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呪われ少年と悪食な王  作者: 零夜
涙味のスープ
19/33

十九口目 罪とコイン

「そーちゃん、なんで地べたに転がってるの? しかも、おでこに傷なんて作って」


 肩に担いだままクラウンはしゃがみこむと、石畳の上で転んだ時の体勢のままでいる宗の額を指でつつく。

 ジンッとした痛みに、顔をしかめ白い指先についた赤を見て額を擦ったのかと理解する。


「転んだ」

「……最後の最後で呪いが発動した?」

「わからない。気が緩んだのもあるかもしれない」


 クラウンの手を借りて立ち上がり、学ランについた汚れを叩いて落していく。手のひらを見れば、赤くなっていたが傷は出来ていないようだ。

 転ぶ瞬間、反射的に両手を出したが勢いを殺すことができず額を打ったのだろう。

 さっきから額がズキズキする理由を理解して宗は一人納得した顔になる。


「それで、この子をどうしたいの」


 ドサリと起きないようにだが乱雑に石畳に転がされた立藤を少女は見下ろし、複雑な表情を浮かべた。クラウンも険しい顔をしているので、交互に二人の顔を見れば同時に溜息をつく。


「まじないをかけられていたとはいえ……」

「でも、罪は罪だよ」

「わかっておる。でも、こうして勾玉が手元に戻ってきただけで妾はよいのじゃ。謝ってもらえればそれで十分」

「……私が納得できないね。本人に自覚させてどうしたいか聞いてみようか。その前に、そーちゃん」

「え、なに?」


 ぽかんと二人の話を聞いていた宗は、突然話しかけられ驚きつつも返事をする。

 何とも言えない表情の少女と、無表情のクラウンに同時に見つめられ、無意識に一歩下がる。


「そーちゃんから見て、この子ってどんな子?」

「立藤? 明るくてちょっとバカだけど、曲がったことや嘘は嫌いな性格をしているかな。あと、俺の呪いのことを聞いても豪快に笑い飛ばして受け入れる懐の広さがあるよ」

「さらっと出てくるね」

「立藤とは中学のころから友達だったから、いつも一歩踏み込ませてくれなかったけどね」

「異人だからということを、隠していたからじゃないの?」


 ツンツンとつま先でつついているクラウンに、やめるように言えば、一度軽く蹴ってから足を石畳におろす。

 蹴られた立藤はうめき声をあげているが、起きる様子はない。


「なんで聞いたの?」

「いや、罪を自覚したら自分を責めるタイプかどうか判断したかったから」

「結構ずるずると引きずるタイプだね。俺に嘘ついたときも、うだうだ悩んでたから、ビンタしたけど」

「そーちゃんって、見かけによらず手が出るタイプだよね」


 私の頭もよくバシバシ叩くし、とぼやくのを無視しながらしゃがむと頬をつつく。

 何度かつついても起きない。


「起きろ!」


 スパンと頭を叩く宗。

 地味に痛いんだよねと思いつつ、成り行きを見守るクラウン。


「いっててて」

「おはよ、立藤」

「あれ、伊集? っとここは?」


 目を覚ました立藤はガバッと体を起こすときょろきょろと周囲を見回し、クラウンを視界に入れるサッと青ざめて後ずさる。

 

「クラウン、何したの?」

「ちょっとかじっただけ」

「へ、は、お前の知り合い?」

「え、かじったの?」

「うん、かじったの。起こしてくれてありがとう、ちょっとどいてね。色々と理解させないといけないから」


 おとなしく数歩後ろに下がれば、入れ替わるようにわざと大股で近づいて距離を詰め、ズイッと顔を立藤の顔を覗き込むクラウン。

 身長差がさらにはっきりするなと、宗は場違いなことを思った。でなければ、白い背中に漂う冷たい空気に耐えらえないからだ。


「この子の勾玉盗ったの覚えてる? あとついでに私と宗を襲ってきたことも」

「俺が、伊集を襲った?」

「襲ったよ。君が目を覚ました瞬間に私に何をした? 覚えてないのならばもう一度さっきと同じことを繰り返すまでだけど」

「覚えてます覚えてます!」

「なら、この子のことは?」


 すっとクラウンが横に一歩ずれると、神妙な面持ちで成り行きを見守っている少女が。

 

