第9話 ただの金の無い冒険者なんだが
朝を向かえる、清々しく辺りを警戒しなくてすむ朝が。なにも襲ってくることはなかった、ただ睡眠時間と精神的疲労が溜まるだけであった。
「朝だな」
「そうだな、何もなくてよかったよ」
「そうね、メリベル達も起こしましょうか」
「そうだな」
メリベル達を起こす、ついでにいつの間にか寝てしまっている女の子も。
「おはようございますタナカさん、火の番変わります」
「いや色々あってずっと起きてたから食事作ってくれないか」
「あっはい」
リズが食事を作ってる間にこれからどうするかを決める、簡単にいってしまえば女の子をどうするかだ。
「でこの子どうしようか」
「どうしようかって連れていくしかないんじゃない」
「………つれていくってどこまで」
「だよなそれが問題だよな」
「それなら私の村でいいんではないんでしょうか」
「それでいいんですか」
「ええ、女の子1人位なら村の方も認めてくれるでしょう」
「ならそれでいいか」
女の子に聞くが首を横に振り、イリアにしがみつく。
「まあ昨日の今日でこんな感じなら仕方ないか村まで4日もあるんだからそれまでにどうにかすれば」
「食事ができましたよ」
「ひとまず食事して馬車で話そう」
食事を食べ、荷物をまとめ、火をしっかりと消し、馬車に乗って移動を再開する。何も無いのどかな道だが、問題だけはあった。
「でどうしようか」
「だよね、私達冒険者だから何時何が起こるかわかんないし」
「………かといって村に渡すのも」
女の子がイリアにしがみつく。
「でしたら私達でどうにかすればいいのではないのでしょうか」
「それができればいいんだけどね、お金が」
単純な問題がお金だ、冒険者の仕事が減り自分達が食っていけるだけのお金もない。今だってギリギリなのだ、1人増えただけでキツいだろう。
「ならマイケルさんの村に雇われるって言うのは」
「それが1番いいかもな」
「………それなら私の故郷でも」
「私の家でもいいんじゃない」
「そこら辺はおいおいどうするか決めるとして、1番近いマイケルの村の護衛をどうにかしよう」
馬車が急に停まる。
「何かしたのか」
「タナカ、馬車が止まって3人の男が武器を抜いてる」
「降りるか」
馬車の荷台にイリアとメリベル、女の子を残し、武器を構え降りる。そして、アルフとリズの3人で男達に対応する。男達の馬車は荷台に幌がかかっているタイプだ。自分達のは幌がかかっておらずむき出しだ、だから女の子がいるのは確実にばれている。
「それで何かご用ですか」
「いやな女の子を見かけてないかって思ってな、喋れ無い子なんだが」
「はあそれで」
男が荷台の方を見る。
「その子がいるから引き渡して欲しかったんだが、それより上玉がいるじゃないか」
「で」
「そいつら売らないか、あんたとそっちの剣士の身の安全とかなりの高額の金は保証しよう」
「もし断ったら」
「ただこの剣の錆びになるだけだ、これでも名の売れた冒険者だったんでね、お前らみたいなちんけな冒険者とは」
「だったじゃあ今は」
「奴隷商人だよこれが稼ぎがいい」
「ついでに聞くと売るならいくら」
「お前らの包帯巻き以外は5000G包帯巻きは4000Gって辺りだな」
計1万4000Gほどであるらしい。
「まあ命も助かってこんだけ金が手に入るなら最高だろ」
「だな、だが答えは売らない」
「なんだ金が足りねえのか、だがなそんな交渉はしない、死ね」
斬りかかる、主に自分とアルフに。リズには捕らえようとしているのか舐めきってかかっていくようだ。
「タナカ任せる」
「任せるっておい」
「銃なんてもん使える奴がいるのかよ」
嘲笑われているが気にしない、1番避けにくそうな足を狙い躊躇いなく撃つ。血が飛び散る。
「うぐっ」
自分に切りかかってきた男が倒れる。弾を込め直し倒れた男の背中を踏みつけ、頭に銃口を突きつける。アルフの方を見ると圧倒している、援護の必要はなさそうだ。リズの方を見る。獣人の足の早さをいかして翻弄している。そしていつの間にか後ろに回り込み首をナイフでかっ切る。
「……まあいいか」
アルフの方も終わったようだ。足元の男が喋る。
「全員やられたのか、なにもんだよあんたらは」
「何者ってただの金の無い冒険者なんだが」