第94話 フィジカルブースト薬だな
横穴から飛び出す。ふと上を見ると龍と目が合う。
「なんか目があってる気が」
「釣れたか」
龍が急に動く、こちらに向かっている気がする。
「………釣れたみたい」
「はっはっはっはっ釣れたな」
「ついてこい、罠にかける」
マイヤーが駆け出し、それについて行く。それにつられて龍もついてくる。
「こっち来るのかよ」
「まあ、釣ったんだからついてくるわな」
「速く、できる限り速く」
上下運動が多く、曲がる所が多い塹壕を全速力で駆け回る。命懸けだからかなり速く走っても向こうの方が速い。
「………タナカ」
後ろから押され倒れる。上を見ると龍が通り過ぎていく。
「こわっ」
だがそれに意も介さず、ドワーフの長っぽい人は背中に背負っていた巨大なハンマーを叩き付ける。金属音。
「堅いなぁ、これはいい武器ができそうだ」
そうこうしているうちに龍は通りすぎる。それを見て立ち上がり走り出す。
「そう言えば罠ってなに」
「それは」
マイヤーが少し高いところに上がる。それに続いて上がると広い空間に出る。
「って塹壕から出たの」
「ああ、そしてここが」
龍がこちらに舞い戻ってくる。マイヤーは何かするようすもない。
「ここなら本気でやりあえるな」
ドワーフの長っぽい人はまたハンマーを構え、龍と自分の間に立つ。
「………私が」
更にドワーフの長っぽい人と自分の間に盾を構えてメリベルが入る。龍は動きを変えずにこちらに一直線に向かってくる。
「クロスファイヤーポイントだ」
回りから重機関銃のS5が大量に現れる。
「伏せろ」
そう言われ伏せる。伏せるとそこは少し窪んでおりギリギリだが隠れられる。だがドワーフの長っぽい人は伏せない。
「こんな面白いことやめられるか、構わず撃て」
むしろ気にせず、構わず突っ込む。
「注意して撃て」
S5が重い音を上げて射撃が始まる。
「うおーーーー」
金属音。射撃音が止むことなく、だがそれにも意も介さず龍は進む。だがほぼ真上に来たとき。
「『う、gyaaaaaaaaaaaaaaaaa』」
耳に突き刺さるような叫び声が真上からする。意識が飛びそうになる。通りすぎると転がるように塹壕に戻る。
「う、ううう」
「………タナカ、………………大丈夫」
「メリベルも危なそうだけど」
「………私は、ごめん少し休む」
「おいタナカ大丈夫か」
マイヤーが来る。ついでに伝令が。
「敵の目に命中、効果は甚大。ですがあの辺りの塹壕が崩壊再度使用まで時間がかかります」
「救助班があるだろう、彼らに救助を急がせろ、被害は最小限に、復旧は後回しにしてもいい」
「はっ」
そう言うと伝令が去る。
「2人とも怪我は」
「ない」
「………私も」
「そうか、後は」
「すごい叫び声だったな」
ドワーフの長っぽい人が来る、傷は少しはあるが重たいものはないが、ハンマーだけはなくなっていた。
「よく無事だったな」
「あんなところにも穴があったんだな、後で埋めておくんだな」
「気が向いたらな」
「だが、もっと力が必要だ」
「そんな都合のいい薬は」
『あるじゃないかしかも自分に効くような強力なやつが』
一応不正になることを恐れて日本語に切り替えるのだが、マイヤーの顔が優れない。
『いや、そのなあの薬、えっと、ただの苦いだけの液体だったんだが』
『えっ、だって体が軽かったし』
『たぶん精神的なもんじゃないか』
つまり思い込みで体が軽くなっていた気分になっていたようだ。
『要するにフィジカルブースト薬だな、効果は個人差がありそうだ』
『知りたくなかったよ』
少し落ち込むが気にしてはいられない、戦闘はまだ続いているのだから。




