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呪われ少年と悪食な王  作者: 零夜
涙味のスープ
16/33

十六口目 お弁当と理由

「そーちゃん、食べないなら私が食べてあげようか?」

「だめ」

「ケチ」


手作り弁当を膝にのせてぼんやりとしていた宗は、横から伸びてきた手をぺしりと叩いた。対して痛がることもなく手をひっこめたクラウンは、きゅるると腹の虫を鳴らして訴える。

 弁当を入れていた袋から、ラップに包んだおにぎりを二つ取り出して差し出せば、ぱっと華やかな笑顔になった。まぶしいと思いつつ、差し出した両手の上におにぎりをのせてやった。


「いただきまーす」

「いただきます」


 昼休み。

 宗はクラウンと話をするために、校舎裏のあまり人が通らない場所に来ていた。何故かベンチが設置してあり、日当たりもそこそこいい場所である。

 昼休みを過ごす声がどこか遠くに聞こえるが、静かすぎるのでここが学校だということを忘れそうになる。


「そーちゃん、この場所ってどうやって見つけたの?」

「入学したての時に、人がいない場所を探していたら見つけた。あ、中身梅干しだけど、クラウン酸っぱいの大丈夫だっけ?」

「平気だよ。もしかしておにぎりって、そーちゃんが作った? この間もってきてくれたものと形が似てる。」

「よくわかったね。母さんに頼むのもなと思ったんだ。訳を聞かれたけど、最近よくお腹がすくって誤魔化したら育ちざかりだからねって納得された」

「しっかり食べないと大きくなれないよ?」

「昔、食中毒になりかけて以来、あんまり食欲がわかない」


 色とりどりのおかずの中から、少し焦げ目の付いた黄色の卵焼きを箸でつまみあげて口の中に放り込む。少しだけ目元が緩んだが、変化はそれだけだった。

 クラウンも、珍しくラップをはがしてから白いおにぎりにかじりつく。一口が大きく、梅干しまで口の中に入ったようで、キュっと目を細めた。


「そうそう。そーちゃんになぜ彼の髪の毛が金色に見えるのか、わかったよ」

「その理由は?」

「それ」


 クラウンが示したのは箸を持つ左手。正確には、手の甲の痣。

 目の高さにまで左手を持ち上げ、痣とクラウンの顔を見比べる。

 唇の端についた米粒を舌でなめとり、二口目をかじりつき咀嚼しながらクラウンは説明を始める。


「彼は変化のまじないを二重にかけている。その一つが呪いに引き寄せられているから、そーちゃんには彼の髪色が金に見えるっていうわけさ。あ、私も見抜いたからすでに金に見えるんだけどね?」

「意味が分からない」

「呪いとまじないだとね、呪いのほうが周囲に及ぼす影響力が強い。簡単に言うと、そーちゃんのこの痣に彼のまじないが引き寄せられて、そーちゃん自身にかかっていたということだよ」

「つまり、立藤が自分にかけていたまじないが呪いに引き寄せられて、変化のまじないが俺にかかっていたから、金髪に見えていたってこと?」

「大正解」


 一個目のおにぎりを三口で食べ終わり、隙ありと卵焼きを奪うと口の中に放り込んでしまう。卵焼きの甘さにゆるんだ顔を眺めつつ、ご飯を口の中に入れる宗。

 そこで会話が途切れ、二人が昼食を咀嚼する音だけがその場に響く。

 弁当の中身が残り三分の一になったところで、クラウンがポツリとつぶやいた。


「そーちゃん、あの子人間じゃないよ」


 ぴたりと、ほうれん草のおひたしに伸ばされた箸が止まる。が、すぐに動きだし深い緑がプラスチックの白に挟まれ宗の口に運ばれる。

 少しゆっくりと咀嚼し、ゴクンと飲み込んだ宗は頷いたた。


「知ってる。立藤が普通の人間じゃなことは」

「まじないのことで驚いてなかったね、そういえば。……彼は私と同じようにこの世界にきた異人だよ」

「でも、数少ない友人だから。俺の体質というか呪いも理解してくれているから、異人でも構わない」


 弁当の残りをかきこむ宗の瞳が大きく揺れる。

 口の中に丸めたラップを放り込み、飲み込んだクラウンはそれに気付くが何も言わない。

 どんなことがあったかを言わない。だから聞かない。

 クラウンがどんな生活をしていたのかは告げない。だから問わない。


 二人の間にいつの間にかできていた無意識の約束事。

 お互いに問いかければきっと素直に答えるのだろう。だが、まだ透明な壁が二人の間にある。

 分厚くはない、力を込めて触れればパリンとあっけなく壊れる。

 だが、二人はまだその壁に触れようとはしない。


「宗。助けてあげるけど、わかっているね」


 ポツリとクラウンの声が、また落ちた。

 弁当箱を片付けながら、琥珀の目を見上げれば影になっていることも相まっても恐ろしく見えた。光のない、その眼はまるで色のついた硝子玉のようで、普段の宝石のような色は見る影もない。

 ぞっとした寒気が宗の背中を撫でたが、表情を動かさずにまるで睨むように見つめ返す。


「なんでも食べていいっていう、約束忘れないでね」


 白い手が伸び、日に焼けていない頬をなでた。

 ひんやりとした温度が、頬の温もりを奪って離れていく。

 太陽を背にしたクラウンは静かにほほ笑むと、コートを翻して宗から離れていく。


「ちょっとだけ離れるよ、授業中はいなくて大丈夫でしょ?」

「一応」

「わかった、放課後までには戻るよ」


 ひらりと手を振ると、地面を蹴り浮かび上がる。

 そのままどこかへと金の髪を揺らして消えてしまうクラウン。


 白と金を視界に焼き付けた宗は、撫でられた頬を自分の手でなでると溜息を吐き立ち上がる。

 

「やっぱり、クラウンことはまだわからない」


 吐息交じりにこぼした言葉をその場に残し、教室へと戻った。

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