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episode 3 白い少女と黒い大男〈1〉

2018.04.04 プロローグの中身を一部変更。

 定期大掃除も滞りなく終わり、後は帰るだけとなった昼下がり。

 そういえば昼食を持って来忘れたことを思い出し、明日からの買い出しも含めて町の方に出ることにした。

 

 学校から見ると自宅の向こう側にある傘上町(さんじょうちょう)

 田舎とまではいかないが山と海に囲まれたこの地域には大きな町は3つしかない。

 北には学校のある美傘町みかさちょう。南には傘松町かさまつちょう。そして今から向かう中央の傘上町。

 傘上町には地域内唯の一ショッピグモールやアミューズメント系の施設もいくつか揃っている。

 山と海に囲まれ遠出するのが少々大変なこの地域にとって傘上町は多くの人にとって毎週行くのが当たり前のような場所となっている。

 

 学校最寄の駅からゆらゆらと電車に揺られながら約三十分。

 帰りは歩いて帰ろうかなと考えたり、げらげら笑う大学生集団の会話を聞いていると目的の傘上町にすぐ着いた。

 

 (流石に人が多いなあ)


 今日は土曜日。

 家族連れやカップルで普段よりたくさんの人で賑わっている。

 人混みに忌避感があるわけではないが、好き好んで入って行く趣味はない。

 普段なら本屋にでも寄ったりするのだが今日は昼食用の弁当を買ってすぐに帰ることにした。


 ショッピングモールの中から飲食物の販売している区画に向かい、弁当を手にレジに向かう。

 時刻はすでに十四時三十分昼食の時間からは時間が過ぎてしまっている。

 体がエネルギーを求めていることを空腹感と腹からの音で藍里に知らせている。


 (限界だ。どっか公園で食べていこう。天気もいいし)


 せっかくの休み。花見の季節からはすこし外れてしまったが公園で食べるのもいいだろう。


 そんなことを考えて公園の方に足を向けると、ふと人混みの中のぽっかりっと空いた空間を見つけた。

 今日は休日で天気もいい。普段よりも多くの人でごった返す中、なぜかその空間にだけ人が寄り付かない。

 まるで川の流れが大きな岩を避けて下って行くかのように人もその空間を避けていく。

 祐一は半径三メートルくらいのその空間がなぜか無性に気になった。


 (何かあるのか? こんなに人がいるのにみんな避けてく)


 歩調を早めて近づいて行くと、何か懐かしくて温かいような寒気のような変な空気を感じた。


 (なんだこれ、まるでこれは)


 十年前のことを思い出す。

 あの時も変な雰囲気を感じてその後家族が消えてしまった。同じ感覚。

 ただ昔よりももっと濃く感じる。


 心臓の鼓動が早くなる。逃げたい気持ちも湧いて来るが、歩みは止まらない。

 この先に失くしたものがあるんじゃないかと言う感覚がなぜかある。


 人の流れを抜けて、空いた空間の目の前まで来た。


 ?


 なぜ気づかなかったのか、円のような空間の中心に女の子が佇んでいた。

 同い年くらいだろうか、白いセミロングの髪と整った顔立ち。黒の長袖のドレスがコントラストになって整った顔立ちをさらに強調させている。


 十人通れば十人が振り返るような少女に誰も見向きもせず、近づきもしない。それがこの空間の異質さをさらに際立たせている。


 祐一が呆けて見ていると、どこか遠くを見ていた少女の目がスッとこちらに向いた。

 一瞬目が見開いた後、少女の口が開いた。


 「お前か?」


 ポツリと一言漏らした後、彼女の手にいつの間にか握られていた小刀を僕に向けた。


 「お前か?」

 

 ギョッとした。

 同じ言葉をもう一度聞いただけなのに、先ほどとは違って明確な敵意を感じた。 


 瞬間、その場でゆらりと揺れた彼女が、一瞬で目の前に現れた。

 

 「お前だな」


 僕の平々凡々とした日常は終わりのようだ。


2018.04.04 プロローグの中身を一部変更。

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