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episode 8 ルイサ・ハートマンという妖精術師

 聞きたいことがあったが仕方がないかと倒れた少年を見ながら少女ルイサはため息をついた。


 これからどうしようかと思案しているとカランという音とともに少年の手から小刀が落ちる。

 本来自分が認めた人以外には握れないはずだったのだがこの少年はどういうことか問題なく握っていた。

 ルイサが大事そうに拾って気づいたが小刀から妖力が完全に抜けきっている。この小刀には肉体活性と切ったものを防御を無視して裂くことの出来るという破格の能力が付加されていた。

 時間をかけて妖精達と自分で作った小刀だっただけに少し悲しくなるが天寿全うしたんだろうと納得する。


 取り敢えず治癒を行おうと少年の方に目を向けるとーー


 「は?」


 失くしたはずの腕が生えている。

 思わず声を出してしまい、ルイサは信じられず新しく生えた腕に触れると慣れ親しんだ妖力を感じた。

 (これは妖刀の力が流れ込んで形成されている。それに……)

 それに、微量だが妖精の力を感じる。妖精自体は身の回りに有り触れて存在するもので珍しいものではないが妖精体が人間の体になることはありえない。違う生き物同士でキメラを作る方がまだ成功の可能性が高いくらいだ。


 (こいつ本当に人間? 呪いの力も効いてなかったみたいだし)

 少年の腕は妖刀の妖力と妖精が混ざって生え変わっている。イレギュラーがあったのかこの少年の力なのか。

 起きたら問い詰めることが増えた。

 だが、失った腕の治療のことを考える必要はなくなったのは有難い。


 一先ず倒れた少年の治癒を行い、少女は今までのこととこれからのことを考えることにした。



 ーーーーーーーー


 ルイサ・ハートマンという少女は妖精術師(フィンマフター)だ。


 妖精術師(フィンマフター)とは精霊のかけらから生まれた妖精から力を借りて自然現象由来の力を使う術師のことを指し、自らの体内の魔力を使って術を行使する魔術師とは違う存在である。


 この世界は精霊達の住む精霊の世界(ガイストウェルト)と生き物が住む人間の世界(メンシスウェルト)から成り立っており、妖精術師(フィンマフター)だけが精霊の世界(ガイストウェルト)を妖精の力を通じて認識することができる。

 ちなみに精霊の世界(ガイストウェルト)から落ちてくるかけらが妖精となり人間の世界(メンシスウェルト)の自然界にを漂っている。

 

 ルイサは妖精術師(フィンマフター)の中でもかなり力の強い術者で、若くして世界のバランスを正す役割を担っている。


 普段は環境破壊で減少した自然に由来する妖精の手助けをするのが仕事だが今回は違った。

 魔術師が妖精をとらえる実験をしていると報告があったのだ。妖精と一般人の保護もルイサの仕事だが久しくそんなことは無かった。


 久々の荒事だったがそれでもルイサに心配はなかった。


 妖精の力を借りる妖精術師(フィンマフター)と違って体内の魔力を使う魔術師の方が術の自由度は高いが術の力は遥かに劣るのだ。

 ゆえにルイサに警戒の必要はなく観光気分でこの日本にやってきたのだ。


 (こんなことになるとはね)


 簡単な仕事のはずだったのに着いた途端罠にかけられ、呪いまでかけられた。

 妖精術師(フィンマフター)達が隠れている『中』と呼ばれているところからこちら側に移動した直後は力が弱まってしまう。

 その時を狙われあっさりと呪いにかかってしまった。


 詳しくは魔術師に聞かなければ分からないが、認識阻害の術だったのだろう。誰も自分に気づかず避けていく。生まれて初めて妖精を感じることもできなくなり、仲間との連絡もできず途方にくれていたところで少年に出会った。


 日本に来てから四日は経っただろうか。まともな食事もせず神経もすり減り、自分を認識した少年を敵だと早とちりで襲ってしまった。

 少年が投げつけて来た弁当に気を取られ逃げられてしまったが空腹でなければ、うっかりで少年を殺してしまっただろう。

 

 追いかけてみれば少年は腕が無くなり倒れていた。

 魔術師の予想外の力に負けそうになったが、少年の力に()しくも助けられ、退けることができた。

 

 今回は何とかなったが、影や分身の力は本体より劣るはずなので、次にあの魔術師と先頭になればさらなる苦戦を強いられるだろう。

 いくら相手が術のフィードバックで負傷しているとはいえ、今のルイサでは万に一つ勝つことはできない。

 

 さらにいうならば未だ呪いは解けず、まともな休息をとる術もない。

 呪いはあの魔術師を殺すか魔術師自身に解呪させると消える。


 ルイサの唯一の活路はなぜか認識阻害の呪いが効かず透明化していた魔術師を見つけることの出来たこの少年を頼る他ないのだ。


 何はともあれこの少年が起きるのを待とう。 



 

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