がある。
攻撃的な表呼吸法は、「すばやく吸い込んだ息(気)を止め、そのまま臍下丹田に気を下ろす感覚で腹に力を入れる。そして、口から『はあー』とゆっくり吐き出す。これを繰り返す。」
呼吸を整えるための裏呼吸法は、「すばやく吸い込んだ息(気)をそのまま、ゆっくりと口から『ふーう』と吐き出し、すぐに再び息を吸い込む動作を繰り返す。」
余談であるが、打球を放つ時は『いぶき』の呼吸(陰陽の呼吸)を使うと攻撃的になる。
声を出してボールを打っている選手がいるが、あれが『いぶき』の打球法である。
宮本武蔵も五輪書で述べている。『声は勢力なり』である。
私は、表呼吸と裏呼吸を合わせた『のがれ』呼吸法を使いプレッシャーに耐えることにしていた。
追記:面白いプレー
もう一つの準決勝、ジョコビッチ選手とモンフィス選手では『気』を断つ戦術が使われた。
第一セット、0−5とリードされたモンフィス選手は『ロープ・ア・ドープ(麻酔薬を仕掛ける)』と云う手段を取った。
やる気を無くした振りをして、自分から攻撃するのをやめたのである。死んだ振りをしたのである。
ジョコビッチ選手がサーブする時にはレシーブサイドに立っているものの、構えを取らず、ラケットをぶら下げたまま、ボールが来ればなんとなく相手コートの中央に返球する。(これだけでも難しい打ち方であるが・・・)
ストロークのラリーでも、ラケットをぶら下げたまま、棒立ちで相手の返球を待ち、ボールがくると素早く動き、緩い球を相手コートのベースライン中央付近に返球することを繰り返すだけである。
ここで、相手コートの中央に打ち返すことで、ジョコビッチ選手の攻撃ボールが角度を付けにくい様にして、左右に振り回されることを防いでいることに注目すべきである。
ジョコビッチ選手は対戦相手から『気』が来ないので『アンティシぺ―ション』が働く状況になく、ペースが掴めないため、自分のリズムで球が打てずに時々、ショットミスを犯していた。しかし、しっかりとポイントを重ね、第一セット、第二セット、第四セットを取り、ジョコビッチ選手が勝利した。
『ロープ・ア・ドープ』、それは負けている選手が、相手の『心・体・技』の『心』を攻撃する手段である。対戦相手は『心』を乱したために『体』の動きが悪化し、『技』が狂ってくるため、『制していた権』が消えていくのである。
しかし、流石に世界ランク一位のジョコビッチ選手はこれを乗り切った。
もともと、実力差のあるモンフィス選手との対戦であり、結果は見えていた準決勝戦であった。
3. あとがき
お互いが『権を制することができない(主導権が握れない)』試合では、相手の『体』を攻め、疲れさせることが重要である。実力が伯仲する相手との対戦には、どのような方法で試合を進めるかの事前の戦略、戦術を持って臨む必要がある。
心構えが試合を制する。
『諸君の健闘を祈る』
〜目賀見勝利より第二の錦織圭たちへ(4)〜
2016年9月11日
参考文献:
宮本武蔵五輪書 神子侃訳 徳間書店 1963年8月 発行
わが空手五輪書 大山倍達著 講談社 昭和50年11月 第一刷