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episode 5 白い少女と黒い大男〈3〉

 「見つけた! そこかーっ!!」


 何をどうすればそんな音が鳴るのか、凄まじい音と共に白い少女が現れた。

 幸いなことにその音に驚いたのか暗い球は祐一を逸れてすぐ横に着弾した。


 先ほど同様怒り心頭で祐一を睨みつけた少女だか、血まみれで倒れているのを見てすぐさまもう一人の黒い男の方に目を移す。何事かと口を開こうとしたように見えたが、先に口を開いたのは大男の方だった。


 「想定より早く発見されてしまったな。私ともあろうものがこんな餌に釣られてしまったか」

 男はもはや藍里祐一(あいさとゆういち)を生きている人ではなく、物のように話を続ける。

 「で、どうする。ハートマンの娘。私を連れ出してもその呪いは解けんぞ」

 少女は一瞬「何を言っているの?」という表情をするが、すぐに合点が言ったのか声を荒げる。

 「分かったわ! あなたが呪いをかけたのね。じゃあ、その男は何よ?」

 「まさか気づいて私に接触したわけではないのか? じゃあこいつは何だ?」


 血まみれで息も絶え絶えな祐一を挟んで、これは何だとお互い声を出す。


 「俄然興味が湧いた。全く無関係な一般人が呪いを弾いて今も生きようと心臓を動かし続けている。持ち帰って解剖とホルマリン漬けだな」

 何やら物騒なことを話しているが、当の本人は意識朦朧で話が理解できているのか。

 「呪いの元凶がわかったならやることは1つ。分かるわよね魔術師。それに勘違いで巻き込んじゃったけど一般人を守るのも私の役目よ」

 「ハートマンの娘よ、中から出てきたばかりで力を発揮できない状態で勝てるかな?」

 「試してみる?」

 お互いに不敵な意味を浮かべる。

 「じゃあーー」

 ”死ね”という言葉は聞こえなかった。男の前に瞬間移動したように移動した少女の左手に握られた小刀が言葉の代わりに振られていた。

 脇差よりも少し短い程度の長さしかない小刀が大男を一瞬で袈裟斬りにする。


 「力がなくとも妖刀の力は健在か。当たらないように注意せねばな」

 切られたはずの男の体が煙になって、また1つになったかと思うと元の男の姿を形作る。

 「見た事のない魔術ね。まあ私魔術には疎いんだけど」

 特に驚くこともなく少女は小刀を構える。

 「そんな便利な魔術なら切り続ければそのうち魔力切れで消えるでしょう」

 「その前に終えるまで」

 少女はまたも消えたかのような速度で男に迫る。

 小刀を振り、男が煙になるさっきと同じ構図。唯一違ったのはーー

 「うっ」

 小刀を振り切った後に少女がくの字腰を折って倒れたこと。

 「何これ?」

 少女の口から血が滴る。

 「お前の攻撃は私に当たらない。私の攻撃はお前に当たる。これがこの戦いの構図だ。力を戻っていないお前に抗う術はない」

 男の言う通りだが、少女の闘志はまだ衰えてはいない。口に溜まった血と唾液を吐き出し、男の目を睨みつける。


 まだ負けていないとばかりに同じ様に高速移動から斬撃を繰り出す。今度はヒットアンドアウエイ。攻撃の後すぐに回避行動に移る。男の攻撃は目に見えないが、高速で動き続ければ回避もできるだろう。


 少女の想定通り攻撃は当たらないが、それは少女の側も同じ。

 お互いの限界がどこまでなのかは分からないが最初の倍以上の範囲を動き続けなければならない少女の方が疲労感は顕著に現れている。


 「はあ、はあ、はあ。あんたいつまで消え続けられるのよ。面倒臭い」

 確かにそこに存在しているし気配もあるのに大男には一擊たりとも当たらない。

 「もう限界か? 私はまだまだ戦える」

 「私だってまだまだ余裕よ。速度だってあと3倍は出るわ」

 「それは恐ろしい。じゃあそろそろ終幕としよう」

 ニヤっと男が笑ったと同時。

 「えっ?」

 少女は背後から衝撃を受け顔から地面に叩きつけられた。一瞬遅れてドンと鈍い音が駐車場に響く。普通なら明らかに致命傷だが、少女は確かな意識を持って立ち上がろうと膝を立てる。

 ふらりとしながらも立ち上がり男を見る。

 何が起こったのか分からなかった。目の前で男は棒立ちしていただけ。呼び動作の1つもなかった。

 離れた場所からの不可視の攻撃。

 「3倍で動くのだったな。やってみろ」

 挑発する様にまたもやニヤリと男が笑った。

 「この野rーー」

 発言する(いとま)もなくまた不可視の攻撃が彼女を襲った。今度は無防備な腹への一撃。

 今度も大男が動いたようには見えない。

 倒れまいと踏ん張るが直立することができない。

 「はあ、はあ、はあ、うっ……」

 ダメージを受けすぎたのか膝に手をついた状態から立ち上がることもままならない。

 「もう終わりだな。無理に世界を飛び越えるからそうなる」

 男は背後に一つだけ残した最後の暗い球を動かし少女へと照準を合わせる。

 「せめてもだ。こちらには死体を残さぬ様に殺してやる」

 野球ボールほどだった球が言葉とともに大きくなっていき、人一人包み込められるほどの大きさの球で固定された。


 今や発射されるのかという時、声が聞こえた。


 「お前死にたいのか。違うなら生き残るために力を貸せっ!」


 顔をゆっくりと動かし少女の目に映ったのはさっきまで死に体だった少年がいつの間にか自分の小刀を持って男を睨む姿だった。

 「あんたーー」

 少年が横目にもう一度声を発する。

 「もう一度聞く。お前死にたいのか!」

 死にたくない。世界を飛び越えた途端呪いにかけられて、何もなさずに死ぬことは嫌だ。

 考えるより先に声を出していた。

 「こんなところで私が死ぬわけがない!」

 立ち上がって少年に怒鳴りつける。

 直前まで満身創痍だった体に鞭打って立ち上がりもう一度怒鳴りつけた。

 「あんたこそ私に力を貸しなさい!!」


 その声を聞いて、少年はニヤリと笑い小刀を大男に向けた。

 「もう逃げない、これは生きて帰るための戦いだ」


 

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