Prologue
2018.04.04 プロローグの中身を一部変更。
走る、走る、走る。
逃げるために――現在から、恐怖から、あれから……
「っはぁ、はぁっ、はぁ!」
僕はしんと静まりかえった遊園地の中を一人で走っている。
藍里祐一は七歳の男の子だ。本来遊園地で一人でいると「迷子かな」と声をかけられることもあるだろうが、いまこの場に気にかけて止める人はいない。
既に両足は鉛のように重くなっているが、そんなことお構いなしに走る。
のどが焼けるように熱く、口の中では血の味が広がっている。
「っはぁ! はぁ! たす…けて」
周りには誰もいないが、無意識に声が出てしまう。
目には涙、脳裏にはさっきの映像が溢れかえっている――――
――――強烈な光が夜空から目の前に放たれたかと思うと、瞬間的に大きな赤い何かが見えて。次の瞬間には周りが煙だらけの惨状へと変わってしまった。
目の前には煙、煙、煙。
煙のせいで目の前は何も見えない。
周りから悲鳴が聞こえたかと思うと、一瞬でその音は消えた。
今は真逆の静けさと冷たい空気が遊園地を包んでいる。ただただ頭の中の非常ベルだけがうるさく鳴っている。
「父さん! 母さん! 優紀!」
父、母、妹がいない。気が付いたのはすぐ後だった。
さっきまでは確かにいたはずの両親と妹を捜す。
煙はかすれ、霧のようになっている。
さっきよりは視界がきくがやっぱり見にくい。ぼんやりと見える周囲には自分の家族どころか、他の家族や係員の姿もない。
僕は、頭では何も考えずに恐怖という感情だけを胸に秘め、行く当ても無くただ走った。
そして、僕は見た。
(赤い…巨人……)
距離があるため、ちゃんと見えないが、メリーゴーランドの角をまがった先に四メートル…いや、五メートルはある人型の何かがいた。
それは、霧がかっていてほとんど見えないが、頭の部分には角のような物、影だけで分かるような、がっしりとした巨躯、そして全身は赤黒い色。
連想するのは以前にテレビで見たキングコング。しかし、それよりずっと禍々しい。
それに、これはフィクションでなくリアル。頭の非常ベルがより強く鳴り響く。
『あれは危険だ』と体が言っている。
幸いそれはこちらに気付いていない。
ばれないうちに、と思い僕は逆方向に走った。怖かった、ただそれだけ。
どれぐらい走ったのだろうか遊園地の出口が遠い。そう感じたのは錯覚だろけど、十メートルが五十メートルにも百メートルにも感じてしまう。それ程にも足が重く、心が重い。
どんっ!
「えっ!?……」
最後の角をまがって、もうすぐ出口に着くというところで、何かにぶつかった。
誰もいないと思っていたし、障害物も無いと思っていたから急なことに驚いて、盛大に転けてしまった。
目線を地面から斜め上に移す。
目の前に2メートルはありそうなロングヘアーの大男が立っていた。
「……なぜヒトがここに? 外から紛れたか? まあ、いいか。今はかまってる暇は無い」
「っ…あ、あの……」
訳の分からないことを言っている大男に声をかけたが、僕の言葉を無視して行ってしまった。
やっと大人に会えたのに、大男の身に纏う空気の前に声をかけることすらできなかった。
あれは、まるで……
少し思うことがあったが、余裕の無い僕は構わず走り続けた。
かなりの距離を走って、やっとのことで出口が近づいてきた。
「はぁっ、はぁっ、やっと……」
回転式の扉に手を掛ける。
その時――――
グルルァァァァァァ!!!
「えっ!?」
さっきと似た閃光を目にし――僕の意識は――闇に落ちた。
2018.04.04 プロローグの中身を一部変更。