「あ」

「思い出したようだね」

「そうだ、俺。ここになんでか知らないけど来て、気づいたら勾玉持ってて、時折記憶があやふやになって……」

「なるほど、これに見覚えは?」


 ぼんやりとしながらも、自分の記憶を確かめるように呟く立藤の目の前に、銀のコインを見せるクラウン。その中央には赤い宝石が埋め込まれており、宗にはその色がはっきりと見えた。


「俺の許可証!」

「返してあげるけど、この真ん中の赤いのに見覚えは?」

「え、ないけど……うわ!?」

「なっ!?」


 立藤の指が伸びひっかくようにして取ろうとした瞬間、急に発光しクラウンの手から離れる。


「俺……?」


 それは猛スピードで宗のもとに飛んでいく。正確には赤く輝いている痣に。

 ゾクリと寒気に身を震わせた宗は反射的に逃げようとしたが、足が縫いとめられたように動かない。さらに左手が勝手に動き、まるでコインを掴もうとする。

 表情が恐怖に染まりかけた瞬間、コインが水球に包まれた。


「え?」

「妾の恩人に手出しはさせぬ」


 凛とした目つきでコインを見つめながら少女は、いつの間にか宗を庇うように立っていた。

 コインは水球の中で、逃れようと暴れる。

 水球の形がグニグニと変わるのを見て、可憐な面差しが歪む。


「なんと、強い力じゃ」

「悪あがきはそこまでだよ」


 白い手を伸ばしたクラウンは水球ごとコインを握ると、躊躇いなく口の中に含んだ。

 三人が驚愕している中、モゴモゴと口を動かし眉間にしわを寄せる。次の瞬間、ペッと石畳の上にコインを吐き出した。その表面には赤い宝石はない。


「クラウン、変なもの食べないほうがいいよ……」

「え?」


 唇をぬぐって首を傾げるクラウンの無言の威圧感に大人しく口を閉じる。

 立藤と少女は硬直していたが、ギクシャクと動き出す。


「俺の許可証返してもらってもいいか?」

「いいけど、彼女にちゃんと謝ってね? 君は重罪を犯しているのに、謝罪だけで許してくれるそうだから。通報せずに」

「だから、もうよいと!」

「罪は罪でしょう? こういうことは、はっきりさせないと繰り返すよ」

「もしかして、その勾玉は許可証なのか?」


 少女が躊躇いがちにうなずけば、立藤は幼い顔立ちをサッと青ざめさせる。

 一人話についていけない宗はクラウンに近づき、袖を引いて意識を自分に向けさせる。


「何の話をしているの?」 

「あぁ、そーちゃんには話してなかったね。実は他人の許可証を盗むのって以前話した、許可なくこの世界に来るとの同等の罪にあたるんだ」

「つまり重罪?」

「そうだよ。盗まれた時点で、警察みたいなのがこの世界にもあるんだけどね、そこに通報するんだ。そして警察が動いて、盗人は捕まり強制送還で刑を執行される。でも、彼は不幸中の幸いなことに通報されてないし、今も彼女はしようとしないから、謝罪すればこの騒動は終わりってなってるのが現状かな?」


 クラウンは冷めた表情をしている。この騒動の決着のつけ方が納得いかないのだろう。あやふやな態度をとり続けることが多いが、本来は白黒はっきりつけたい性格だと宗は知っているからこそ、その表情に納得する。


「俺は大変なことをしたのに……謝ればいいのか? でも、罪は罪だよな」

 青ざめている立藤。


「妾は大切な宝が戻ってきただけでよいのだが」

 困った顔をしている少女。


「納得いかないね」

 冷たい表情をしているクラウン。


 三人の顔を見回して宗は口を開く。

 どこか遠いところを見ているような目で、厳かに言葉を発した。


「ならば、こうしようか」


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