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呪われ少年と悪食な王  作者: 零夜
プロローグ 出会いという名の前菜
3/33

三口目 おにぎりと不思議

 胸元が暖かくなる。欠けていたものが戻ってくるような感覚。

 ゆっくりと頭を撫でられた。

 まるで、起きていいよと告げるように。その手の暖かさに誘われるように目を開けた。


「あ、起きた。よかった」

「……」

「いいたいことはわかるけど、晩御飯らしいよ?」


 文句を言う前ににこやかに先手を打たれたので、ゆっくりと起き上がり、ふらふらしながら一階におりようとする。

 が、クラウンがついてこないので振り返れば、私のことは気にしないでと告げられる。


「色々と説明してもらうから」

「わかってるよ」


 パタンと扉が閉められると、座っていた椅子から立ち上がり表情を引き締める。


「さてと」


 目を細めて机の上に置かれている、部屋には不釣り合いの水晶に手を伸ばした。


「……クラウンはいったい何がしたいんだ」


 魂を引っこ抜くなんてことは今まで出会ってきた人たちでも、できなかった。晩御飯を食べ終わった後に、おにぎりを作りながらぼんやりと思う。

 左手の甲の痣を見る。お守りがないせいかいつもよりも痣がはっきりとしている気がする。だが、痛みはない。


「そこも聞いてみるか」


 塩で味付けしただけのおにぎり三つを皿に並べて、二階の自室に。ぼんやりしながら中に入ると、なぜか床でクラウンがうずくまっていた。さすがにぎょっとする。


「クラウン?」

「あ、そーちゃん」

「どうしたの」

「おなかすいた」


 きゅるるっとなんともいえない腹の虫が空腹を訴える音に、思わず吹き出せばうらめしげな目が向けられる。が、すぐに琥珀の目は喜色に輝く。ちょっと不恰好な形のおにぎりに気付いたからだ。


「ご飯?」

「おにぎりだよ、俺が作ったから形は悪いけど」

「ありがとう!」


 パッと花が咲くように微笑んだクラウンは両手で皿を受け取り、ぱくりと一口おにぎりを口に入れる。ポンッと花が舞った気がするのはきっと気のせいだ。イケメンマジックってやつだと思う。


「おいしい。これなんて料理?」

「おにぎりだけど……クラウン食べたことないの?」

「うん、ない」

「へ?」


 思わずまじまじと見つめる。モグモグとおいしそうにおにぎりをほおばるクラウンは気づいて首をかしげる。米粒がついていたので、ひょいと指で掬い取ればそれもパクンと指ごと口に含む。指が食べられると目を見開けば、表情から読み取ったのかそんなことしないよと呆れられた。


「どれだけ食い意地はってるの」

「常にお腹すいてるからね。それにしてもここまでおいしいものは久しぶりに食べたよ」

「普通王様っておいしいもの食べられるんじゃないの?」

「違うよ。私は普通の王じゃないって、最後に食べたのはゴミ(・・)の塊だったか、ヘドロのスープ(・・・・・・・)だったか。だから私は悪食だとか言われてたんだよね。好きで食べていたわけじゃないんだけど。ま、なんでも食べれるから仕方ないしね」

「え」


 何やら衝撃的な発言が聞こえたが、あーんとおにぎりをのせていた皿まで食べようとしていたので奪うように回収する。


「ねぇ、そーちゃん。聞きたいことがあるんだけどさ」

「なに?」

「どうして、私がいろいろやっても驚かないの?」


 クルクルと左のサイドだけ伸ばしている金の髪に指を絡めて遊んでいるクラウンの問いかけに、皿を持ったまま固まる。なんて答えようかぐるぐると悩んでいれば、じっと見つめてくる目が嘘は許さないといわんばかりに鋭くなりチクチクと針のように刺さる。


「なくしたお守りをくれた人とか、家に呪いが入ってこないように守りの壁を張ってくれた人とかがいるから。あと見間違いかもしれないけど、人じゃない物体を見たことがあるから」


 正直に答えれば、針のような視線は緩和されるがなぜか険しい表情になる。くるりと指に髪を巻きつけてほどくを繰り返す。数回繰り返したあと、何かに納得したようにうなずいた。


「そっか、だからそーちゃんが私を見てもたいして驚かなかったんだね」

「いやかなり驚いていたんだけど……それよりも、クラウンが引っこ抜いて掌にのせていたあの光って俺の魂……だよね?」

「おや、よくわかったね」

「なんとなくだよ。渡してはいけないと思ったから」

「ふぅん。あれはそーちゃんの魂を目に見える形で具現化させたもの。ちなみにあれ私が食べちゃんとそーちゃん死んじゃうからね? 今は食べないけどさ」


 思わず胸元に手を当てて後ずされば楽しげに笑う。今は絶対にしないからおいでと手招きされてそろそろとクラウンの目の前に座る。


「クラウンはどうしてそんなことができるの? そんなことができる人は初めてだ」

「私が特殊だからだよ。でも、そーちゃんも特殊だよ。普通は引っこ抜かれたら二、三日は意識不明なんだけどね……その呪いのせいなのかそれとも別の何かなのか」


 後半の言葉はクラウンが声を潜めてしまったので聞こえなかったが、特殊だということはわかる。力を持つ人たちに、口をそろえて"呪われている"といわれてきたからだ。いやでも普通の人とは違うということがわかる。


「今日はいつにもまして疲れているのは、クラウンに魂を引っこ抜かれたせい?」

「それもあるかもね、そういう時は寝るのが一番だよ」

「お風呂はいったら」


 皿と着替えを持ちまた一階におりていく宗の背を見送り、机に向き直ると引出しに触れる。クラウンの手が輝き引出しを貫通する(・・・・)。ずるりと引き抜いたその手には一本の鉛筆が。

 じっとそれを見て品定めした後に、何かをはがすような動きをすればその手には小さな茶色っぽい光の塊が。


「やっぱり、そーちゃんはおかしいというか異常だ」


 光の塊を持ったクラウンの見つめる先には、灰の塊のようなもの。鉛筆はどこにもない。

 口を開けて光の塊を口の中に入れて咀嚼して飲み込む。


「魂が抜けたら生き物は死ぬ、無機物は朽ちるはずなのに」


 宗は死なない。

 いったいなぜだ。


 琥珀の瞳を輝かせたクラウンは困惑気味につぶやいた。


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