第91話 負けたよ
目を閉じる。
「なっ」
衝撃。バランスを崩す。後ろに倒れる。
「どうしたんだよリヒターさっさと殺せよ」
「そうだそうだ」
「殺せ殺せ」
その後は殺せのコールが続くのだが、コールが聞こえている。つまりまだ生きている。
「もう1回だ」
顔にまたハンマーが叩きつけられる、避けられるわけもなく当たるのだが衝撃を受ける。だがそれだけだ。
「なにやってんだよ」
「いたぶってんのか」
リヒターの顔を見ると必死だ、つまり全力で打ち込んだハンマーが顔の横で止まっている。
「くそっ、なら」
リヒターが一旦離れる。
「リヒターが押してたのに仕切り直すのか」
「早く立てよ」
「なにいつまでも座り込んでるのかよ」
足元に落ちている、剣の柄をとる。少し重い。だがすぐに軽くなり持ち上げると刃が付いている。今更ながら思い返すとスライムの装甲服を纏っている、だから防げており、刃が付いているのは前に剣に化けていたことがあったのでそれのためだろう。だが騒がしかった会場が静まりかえる。
「おい、折れたよなあれ」
「折れてるよ、あそこに刃が」
「てことはあの剣は勝手に直るのかよ」
驚きが広がっていく。
「ふざけんな、あいつがそんな剣を打てるか」
リヒターが突っ込んでくるのだが、防げると言う気持ちが自分を落ち着かせてくれる。さすがに腕に直撃されたら折れたりして危ないから余裕はそれほどない。
「くそ、なんなんだ」
だがリヒターは怒りのためか攻撃が大振りで避けやすい。
「なんなんだよその剣は」
今度はこちらが避ける、さらに避ける。
「何であいつが、あんなやつが」
今度は剣で受ける。
「折れろよ、そんな剣なんか」
今度は剣に集中砲火が。何度も何度もぶつけ合う。
「折れろ、折れろ、折れろ」
何度も何度も打ち合う。そしてついに折れる。今度は黒いものが飛んでいく。ハンマーヘッドだ。
「折れた、だと」
まだ折れていない剣を突きつける。
「投降して」
「…………殺せ」
抵抗するつもりはなさそうだが武器を手放そうとはしない。
「さっさと殺せ」
「いやだ」
「なら」
リヒターは突きつけられた剣をつかもうとするのだが、溶けるように無くなる。
「………………ははははははははは、負けたよ俺の負けだよ」
会場が最大級の歓声に包まれた。




