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呪われ少年と悪食な王  作者: 零夜
涙味のスープ
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五口目 雨と異変

「雨だね、そーちゃん」

「そうだね……クラウンは風邪をひくことあるの?」

「ひいたことないね。生まれてから病気になったことはないね。だから一度はなってみたいとは思ってるよ」

「そうなんだ、なっていいことでもないんだけど。……ごめんね、傘を持たせちゃって」

「気にしないで。それが一番早く帰れる方法なんでしょう」


 クラウンと宗が契約してから一週間がたった。転んだり物がなくなったりという小さな不運は続いたが、大きな事故に巻き込まれたりする前に、クラウンが気付き防いでくれたのでいつもより少しだけ平和な一週間をすごすことができた。

 学校から帰る時に突然の雨。さらに突風によって持ってきていた傘が壊れてしまうという災難はあったが。


「まだ痛い?」

「うん、まだズキズキする」


 予備の折り畳み傘をクラウンに持ってもらい水たまりに入らないように慎重に帰る。さりげなく車道側を歩いてくれていて、傘も宗のほうに傾けてくれている。クラウンが濡れてしまうのではないかと指摘したが、このくらい平気とけろりと言われてしまったのでそれ以上言うことはやめた。


 手の甲にある痣をさする。突風が吹いた瞬間に、手の甲にとがったものが刺さったような痛みが走ったのだ。

 傘をさしている手とは反対の手で、同じようにさすられる。ひんやりとした手の冷たさが痛みを和らげてくれるような気がした。


「ところで、壊れた傘ってどうしたの?」

「必要ないでしょう? だから食べちゃったよ」


 けろりとした表情で言われたので、ただそうかとうなずく。一週間,

食べるところを見ていたのだ、もう驚くことはない。

 クラウンが食べたのものは料理、食材だけだったらよかった。明らかにゴミとわかるものや、食べたらおかしくなるといえるようなものも食べていたから。食欲が落ちるので、それ以上は思い出さないでおく。

 

「クラウンって早食いなの?」

「どうして?」

「いつ食べたのかなって」

「あぁ、なるほど。そーちゃんが、ロッカーに予備の折り畳み傘を取りに行ったときに食べちゃったけど、そーちゃんの髪の毛食べるよりはましでしょう?」


 見上げれば、目をゆがませてニタァっと笑うクラウンの顔が。

 こちらの反応をうかがうようなその姿に、撫でる手にそろりと触れれば反射的に手が引っ込められる。


「あー、ごめん」

「その笑い方はやめてって言ったよ?」

「そうだったね」


 忘れてたと笑うクラウンは先ほどまでのゆがんだ笑みではなく、どこか楽しそうなゆるんだ笑顔。先ほどの笑顔は気持ち悪いからやめてくれと頼んだ、宗からあまり触れないという約束をして。どうやら、クラウンは自分から触るのは平気でも、他人に触れられるのは苦手らしい。触れたら触れたで、電光石火の勢いで離れるまたは、叩き落とす。

 自分から手を差し伸べた時などは例外らしいが。


「まぁ、俺は気にしてないし。自分から触るのは大丈夫なんでしょう?」

「うん、それは平気。……雨強くなってきたね」

「明日まで続くかな」

「続くかもね、雲が分厚い」

「やだな。朝だとクラウンに傘持ってもらえない」

「たしかに、今は人の少ないところを歩いているけどほかの人から見たら、傘が宙に浮いているように見えるしね」


 そーちゃんも傘持ってと促され、少しだけ高い位置にある傘の柄を握る。少々不自然に見えるかもしれないが、傘が宙を浮いているという奇妙な現象にしないためにも仕方がない。


「ん?」

「クラウン、どうしたの?」


 返事はなく人差し指が唇の前でたてる。静かにというジェスチャーをすると、顔を左右にゆっくりと動かしなにかを探しているような素振りを見せる。

 宗もすぐに異変に気付いた。

 人通りが少ないとは言ったが、先ほどから誰ともすれ違わない。さすがに、それは異常だった。


「人がいない?」

「もしかして、どこかの『領域』に間違えてはいってしまったかな。めんどくさい」

「領域?」

「え? あぁ、そうか。ごめんね、僕のいた世界での言い方だった。そうだな、誰かの『家』って言えばいいのかな」

「家? ここ誰かが住んでいる場所だから誰もいないの?」

「そうだね。普通の人が入ってこれないように、そーちゃんの家の守りの壁と似たような壁で区切られている場所。私が住んでいた世界で生まれてこっちに来た人が安全にこの世界で暮らすためにね」

「ということは、俺たち不法侵入したってこと?」

 

 いやな予感がして周囲を見渡せば、先ほどまでなかった妙なものが見えた。

 反射的に痣を見た。痛みもなく、赤く輝いていることもない。

 目をこすってみる。

 でも、見えたものは消えない。


「クラウン、あれなに?」

「あらら、気づかれちゃったみたい」


 傘を閉じながらクラウンは呑気な声でつぶやく。

 二人の目の前には水球がふわふわと浮いていた。バスケットボールくらいの水球が前方に無数に浮いている。

 まさかと思いながら、恐る恐る背後を振り返れば


「やっぱり」


 背後にも無数の水球が浮いていた。ゆっくりと上下に浮きながら水球は二人に近づいていくる。

 立っている場所は普通の道路なのに、前後からゆっくりと迫ってくる水球が、今いる場所が異常だということを教えてくれる。

 

「うーん?」


 クラウンは首をかしげながら、宗に手を差し出す。その手とクラウンの顔を交互に見ればいつもの笑顔を引っ込めて目を細める。


「何かいらないものがあったら頂戴」

「ちょっとまって」

「なんでもいいよ。少し試すだけだから」


 クラウンの真剣な声を聞きながら、ポケットを探る。指にコツンと触れたものを摘み上げれば、それは筆箱にしまい忘れていた消しゴム。

 予備はまだ家にあるしと思いながら、クラウンが差し出す掌にポトリと落とす。

 クラウンはポンポンと消しゴムを掌で弾ませると、おもむろに振りかぶり、水球の一つに投げつけいれる。


「うわ!?」

「あ、やっぱり」


 消しゴムは水球の中に入った。入った瞬間に、ジュッという嫌な音を立てて溶けて跡形もなくなってしまう。

 

「あの水球、酸の塊かは知らないけど溶かすみたいだね」

「クラウン……俺、家に帰れる?」

「大丈夫、大丈夫。ちゃんと帰れるから」


 ゆっくりと近づいていくる水球を見ながら楽しげに微笑むクラウン。

 宗はその言葉を信じるしかなかった。


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