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三、彼女達との出会い

「はーい。どちら様でしょうか。」

 ノックに返事をしながらドアスコープを覗く。外には、茶色い髪の美少女と、長身に黒いショートヘアの人物が立っていた。茶髪美少女はもじもじと連れの方を振り向き、ショートヘアの人が口を開く。

「初めまして。あたし、神永(ユキ)ってんだ。引っ越してくるのが見えたから、挨拶がてら少し話したいと思ったんだけど、良い?」

「は、はい! どうぞ。」

 私は慌ててドアを開け、二人を中に招き入れた。

「すみません、まだちょっと、散らかってますけど。」

「気にしないで。これ、差し入れ。コーラとカフェオレとお茶、どれがいい?」

 そう言って幸さんはにこやかにコンビニ袋を差し出す。お互い靴を脱いで室内に上がると、改めて彼女の背の高さに目が行く。170センチ近くあるだろうか。彼女に連れられて入ってきた茶髪美少女も、幸さんの隣では小さく見えるけど、私よりはすこし背が高い。

「どうぞ、座ってください。座布団も何もないですけど。」

「だからお気遣いなくって。新入生でしょ?」

「はい。中田ひとみといいます。」

 豪快に笑いながらコーラを開ける幸さん。大人っぽいというか、姐御肌といいたくなる雰囲気がある。私にお茶を差し出して、同じく袋から出てきたスナック菓子を開けて勧めてくれる。残ったカフェオレを茶髪美少女に渡しながら紹介してくれた。

「この子も、ひとみちゃんと同じ一年生。」

「よろしく。天生(あもう)ルナです。」

 私もルナさんに軽く頭を下げる。ハーフか何かだろうか、少し日本人ばなれした顔立ち。髪も染めている訳じゃなさそうだし、瞳の色も少し薄い。

「あたし、ここの生徒会長とか寮長とかしてるもんで、挨拶して回ってるの。今日はルナを案内する予定だったからここにも連れてきちゃった。」

 幸さんは言う。やっぱり先輩でしたか。それに、生徒会長というのも似合う。一目見た印象として、なんだか頼もしいというか、この人になら無条件で頼っても大丈夫だと思わせてくれる何かがある。

 ……ん? 幸さんの苗字、神永って言った?

「八重さんと同じ苗字なんですね。」

「ああ、親戚だからね。今は養子でもあるし。」

 こともなげに答えた幸さんに、私がぎょっとしたからだろう、彼女は軽く肩を竦めた。

「物心つく前に両親亡くして、でもすぐに光と八重さんに引き取られた。あの人たちに会ったなら分かってもらえると思うけど、八重さんってあったかくていい人だろ。実の子のように良くしてもらったよ。つらい過去なんてこれっぽっちもない。だから、先に言っとくけど、謝ったり慰めようとしたりなんかするなよ。」

 私は、思わず俯いた。それを見たルナさんが慌てる。

「もう、幸さんってば! ひとみちゃん、何も言えなくなっちゃったじゃないですか。いきなりそんな話されても困っちゃいますよ。」

「……違うんです。」

 私は声を絞り出す。

「私も、両親いないんです。」

 何でこんな事を言ったのか、分からない。目立ちたくないと、隠しておこうと思っていたのに。何故か、口からこぼれるようにして、言ってしまった。

「……そうか。」

 幸さんは低い声でそれだけ呟く。ああ、しんみりした空気になってしまった。失敗したなあ。

 と、幸さんが続けて言った。

「あんたみたいな普通の人間がわざわざこの町に来たのは、もしかしてそれが何か関係してるの?」

「はい?」

 幸さんの言った言葉の意味が分からなかった。普通の人間、ってどういう事。言葉の使い方が荒っぽいけど、それが悪口でも何でもないのは、幸さんの口調から分かる。本当に文字通りの意味で使ってるのだ。まるで、「普通の人間」じゃないモノがいるとでもいうように。

 私の反応に、幸さんはハッとして口元を押さえた。

「あ……。もしかして、ひとみちゃん、この町のこと知らずにここに来たんだね? まずったな、初日にいきなりショック与えるのも……でも隠しておいてどうにかなる問題じゃないし、いずれは分かること。説明しておいた方がいいよね。」

 幸さんは半分自分に言い聞かせるように呟いた。ルナさんもこくこくと頷いている。二人は顔を見合わせ、ひとりぽかんとしている私に向き直った。

「端的に言おう。この町は、人ならぬモノたちが多く住む町。この世にありながら、この世ならぬ場にとても近い町なんだよ。」

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