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私はいつも通り、朝ごはんを食べながらニュース番組を見ていた。
正面には父親がタバコを吸いながら新聞を読んでいる。
殺人事件があったらしい。
被害者はなんと私の通っている高校の生徒だった。
「ユウキくん…!」
私の思っていたことが声になって現れた。
「どうしたんだ?」
父親がそう言うと私の方をチラッと見て、それから目線をテレビの方に向けた。
「お前の高校の生徒か。もしかして友達か?」
私は首を縦に振った。
その時、涙がテーブルに落ちて、初めて自分が泣いていることを知った。
遺体が発見されたのは高校の近くの公園で、そこにある大きな木に足を伸ばして座り、もたれかかって死んでいた。
心臓を包丁の様なもので数回刺された跡があり、両腕の肘から先は切断され、まだ見つかっていないそうだ。
腕の切断部分は斧で切り落とした様な跡ではなく、刃物で肉の部分を切り、骨は糸ノコギリで切断された様な跡だったので、犯人は女性の可能性もあると報道された。
「猟奇殺人事件か…犯人はまだ捕まっていないから、学校が終わったらすぐに友達と一緒に帰りなさい」
父親が言った。
所詮他人事なようで、学校を休めと言われると思ったが、杞憂だった。
私が教室に着くと、教室は不穏な空気で包まれていた。
「ニュース…見た?」
タツヒコがギリギリ聞こえるくらいの乏しい声で聞いてきた。
「うん…ユウキくん…」
それだけで十分会話は成立したようで、タツヒコはまるで足に重りのようなものがついているかのように、引きずりながら席に戻って行った。
何処からか視線を感じたので探した。
マキだった。
じっと私とタツヒコのやりとりを見ていたらしい。
「マキちゃんもニュース見た?」
私は近づいて聞いてみた。
「見たよ。ユウキくん、写真の通りになったね」
マキの眼は輝きを失った漆黒のガラス玉の様な眼をしていた。
「やっぱりあの写真、お祓いした方がいいよね?」
私の問いには答えず、マキは眼の色を変えず、じっと私の方を見つめていた。
「あの写真を撮らなかったら、ユウキくんは殺されなかったのかな?」
突然、マキは言った。
「きっと幽霊か何かの仕業だよ。だって、腕が切られるなんておかしいよ」
私は非現実的なことだと分かっていながら、マキにそう説明した。
マキはまた無言になった。
ユウキが殺されてから2日が経った。
犯人はまだ逮捕されていない。
タツヒコはどうにか登校してきてはいるが、精神的にかなり追い詰められていた。
写真の話は私達3人以外誰も知らないし、お祓いもしていない。
事件以来私達は口数が減った。
このまま高校を卒業するのだろうかと考えたが、そんなことはもうどうでもよかった。
ハチ公前で撮影した写真を見る。
タツヒコは笑っている。
もうこの笑顔を見ることは出来ないのかと考えた。
次の日、事件は起きた。




